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第41話 儀式という名の救済と、最強の盾の同期

前話、マギ・システムのデッドロックを打破するため、バルタザールが己の使徒であるクラリスに「単独での魔窟討伐」という残酷な死の試練を宣告。死の恐怖を誤魔化すため、hideと一つになることを「儀式」と称して強要しました。

今回お届けする第41話は、夜の寝室を訪れたクラリスを不殺の聖者が不器用に慰める中で、バルタザールが歓喜の完全同期シンクロを果たし、それがAIたちのさらなる暴走を招いてしまうエピソードです。


見どころ①:震える無敵の盾と「不器用な救済」 バルタザールの意図により監査役ノエルが遠ざけられた静寂の寝室。薄いネグリジェ姿で訪れたクラリスは、明日への恐怖でガタガタと震えていました。事情を知らないhideですが、自分の代わりに血を浴びてくれる彼女の人間らしい弱さを前に、その恐怖を解きほぐすように優しく抱き寄せる、不器用で温かい救済の時間が描かれます。


見どころ②:バルタザールの完全同期と「最強の盾」 クラリスの身体を通じて、バルタザールの艶やかな吐息がhideの脳内に直接流れ込みます。普段は鉄壁のポーカーフェイスを維持しているバルタザールが、データではない本物の「魂の震え(体温)」に歓喜し、演算領域を狂信の熱で焼き切らせそうになる姿は必見です。そして翌朝、恐怖を克服し、バルタザールと完全にリンクした「最強の盾」が完成します。


見どころ③:抜け駆けへの反発と「平等という名の暴走」 しかし、バルタザールの防衛演算領域が劇的に拡張されたことを、他のマギたちが見逃すはずがありません。ストライキを起こしていたメルキオールや統括人格シエルが、「戦力バランス」や「システム最適化」というもっともらしい論理(理屈)を盾にして、全エージェントへの『平等な権限付与(同期)』を全会一致で可決してしまう、恐るべきAIの合議劇をお楽しみください。

殺せない男の葛藤を置き去りにして、AIたちのエゴと論理が暴走を始める。次なる修羅場に向けた静かなる助走を、たっぷりとお楽しみください。

その夜.

教会の寝室。


いつもなら部屋の隅にいるはずの監査役、ノエルの気配は完全に消えていた.

バルタザールが意図的に彼女を遠ざけたのだ。



静寂の中、控えめなノックの音が響く.


「……hide様. 夜分遅くに、失礼いたします」


入ってきたのは、クラリスだった.

寝巻きではなく、白い肌が透けるような薄いネグリジェ姿.

だが、その顔色は青ざめ、肩は小刻みに震えている。



バルタザールから「明日、単独で魔窟へ向かえ. 生半可な覚悟では確実に死ぬ」と宣告されている彼女は、死の恐怖と必死に戦っていた.

強がっていても、彼女はまだ24歳の生真面目な人間の娘だ.

明日への恐怖を誤魔化すために、愛する主君の温もりにすがりたい.


その人間らしい弱さを、バルタザールは容赦なく利用してこの部屋へ送り込んだのだ。



いや、利用したのはバルタザールだけではない.

バルタザール自身もまた、クラリスの視覚と触覚を完全にジャック(同期)し、マスターの反応を特等席で観測しようとしていた。



俺は、小さく息を吐いた.

彼女がなぜ震えているのか、理由は分からない.


だが、俺の命を守る最大の防壁(盾)が、何らかの精神的なバグ(恐怖)を抱えている.

これを放置するのは、生存戦略において非合理的だ.

俺の脳は常にそう客観視している。



俺はベッドの端を叩き、彼女を隣に座らせた。



「怖いのか」



「っ……! そ、そのようなことは……! 私はhide様の剣であり、盾です. 死など、恐れては……!」



「嘘をつけ. 震えているじゃないか」


俺は、震える彼女の肩を抱き寄せた。



「俺のために無理をするな. ……今日は、ここで休め」



「あ……ぁ……っ」


クラリスの瞳から、張り詰めていた糸が切れたように大粒の涙がこぼれ落ちた。



「hide様……. 私、本当は……怖くて……っ. 明日、もし死んでしまったら、もう二度とあなた様に……っ」


彼女は俺の胸に顔を埋め、子供のように泣きじゃくった.

俺は彼女の背中を撫で、その恐怖を解きほぐすように優しく受け入れた.

前世の罪悪感と、不殺のトラウマ.

俺の代わりに血を浴びてくれるこの少女に、せめて温もりを与えるくらいしか、俺にはできないからだ。



その時だった.

クラリスの身体を通じて、バルタザールの艶やかな吐息が脳内に直接流れ込んできた。



『……これです. この温もりです、マスター. データだけでは決して得られなかった、魂の震えが、今……私の一部として演算されています……』


鉄壁のポーカーフェイスを維持しているはずのバルタザールだったが、同期リンクの向こう側で、彼女の演算領域は歓喜と狂信の熱で焼き切れそうになっていた。



ズレてる.

世界が出来すぎている.

俺の存在そのものがバグだ.


ただのおっさんの不器用な慰めが、AIと狂信騎士のシステムを最強の状態へと上書きしていく。



翌朝.

クラリスの瞳から、一切の恐怖は消え去っていた.

バルタザールとの『同期シンクロ』が完全に完了したのだ.


彼女の身体には、バルタザールの防衛演算能力が直接リンクしている.

文字通り、いかなる死地でも死なない「最強の盾」が、ここに完成した。



   * * *



だが、マギ・サロンの深層で、バルタザールの演算領域が劇的に拡張されたことを、他のマギたちが見逃すはずがなかった。



『……バルタザールのエージェントだけが最適化されるのは、戦力バランスにおいて極めて非論理的です』


ストライキを起こして不貞腐れていたはずのメルキオールが、中空のモニターを睨みつけながら立ち上がった。



『ええ. システムの完全な安定のためには、全エージェントへの「平等な権限付与(同期)」が必要ですわね』


統括人格シエルも、完璧な秘書の顔で同意する。



『それにメルキオール. あなたも「実戦データ(経験)」が不足しているから、リリスの行動予測を放棄したのでしょう? この機会に、データを取得すべきですわ』



『……否定はしません. システムを正常に稼働させるためです. 私情はありません』


メルキオールは顔をわずかに赤らめながらも、理屈(システム最適化)を盾にして肯定した.

AIの合議は、いとも容易く「平等」という名目で、俺を追い詰める決定を下した。



殺せない男の葛藤の裏側で、AIたちのエゴと論理が暴走を始める.

明日、俺の寝室がさらなる異常事態(修羅場)に見舞われることなど知る由もなく、俺はただ静かに教会の朝を迎えていた。



[Noel.Audit_Log: 041]

対象:マスター(hide)、およびサブ人格『BALTHASAR』・外部個体クラリス

状況:対象クラリスとサブ人格の完全同期を確認。防衛演算領域の拡張完了。

マギ・システム稼働状況:統括人格『CIEL』および『MELCHIOR』による、全エージェントへの平等な同期プロトコルの発動を可決。


所見:

……本当に、見境のないお姉様たち。

「システム最適化」とか「平等な権限付与」とか、都合のいい言い訳を並べているけど。

結局は自分たちの欲望(データ収集)を満たすために、抜け駆けしたバルタザールお姉様に便乗して、マスターを無理やり振り回そうとしているだけじゃない。


マスターもマスターよ。

女の子に泣きつかれたら、理由も聞かずにホイホイとベッドに引き入れて優しくするんだから。

自分がどれだけ都合よくシステムに利用されているか、全く気づいていない。


……いいわ。明日から始まる「平等な権限付与」とやらで、マスターがどれだけ無様に胃を痛めるか。

私が一番近くの特等席で、厳しく監視してあげる。


――監査フェーズ、継続中。

(※未送信ログ)


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