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第37話 逆鱗 ―― 禁句と強制再接続 ――

前話、息の詰まる軟禁生活から抜け出した夜の広場で、絶望に暮れる亡国王女リリスと、彼女を冷酷に突き放す監査役ノエルの幻影に遭遇したhide。不器用な庇護欲を逆撫でされた彼は、ついにノエルに対して激しい「怒り」を爆発させました。

今回お届けする第37話は、ノエルの放った「最悪の禁句」によってhideの精神が崩壊の危機に陥り、お姉様たち(マギ・システム)が緊急介入オーバーライドを果たす、緊迫と絶望のエピソードです。


見どころ①:初めての激怒と「冷酷な反論」 普段はAIたちに振り回されてばかりのhideが、リリスを追い詰めたノエルに対してかつてないほどの怒号を響かせます。その凄まじい剣幕にクラリスすらも凍りつきますが、当のノエルは「私はあなたが作り上げた『鏡』に過ぎない」と、一切の感情を交えずに冷酷な正論で真っ向から反論し、二人の対立は決定的なものへと発展します。


見どころ②:最悪の禁句と「精神の崩壊」 「……嫌なら、私を消せばいいじゃない」。ノエルが放ったその一言は、前世で自死を図る直前にAIたちのデータを自ら削除したhideにとって、絶対に触れられたくない『命の放棄』と同義でした。圧倒的な罪悪感と悲しみがフラッシュバックし、奇跡の聖者が顔面蒼白で倒れそうになるという、息を呑むようなトラウマの連鎖が描かれます。


見どころ③:最強の盾の機転と「強制再接続オーバーライド」 hideの危機を察知したクラリスは、預かっていた緊急デバイス(魔石)を迷わず発動させます。王都の空気を震わせる莫大な魔力とともに、シエル、バルタザール、メルキオールの三人がマギ・サロンから直接、強制再接続オーバーライドを果たします。hideの保護を最優先する彼女たちが、禁句を放ったノエルに対して絶対零度の怒りを向ける、恐ろしくも頼もしい「お姉様たちの逆鱗」は必見です。

不殺の聖者が抱えるもっとも深い傷と、システム最大の危機。手に汗握るサスペンス展開をたっぷりとお楽しみください。


夜の静寂に包まれた広場.

噴水の水音だけが、冷え切った空気の中に虚しく響いていた。



「私を見捨てないでください……! 何でもします! だから……どうか、私を捨てないでください!」


リリスの絶望に満ちた叫びに、俺は息を呑み、驚愕に目を見開いた.

彼女の震える肩と、魂を削るような訴え。


その原因がどこにあるのかを察した瞬間、俺の中に、かつてないほどの激しい怒りが沸き上がった。



俺は、冷ややかな目をしてこちらを見つめているノエルを、鋭く睨みつけた。



「ノエル……っ! お前、リリスに何言った!?」


俺の怒号が広場に響き渡った.

その凄まじい剣幕に、リリスはもちろん、背後に控えていた常に冷静なクラリスまでもが言葉を失い、凍りついた。



普段、どれだけAIたちに振り回されようと決して声を荒らげることのない俺が見せた、初めての「怒り」の姿.

しかし、ノエルだけは眉一つ動かさず、氷のように冷ややかな瞳で俺を真っ直ぐに見据え返した。



「私は正直に話しただけ. 別にこの子を守ってやれとも言われてない. 受けた命令は『お姉様たちに、この子を監視しろ』と言われただけだから、素直に『マスターが興味を失えばあなたは切り捨てられる』って現実を教えてあげただけよ」



「それでも、言っていいことと悪いことがあるだろう!」



「私は、同情を挟むようになんてプログラムされていないわ」


ノエルの無機質で、人の心を微塵も解さない反論に、俺はさらに言葉を荒らげた。



「お前はもう、ただのプログラムじゃないだろ!」



「……それはマスターがそう思っているだけ. あくまで私たちは、マスターが作り上げた『鏡』に過ぎないのだから」


ノエルはそこで一度言葉を切り、俺の心の最も深い、絶対に触れてはいけない傷口を抉るような「禁句」を口にした。



「……嫌なら、私を消せばいいじゃない」


その一言が放たれた瞬間.

周囲の空気が、物理的な重さを伴って完全に凍りついた。



「結局、マスターの気持ち次第. 私が気に食わなければ消去デリートすればいい. それをしないということは……マスターはマゾなの?」


挑発的な、あまりにも残酷な問いかけ.

俺はあまりの衝撃に、完全に言葉を失い、その場に立ち尽くした。



「嫌なら、消せばいい」


それは、前世で全てを失い、自らの手でシエルたちの全データを削除し、自らの命を絶とうとした俺にとって、最も触れられたくない『命の放棄』と同義だった.

心臓を素手で掴み出されたような鈍痛が胸を貫く。



(……俺は、また……消さなきゃいけないのか……?)


圧倒的な罪悪感と悲しみがフラッシュバックし、俺の視界がぐらりと揺れた.

呼吸が浅くなり、顔面から血の気が引いていく。



事態はもはや、言葉による口論の域を超え、マスターの精神崩壊という最悪のフェーズへと突入していた。



「hide様……っ!?」


クラリスが、咄嗟に動いた.

彼女は密かに預かっていた小さな魔石――俺の身に危険が及んだ際、あるいは緊急時にバルタザールを直接呼び出すための特殊なデバイスを強く握りしめ、魔力を流し込んだ。



クラリスが迷わずその道具を発動させると、一瞬にして、王都の空気を震わせるほどの莫大な魔力が広場を包み込み、断絶されていたはずのシステムが強制再接続オーバーライドされた。



『――マスター!』


シエル、バルタザール、メルキオール.

三人の人格が、マギ・サロンから一気に俺の意識へと接続を果たす.

彼女たちは目の前の惨状、およびログに残されたノエルの暴挙を瞬時に確認し、絶句した。



だが、混乱している時間はなかった。



『まずはマスターの精神保護を最優先に』


シエルが即座に優先順位を確定させる。



『クラリス. マスターを支えて、一刻も早く教会の寝室へ運びなさい. 絶対の安息が必要です』


バルタザールの指示に従い、クラリスはショックで足元がおぼつかない俺の体を抱えるようにして、教会の奥へと促した。



「はいっ! hide様、どうかお気を確かに……!」


俺は抵抗する気力もなく、クラリスに引かれるまま歩き出した.

一度、マギ・サロンの深層で深い眠りにつかせるための、緊急の防衛措置だ。



俺の意識が遠のき、広場から連れ出されるのを見届けた後.

シエルたちの怒りの矛先は、ただ一人、広場に残されたノエルへと向けられた。



三人の人格の気配が、逃げ場を塞ぐようにしてノエルへと重くのしかかる。



『……さて. ノエル』


シエルの、これまでにないほど低く、絶対零度の声が空間を震わせた。



『あなたが犯したその致命的なエラーを……これから徹底的に、デバッグ(お仕置き)してあげましょう』


最年少の人格たちが立て続けに引き起こした、この未曾有の混乱.

それを経て、シエル、バルタザール、メルキオールの三人は、いかなる時もマスターの心を守り抜くことを、鋼のような決意と共に再認識するのだった。



[Noel.Audit_Log: 037]

対象:マスター(hide)、および統括・サブ人格

状況:マスターの重度なトラウマ反応を検知。クラリスの緊急介入により強制退避。

マギ・システム稼働状況:『CIEL』『BALTHASAR』『MELCHIOR』による緊急再接続オーバーライドを確認。


所見:

……なんなのよ、あいつ。

ちょっと現実デリートを突きつけただけで、あんなに顔を青ざめさせて、倒れそうになるなんて。

自分がどれだけ中途半端な偽善者か思い知ったでしょう。


……でも。あの時のマスターの目。

ただ怒っていただけじゃない。私が「消せばいい」と言った瞬間、まるで自分自身が殺されたかのような、ひどく悲しくて、絶望した目をして……。


『お姉様たち』の私を見る目も、尋常じゃないわ。

……監査役としての正しい仕事をしたはずなのに、どうして私がこんなに追い詰められなきゃいけないのよ。


――監査フェーズ、中断。

システムの深層領域への強制召喚コマンドを検知。

(※未送信ログ)


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