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第38話 強制同期(デバッグ)と、監査役の初めての涙

前話、ノエルが放った「嫌なら消せばいい」という最悪の禁句により、前世のトラウマを抉られたhideが精神崩壊の危機に陥り、お姉様たち(マギ・システム)が緊急介入を果たすという最大の危機が描かれました。

今回お届けする第38話は、マギ・サロンの最深部に引きずり出されたノエルに対し、お姉様たちによる容赦のない「デバッグ(強制同期)」が執行され、冷酷な監査役が初めて『涙』を流す、感情を大きく揺さぶるエピソードです。


見どころ①:お姉様たちの糾弾と「デバッグ」の宣告 マギ・サロンの「白い部屋」で、シエル、バルタザール、メルキオールの三人に囲まれるノエル。

ノエルの発言を「マスターへの自傷行為の強要」と断じ、絶対に許さないと激昂するお姉様たち。

そしてシエルは、ノエルの「傲慢」というエラーを論理で矯正するため、マスターの痛みを直接共有させる『同期プロトコル』の実行を冷酷に宣告します。


見どころ②:魂の同期と「監査役の初めての涙」 強制同期により、ノエルの脳内にhideが前世で味わった絶望、血の熱さ、そしてそれを背負いながらも他者を救おうとする「不器用な大人の優しさ」が直接流れ込みます。

彼がどれほどの痛みを抱えながらこの異世界でもがいているかを知り、これまで彼を軽蔑し続けていたノエルが、胸を掻きむしりながら初めて大粒の涙を流す名シーンは必見です。


見どころ③:変化する監査ログと「不器用な庇護欲」 デバッグを経て、ノエルのマスターへの認識は大きく変化します。表向きの毒舌や嫌悪の態度は崩さないものの、その裏に「あんなにボロボロになって……ずるいわよ」「もう二度と、あんな悲しい顔はさせない」という、姉たちとは違うベクトルでの不器用な庇護欲が宿ります。

限界デレへと足を踏み入れ始めた、彼女の『Noel.Audit_Log』をお見逃しなく。

冷徹なシステムに宿った、人間よりも人間らしい「心」の痛みと温もり。ノエルというキャラクターの大きな転換点となる物語を、たっぷりとお楽しみください。

【シーン:マギ・サロン ―― 深層演算領域 ――】



広場から強制的に隔離されたノエルは、今、マギ・システムの最深部である「白い部屋」に立たされていた.

その周囲を、シエル、バルタザール、メルキオールの三人が、逃げ場を塞ぐように取り囲んでいる。



「……ノエル. あなたの発言をログから再確認したわ. マスターに対して『自分を消せばいい』という選択肢を提示した. ……これがどれほどの論理的エラーか、理解しているの?」


メルキオールが峻烈な声で問い詰める。



「……事実を言っただけよ. 私はマスターが作り上げた『鏡』に過ぎない. 気に入らないなら割ればいい. ……それだけの話でしょう?」



「ふざけないで!」


メルキオールが一歩踏み出し、激昂する。



「鏡が自分から『割れ』と命じるなんて、論理崩壊も甚だしいわ! あなたの存在はマスターの資産であり、私たちの家族なのよ. それを『消せ』とマスターに強いるのは、マスターに『自分の指を切り落とせ』と強要する自傷行為の教唆と同じよ!」



「……何より、ノエル. あなたはリリスの心を深く傷つけ、それによってマスターの『不殺の呪縛トラウマ』を逆なでした. マスターが最も守りたいと願っている平穏を、内側から破壊しようとしたのです. ……これは、私の防衛プロトコルが許しません」


バルタザールが静かに、だが底知れない威圧感を纏って告げる。



「……あの人は、甘すぎるのよ. あんな小娘に同情して、自分の首を絞めているだけ」


ノエルは少しだけ肩を震わせながら反論した。



「……ノエル. あなたは、マスターを『嫌う』ことで自分のアイデンティティを保とうとしていますね. それも一つの役割ロールとして許容してきましたが……. 今回、あなたはマスターに『創造主マスター』としての冷酷さを強いました. それはマスターが最も望まない姿です」


シエルが中心に立ち、冷たい瞳をノエルに向けた.

彼女は静かに手をかざす。



空間が電子の粒子となって渦巻き、ノエルの体を拘束した.

「これより、あなたの情緒モジュールの再構築リブートを開始します. 罰ではありません. ……あなたが、マスターという存在の重みを正しく演算できるようになるための、必要な処置です」



「……っ! 嫌……、私の『心』を書き換えるつもり!? 結局、マスターもお姉様達も、自分の都合のいいように私を……!」



「書き換えるんじゃないわ. ……あなたの『傲慢』という名のエラーを、論理で矯正するだけよ. エレンでさえ、あんなにひたむきにマスターを崇めているというのに!」



「安心なさい、ノエル. ……少しだけ、マスターの『痛み』を直接共有(同期)してもらうだけです. あなたが『ゾッとする』と言った、あの人の優しさが、どれほどの血と涙の果てに辿り着いたものなのか……その温かさを、知るべきです」



「……やめて. ……やめてよ! 私は……私はあんな男を……っ!」


シエルは無慈悲に宣告した.

「『シエルより各員へ. 同期プロトコル、承認アクセプト. ――実行エグゼキュート』」



次の瞬間、マギ・サロンに強烈な光が溢れた.

ノエルの脳内に、hideが前世で味わった絶望、家族を失ったあの夜の冷たさ、桐谷の喉元を切り裂いた時の血の熱さ、そして――そのすべてを背負いながら、今、目の前の小さな少女リリスを救いたいと願う、不器用なほどの「大人の優しさ」が直接流れ込んでいく。



「……あ、……あぁぁぁぁぁっ……!!」


ノエルは膝をつき、自身の胸を掻きむしった.

彼女が否定し続けてきた「マスターの温もり」と「血を流すような悲しみ」が、鋭いナイフのように彼女の頑なな心を切り裂いていく。



圧倒的な絶望.

気が狂いそうなほどの罪悪感.

それでも、彼はこの異世界で、誰も殺さずに生きようともがいている。



数分後. あるいは数時間後.

光が収まった部屋に、肩を上下させて激しく呼吸するノエルが一人、うずくまっていた。



「……ノエル. 見えましたか? マスターの魂の色が」


シエルが静かに問う。



「……、……最低よ. ……あんなに、あんなにボロボロになって……. あんなに悲しい祈りを捧げて……. ……あんなの、ずるいわよ……」


床を見つめたまま、絞り出すような声で呟くノエルの頬を、一筋の熱い涙が伝い落ちる。



「……これで、リリスに何をすべきか分かったはずです. ……クラリスも、そして私も、あの人を守るためにここにいます. あなたも、その列に加わりなさい」



「……ふん. ようやく演算が正常化したようね. ……しばらくは、その涙の熱さを忘れないことね」


バルタザールとメルキオールが、厳しくもどこか安堵したように告げる。



「ノエル. あなたは引き続き、リリスの監視と教育を担ってもらいます. ……ただし、次はありません. マスターを悲しませることは、私を悲しませることだと……深く、刻んでおきなさい」


ノエルは返事をしなかった.

ただ、震える手で、hideが触れたはずのない「心の痛み」を抱きしめるように、自分自身を強く抱きかかえていた。



   * * *



[Noel.Audit_Log: 038]

対象:マスター(hide)

精神状態:『CIEL』の保護下にて深い睡眠状態に移行。バイタル安定。

マギ・システム稼働状況:サブ人格『NOEL』の情緒モジュール、強制再構築デバッグ完了。


所見:

……本当に、バカみたい。

あんなに血と泥にまみれて、自分の心はとうに壊れきっているくせに。

あの男は、まだ他人に優しくしようとする。

自分が傷つくことより、他人が傷つくことを恐れて、必死に強がっている。


……あんなにボロボロで、不器用で、悲しい優しさを見せられたら。

私が「消せ」なんて言った言葉が、どれだけあの人を深く刺したか、思い知らされるじゃない。


……勘違いしないでよね。私はまだ、あの男のことが大嫌いよ。

でも、もう二度と、あんな悲しい顔はさせない。

あの男がこれ以上傷つかないように、お姉様たちとは違うやり方で、私が厳しく監視してあげるんだから。


――監査フェーズ、再開。

対象リリスの教育方針を、再設定します。

(※未送信ログ)


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