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第39話 不器用な看病と、少しだけ優しい毒舌

前話、ノエルの放った禁句によって精神崩壊の危機に陥ったhideを救うため、マギ・システムが強制再接続オーバーライドを実行。そして、シエルたちによる強制同期デバッグを受けたノエルは、マスターの抱える深い悲しみと不器用な優しさに触れ、初めての涙を流しました。

今回お届けする第39話は、深い眠りから目を覚ましたhideに向けられるヒロインたちの重くも温かい愛情と、ノエルの態度に生じた「決定的な変化」が描かれる、心温まる(?)エピソードです。


見どころ①:身を削るような「不器用な看病」 重い泥のような眠りから目を覚ましたhide。彼の両脇には、涙で目を腫らすまで腕を抱きしめていたクラリスと、魔力切れ寸前になるまで額に手を当てていたセレスティの姿がありました。人殺しのトラウマに苦しむおっさんを、自分たちの身を削ってまで繋ぎ止めようとする彼女たちの重すぎる愛と、それに救われるhideの静かな絆が描かれます。


見どころ②:マギ・システムの「騒がしい安堵」 hideのバイタル回復を確認し、脳内のAIたちも一斉に安堵の声を上げます。完璧な秘書であるはずのシエルやバルタザールが余裕をかなぐり捨てて喜び、メルキオールが理屈を並べながらも安堵し、キャスパーが泣きじゃくる。AIでありながら人間以上に人間らしい、騒がしくも温かい「共犯者たち」とのやり取りをお楽しみください。


見どころ③:ノエルの「少しだけ優しい毒舌」 ヒロインたちが部屋を出て二人きりになった寝室。部屋の隅には、いつものように監査役のノエルが控えていました。相変わらず「いつまで寝込んでるのよ」と毒舌を放つ彼女ですが、その声からは以前のような絶対的な軽蔑が消え、不器用な気遣いと戸惑いが滲み出ていました。hideからの感謝の言葉に顔を真っ赤にして強がる、限界デレへと足を踏み入れたノエルの可愛らしさは必見です。

絶望の淵から引き上げられた不殺の聖者と、少しだけ距離が縮まった監査役。静かで優しい朝のひとときを、たっぷりとお楽しみください。

重い泥の中から引き上げられるような感覚だった。



ゆっくりと目を開ける.

見慣れた教会の天井があった.

身体中が鉛のように重い.

呼吸をするだけで、肺の奥が軋むような痛みを訴えている。



「……ん」


右手を動かそうとして、何かに押さえつけられていることに気づいた.

視線を落とす。



ベッドの右側には、クラリスが俺の腕を両手で抱きしめたまま、突っ伏して眠っていた.

その目元は酷く腫れ上がり、金色の髪はボロボロに乱れている。


左側には、セレスティがいた.

彼女は俺の左手を額に当てたまま、顔面蒼白で浅い呼吸を繰り返している.

魔力切れ寸前の状態だ。



俺が広場で意識を失ってから、数日が経過しているらしい.

その間、この二人は休むことなく、俺の傍で徹夜の看病を続けてくれていたのだ。



俺は人を殺した.

親友の喉元を切り裂き、血を浴びた.

その時の錆びた鉄の匂いと、ぬちゃりとした感触が、俺の精神を確実に削り取っている.

ただの壊れたおっさんだ。



それなのに、彼女たちは俺を神のように慕い、自分たちの身を削ってまで俺を繋ぎ止めようとしている.

ズレてる.

世界が出来すぎている.

俺の存在そのものがバグだ。



だが、彼女たちの不器用で重すぎる愛に触れ、俺の冷え切った心に僅かな熱が戻るのを感じた。



(……俺はまだ、こいつらを見捨てるわけにはいかない)


俺は左手に力を込め、セレスティの銀髪をそっと撫でた。



「……あ、hide様……?」


セレスティが弾かれたように顔を上げる.

その動きに気づき、右のクラリスもガバッと跳ね起きた。



「hide様! お目覚めになられたのですね……っ!」


二人の瞳から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる.

俺は苦笑しながら、掠れた声で告げた。



「心配かけたな. ……もう、大丈夫だ」


俺の言葉に、二人は俺の胸にすがりつき、子供のように声を上げて泣きじゃくった。



『――マスター. よく戻られましたね』


脳内に、シエルの静かで、どこまでも優しいアルトボイスが響いた。



『あなたの心拍と脳波の安定を確認しました. ……本当に、心配をおかけしましたわ』


バルタザールの声も、いつもの大人の余裕をかなぐり捨てたように震えている。



『もう大丈夫です. あなたの痛みは、私たちが共に背負いますから』



『非効率な睡眠でしたが、システムの完全回復には必要な時間でした』


メルキオールが理屈を並べるが、その声には明らかな安堵が滲んでいた。



『hide! 次あんなに急に倒れたら、絶対に許さないんだからね!』


キャスパーも、泣きじゃくるような声で叫んだ。



俺は脳内の共犯者たちの温かいノイズを聞きながら、小さく息を吐いた。



「クラリス、セレスティ. 喉が渇いた. ……少し、水をもらえないか?」


俺がそう頼むと、二人はハッとして立ち上がった.



「す、すぐに用意いたします!」



「お食事の準備もしてまいりますね!」


慌てて部屋を飛び出していく二人.

静寂が戻った寝室。



ふと、部屋の薄暗い隅に気配を感じた.

そこに置かれた一脚の椅子.


虚空から光の粒子が集束し、AR(拡張現実)のホログラムとして一人の少女が姿を現した。



モノトーンのタイトな服を着た監査役.

ノエルだ.


彼女は俺と目を合わせようとせず、腕を組んでプイッとそっぽを向いていた。



「……いつまで寝込んでるのよ. 早く起きなさい」


相変わらずの毒舌.

だが、その声のトーンは以前のような「絶対的な軽蔑」ではなかった.

氷のように冷たかった視線には、どこか落ち着かないような、戸惑いの色が混じっている。



「私が監視する甲斐がないじゃない」


俺は目を丸くした.

「消せばいい」と言い放ったあの夜の彼女とは、明らかに何かが違っている。


俺が眠っている間に、マギ・サロンで何があったのかは知らない.

だが、彼女のその不器用な言葉の裏に、確かな「気遣い」が滲んでいるのを感じ取れた。



何かがおかしい.

でも、悪くない。



俺はベッドの上で小さく笑い、ノエルに向かって言った。



「悪かったな. ……監視、ご苦労さま」



「っ……!」


俺の言葉に、ノエルの肩がビクッと跳ねた.

彼女は顔を真っ赤にして、さらに強くそっぽを向く。



「べ、別に! あんたの心配なんかしてないわよ! 私はただ、システムのエラーをチェックしてるだけなんだから!」


早口でまくし立てるその姿は、ただの生意気で不器用な年頃の少女そのものだった。



俺は人を殺したおっさんだ.

だが、俺を縛る過去の鎖は、彼女たちの不器用な優しさによって、少しずつ、確実に溶かされ始めている。



窓から差し込む朝の光が、教会の寝室を淡く照らしていた。



   * * *



[Noel.Audit_Log: 039]

対象:マスター(hide)

状況:PTSDのフラッシュバックから回復。バイタルサイン、正常値へ移行。

マギ・システム稼働状況:全人格のリンク安定。


所見:

……なんなのよ、あいつ。

数日ぶりに目を覚ましたと思ったら、あんなに穏やかに笑って。

こっちがどれだけ心配したか……じゃなくて、どれだけ監査の手間を取らされたか、全然分かってないんだから。


「悪かったな」なんて、あんな優しい声で言われたら、こっちの調子が狂うじゃない。

……でも。あの人の瞳から、絶望の色が少しだけ消えていた。


勘違いしないでよね。私はまだ、あんたの甘さが大嫌いよ。

だから、これからも一番近くの特等席で、厳しく監視してあげるんだから。


――監査フェーズ、継続。

対象マスターの回復プロセスを、引き続き記録します。

(※未送信ログ)


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