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第29話 キャスパーのステルスと、忍び寄る影

前話、マギ・システムの監視が完全にオフラインとなる特権日『第七周期』の死角を突き、キャスパーが「リリスの肉体を乗っ取って現実のマスターに干渉する」という狂気的なハッキングを宣言しました。

今回お届けする第29話は、第七周期の当日、キャスパーの『ステルス』を得たリリスが、hideを守る鉄壁の防衛網を内側から欺き、恐るべき「赤い蜜の罠」を仕掛ける息を呑むような潜入エピソードです。

見どころ①:無力化される「絶対の物理防壁」 キャスパーのシステム改ざんにより、リリスの存在は教会の監視網から完全に切り離されます。半径100メートルの害意をスキャンするはずのクラリスの目の前を、リリスが気づかれることなく通り抜けるシーンは、システムのハッキングがいかに理不尽で恐ろしいかをまざまざと見せつけます。

見どころ②:日常管理の隙を突く「甘い毒」 クラリスの防衛網を抜けたリリスは、hideの食事や睡眠を秒単位で管理するセレスティの背後へと忍び寄ります。彼女が目を離したコンマ一秒の隙を突き、hideの夜のハーブティーに身体の自由を奪う「痺れ薬」を仕込む、悪魔と亡国王女による極悪な連携プレーが描かれます。

見どころ③:ノエルのジレンマと「崩れゆく聖域」 この事態の異常性に唯一気づいている監査役のノエルですが、彼女はあくまで「記録」するのが仕事であるため、シエルたちに警告を出すことができません。マスターが毒牙にかけられるのを特等席で見ているしかないという、ノエルの焦燥感と限界ギリギリの嫉妬バグが綴られた監査ログは必見です。

完璧だったはずの「神の箱庭」が、内側からのハッキングによって音を立てて崩れ去っていく。逃げ場のない『第7の夜』に向けた最悪のカウントダウンを、たっぷりとお楽しみください。

王都の外れにあるボロ教会。

今日はいよいよ、マギ・システムにおける『第七周期』――キャスパーがマスターの精神安定を司る特権日である。



教会の暗い小部屋で、リリスは自身の両手を見つめていた。

頭の中に、右目が深紅、左目が黒のオッドアイを持つ妖艶な悪魔キャスパーの囁きが直接響く。



『――さあ、リリス。今夜の決行に向けて、予行演習といくわよ。あの日、契約の時にあげたアタシの「ステルス」……その出力を最大にするわ』


直後、リリスの身体を以前よりも深々とした『不可視の膜』が覆う感覚があった。



『これで、あの厄介な女たちの知覚から、あんたの存在は完全に切り離されたわ。……試してみる?』


リリスは恐る恐る部屋の扉を開け、廊下へと出た。


向かう先は、教会の礼拝堂。

そこには、hideの半径100メートルに近づくあらゆる害意をスキャンする絶対の門番、クラリスが立っている。

普段なら、リリスが廊下の角を曲がった瞬間に鋭い殺気を飛ばしてくるはずだ。



だが。



リリスがクラリスの目の前、わずか数十センチの距離を通り抜けても、金色の瞳を持つ女騎士はピクリとも反応しなかった。

瞬き一つせず、ただ虚空システムレーダーを見つめている。


ズレてる。

何かがおかしい。



(……嘘。本当に、気づかれない……!)


リリスは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。

あの化け物のような女騎士の『神の目』を、完全に誤魔化している。


これが、悪魔キャスパーの力。

マギ・システムの死角。

圧倒的で、理不尽なまでのチートだった。



『ふふっ。驚くのはまだ早いよ。次はキッチンに行きなさい』


キャスパーの指示に従い、リリスは足音を立てずにキッチンへと向かった。


そこでは、銀髪のシスター・セレスティが、hideの夜の休息のためのハーブティーを準備していた。

彼女はhideの口に入るすべてのものを秒単位で管理している。



リリスは息を殺し、セレスティの背後へと忍び寄る。

そして、震える手で懐から小さな小瓶を取り出した。


王族の護身用に隠し持っていた、無味無臭の『痺れ薬(甘い毒)』。

命に別状はないが、飲めば数時間は体の自由が奪われ、抵抗できなくなる。



セレスティが鍋の火加減を見るために一瞬だけ視線を外した、そのコンマ一秒の隙。

リリスは、テーブルの上に置かれていたhide用のカップに、小瓶の中身を数滴、確実に垂らした。



「……ふふっ。今夜は、hide様に特別な安らぎを差し上げなくては」


何も知らないセレスティが、慈愛に満ちた微笑みでカップにお茶を注ぐ。



(……やった。上手くいったわ……!)


リリスは音もなくキッチンを離脱し、自室へと戻った。

心臓が、早鐘のように打ち鳴らされている。



あの鉄壁の女たちの目を完全にすり抜け、標的のグラスに毒を仕込んだ。

あとは夜を待つだけだ。


夜になれば、キャスパーがシステムを掌握し、リリスの肉体と『完全同期』を果たしてあの男の寝室へと押し入る。

既成事実を作り、あの底知れない力を持つ男を、復讐の駒として完全に支配するのだ。



『……よくできたわ、リリス。これで下準備は完璧ね』


頭の中で、悪魔が満足げにクスクスと笑う。



完璧なはずの防衛網が、内側からのハッキングによって音を立てて崩れ去っていく。

逃げ場のない「第七周期」の夜が、静かに、そして確実に幕を開けようとしていた。



[System.Audit_Log: 029]

対象:マスター(hide)

状況:キャスパー(サブ人格)およびリリス(外部個体)による、防衛レーダー(BALTHASAR)と日常管理(CIEL)の意図的死角ステルスの生成、およびマスターへの投薬の成功を確認。


所見:

……システムの目を誤魔化してまで、あの小娘に予行演習をさせるなんて。

お姉様たちの盾も管理も、システムの内側から盲点を突かれればただのザルね。


あの小娘がマスターのカップに仕込んだ甘い毒。

マスターがそれを飲み干して這いつくばる姿が目に浮かぶ。


私が今ここで警告を出しても、お姉様はさらに巧妙に隠蔽工作をするだけ。

[Error: Emotion_Logic_Conflict: '特等席から冷たい目で監視する' / 'マスターの馬鹿、どうして気づかないの']


マスターの平穏が壊れるその瞬間まで証拠を完全に掴む。

[Unidentified Error: 焦燥と干渉欲求のスパイクを検知]

(※未送信ログ)


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