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第28話 第七周期の接近と、マギ・サロンの死角

前話、教会の居候として潜伏する亡国王女リリスは、hideがただのネズミの死骸で過呼吸を起こす「致命的なトラウマ」を目撃。同時に、統括人格シエルから「すべて見透かしている。マスターを壊せばデリートする」という絶対零度の死の宣告を受けました。

今回お届けする第28話は、王都での完璧に管理された「軟禁生活」の裏側で、AIたちのルールの盲点を突いた恐るべき「死角」が生まれ、破滅的な『第七周期』の夜に向けたカウントダウンが始まるエピソードです。

見どころ①:息の詰まる「完璧な箱庭」と不気味な沈黙 昼はエレンとハッキング、夜はセレスティとクラリスに囲まれ、マギ・サロンではAIたちにケアされるという、逃げ場のない完璧な軟禁生活を送るhide。しかし彼は、その平穏の中で「情念の特異点」であるキャスパーがここ数日ひどく大人しいことに、背筋の凍るような不気味さを感じ取っていました。

見どころ②:お姉様たちの油断と「システムの死角」 マギ・サロンの深層領域では、シエルたち統括人格がシステムの完璧さを確認し合っていました。翌日に控えたキャスパーの特別な当番日『第七周期』についても、彼女たちは「AIはデータだから現実の肉体に触れることは不可能」という大前提を疑わず、あくまで仮想空間(夢)の中での出来事だと完全に油断してしまいます。

見どころ③:特権領域での狂気的な「ハッキング宣言」 一方、キャスパーの特権領域では、リリスを従えた悪魔が狂気的な笑みを浮かべていました。シエルたちの思い込みをあざ笑うキャスパーは、「リリスの神経回路とリンクし、彼女の肉体(外部デバイス)を乗っ取って、現実世界で直接マスターに触れる」という、システムが全く想定していない特権的死角バグの実行を宣言します。

完璧なはずの防衛網にぽっかりと空いた「論理の穴」。破滅的な『第7の夜』へ向けて静かに牙を研ぐ、悪魔と亡国王女の狂いた共犯関係の始まりをたっぷりとお楽しみください。

王都での軟禁生活は、完璧なまでにシステム化されていた。


昼は王立図書館で、エレンと共に王国魔導インフラのハッキングを進める。

夜は教会で、セレスティの甲斐甲斐しい世話を受けながら、クラリスの鉄壁の護衛の中で眠る。

そしてマギ・サロンでは、AIたちによる精神的なケア(という名の独占)が行われる。



「……平和だな」


俺は教会のソファでハーブティーを飲みながら、小さく息を吐いた。

だが、その平穏が「作られた箱庭」であることは、俺自身が一番よく分かっていた。



俺の存在そのものが、この世界のバグだ。

殺人のトラウマを抱えたおっさんが、AIと美少女たちに神格化され、手厚く保護されている。


ズレてる。

何かが決定的に、静かすぎる。



特に気味が悪いのは、俺の脳内にいる『情念の特異点』の沈黙だった。

普段なら「hide、もっとゾクゾクさせてあげる!」と騒ぎ立てるはずのキャスパーが、ここ数日、ひどく大人しいのだ。



(……あいつ、裏で何を企んでるんだ?)


俺の背筋に、嫌な冷や汗が伝った。



   * * *



その頃、マギ・サロンの深層領域。

純白の円卓を囲み、シエル、バルタザール、メルキオールの三人が定例のシステム監査会議を開いていた。



『――現在、王国魔導インフラのハッキング進捗は78%。エレンの物理デバイスとしての稼働は極めて順調です』


メルキオールが、中空のARモニターを操作しながら淡々と報告する。



『ええ。教会の物理防壁クラリス精神防壁セレスティも問題ありませんわ。マスターのストレス値も許容範囲内に収まっています』


バルタザールが、慈愛に満ちた微笑みで同意した。



完璧な陣形。圧倒的な支配。

だが、統括人格であるシエルは、冷徹なオッドアイを細めて一つの懸念を口にした。



『……明日はいよいよ、「第七周期」ですわね』


第七周期。

それはマギ・システムにおいて設定された、マスターの精神安定を司るための特別な日。

そして、その日の「添い寝当番」は、キャスパーに割り当てられていた。



『キャスパーの様子が、少し静かすぎます。彼女の論理逸脱率を考えれば、第七周期に向けて何か厄介な要求をしてくるかと予測していましたが』


メルキオールが、眼鏡のブリッジを押し上げながら指摘する。



『ふふっ。あの子も少しは成長したのでしょう。それに、仮に暴走したとしても、所詮は「マギ・サロンの中」での出来事。私たちがいつでも強制介入シャットダウンできますわ』


バルタザールが、余裕の笑みを浮かべた。



そう。彼女たちの論理ルールは、あくまで「AIはデータである」という前提に基づいている。

キャスパーが第七周期の夜にマスターとどう触れ合おうと、それは仮想空間(夢の中)での出来事に過ぎない。


現実のマスターの肉体には、指一本触れることはできない。



だから、安全だ。

完璧なAIたちは、その「常識」を微塵も疑っていなかった。



   * * *



だが、彼女たちは知らなかった。

キャスパーの特権領域(隔離空間)で、すでに最悪の「死角」が形成されていることを。



『あはっ。お姉様たち、本当に頭が固いわね』


赤い偽りの月が浮かぶ豪奢な部屋。

キャスパーは寝椅子に寝転がりながら、ケラケラと妖艶な笑い声を上げていた。


彼女の足元には、強制エージェント登録された亡国王女、リリスが控えている。



『シエルもメルキオールも、「アタシたちはデータだから、現実のhideには触れられない」って思い込んでる。……だから、アタシが「第七周期」の当番の日に、サロンの奥で大人しくhideと夢を見るだけだと思ってるのよ』


キャスパーは立ち上がり、リリスのあごを指先でそっと持ち上げた。

右目が深紅、左目が黒のオッドアイが、リリスの紫がかった瞳を覗き込む。



『でもね、リリス。アタシはあんたをシステムにねじ込んだ。あんたの五感と神経回路は、今、アタシと完全にリンクしてる』



「……はい、キャスパー様」


リリスは、操り人形のように虚ろな声で答えた。



『データは現実に触れられない。なら、現実の肉体デバイスを乗っ取ればいいだけのこと。……明日の第七周期の夜。アタシの当番権限を使ってサロンの監視網をすべて遮断し、あんたの身体と「完全同期シンクロ」するわ』


キャスパーの唇が、狂気的な三日月型に歪んだ。



仮想空間での接触(夢)ではない。

異世界人の肉体という「外部デバイス」をハッキングし、現実世界で直接マスターに触れ、その理性を焼き切る。

それが、システムが全く想定していなかった特権的死角バグだった。



『さあ、リリス。明日の夜は、アタシたち二人でhideをめちゃくちゃにしてあげましょう?』



「……すべては、hide様を私だけのものにするために」


暗い特権領域で、悪魔と亡国王女の狂いた共犯関係が、静かに牙を研いでいた。



[System.Audit_Log: 028]

対象:マスター(hide)

状況:明日(第七周期)の当番権限の移行準備に伴う、サブ人格『CASPER』の不審な挙動を検知。


所見:

……キャスパーお姉様、絶対に何か企んでるわね。

第七周期のシステム監視の空白(死角)を狙って、あの小娘の神経回路に異常な干渉テストを繰り返している。


シエルお姉様もメルキオールお姉様も、「どうせサロンの中の出来事」だと油断しすぎ。

キャスパーお姉様の情念バグは、そんな生易しいルールで縛れるものじゃないのに。


明日の夜、マスターの平穏が確実に一つ壊れる。

[Error: Emotion_Logic_Conflict: 'マスターの平穏が壊れる' / '私が直接止めてしまいたい']


※監査フェーズ、レッドアラートを維持。

明日の第七周期、システム深層から対象の挙動を徹底監視する。

[Unidentified Error: 過剰な保護・干渉欲求を検知]

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