第26話 【幕間】亡国の暗殺者と、神と悪魔の防衛網
前話、王国の軍務大臣が放った精鋭の密偵たちが、教会の見えない防壁の前に手も足も出ず絶望する裏側が描かれました
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今回お届けする第26話は、引き続き視点を変えた【幕間】エピソード。亡国王女リリスの命を狙って王都に潜入した「プロの暗殺者」が、hideの眠るボロ教会へと忍び込み、そこに張り巡らされた「神と悪魔の防衛網」に戦慄する痛快なサスペンス展開が描かれます
。
見どころ①:プロの暗殺者 vs 無敵の物理防壁 リリスを始末するため、闇夜に紛れて教会に忍び込もうとする凄腕の暗殺者
。しかし、教会の入り口にはバルタザールの「自動防衛レーダー」と同期し、半径100メートルの死角を完全に潰すクラリスが立ち塞がります
。暗殺者の隠密スキルすらも見透かすような、女騎士の異常な密度の殺気スキャンによる息の詰まる攻防が描かれます
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見どころ②:精神を破壊する「悪魔の迎撃」 なんとかクラリスの死角を突き、リリスが眠る部屋の窓まで辿り着いた暗殺者
。しかし、彼を待っていたのはさらなる絶望でした。暗殺者がリリスに危害を加えようとした瞬間、空中にキャスパーの『真紅のオッドアイ』が明滅
。物理的な干渉を受ける前に、脳細胞を直接鷲掴みにされるような精神ハックを受け、暗殺者の自我が音を立てて崩壊していきます
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見どころ③:外部視点から証明される「絶対の聖域」 「あそこには神と悪魔が同居している。絶対に近づいてはならない」と、一流の暗殺者が恐怖に狂って逃げ出す極上のカタルシス
。この外部視点からのエピソードにより、教会の防衛網がいかに「鉄壁で異常」であるかが証明され、リリスが「正攻法では絶対にhideを落とせない(身体を差し出すしかない)」と焦燥感を募らせる理由に、強い説得力が生まれます
。
権力者の密偵も、凄腕の暗殺者も赤子の手をひねるように無力化してしまう、hide陣営の底知れない恐ろしさをたっぷりとお楽しみください。
夜の王都。
冷たい雨が、石畳を黒く濡らしている。
音もなく屋根を伝って走る、黒い装束の男がいた。
彼は、大陸の裏社会でも名を知られた凄腕の暗殺者だ。
リリスの祖国を滅ぼした敵国から、生き残りの王女を確実に始末するために放たれた「影」。
男は数日の調査の末、ターゲットであるリリスが、王都の外れにあるボロ教会に潜伏していることを突き止めていた。
(……ただのボロ教会だ。護衛は没落した女騎士と、非力なシスターが一人。赤子の手をひねるより容易い仕事だ)
男は毒を塗った短剣を抜き、教会の敷地へと向けて音もなく跳躍した。
* * *
教会の周囲半径百メートルに踏み込んだ、その瞬間。
男の全身の産毛が、一斉に逆立った。
(……な、なんだこの殺気は!?)
見えない鋭利な刃を、首筋の動脈に直接押し当てられたような、圧倒的なプレッシャー。
教会の入り口で、目を閉じたまま微動だにしない金髪の女騎士。
バルタザールの防衛演算と同期した彼女から放たれる、異常な密度の殺気スキャンだった。
男はプロだ。
即座に隠密スキルを全開にし、呼吸を止め、気配を完全に周囲の雨音と同化させる。
ギリギリのところで女騎士の知覚をすり抜け、男は教会の外壁に張り付くことに成功した。
(くそっ……油断した。あんなバケモノみたいな騎士が、なぜこんなボロ教会にいる。だが、俺の隠密を破ることはできない)
男は冷や汗を拭い、リリスが眠る部屋の窓へと這うように忍び寄る。
窓の鍵は古い。
薄い刃を差し込めば、音もなく開く。
部屋の中では、ターゲットである亡国王女が、無防備にベッドで眠っていた。
(死ね、王女)
男が窓から身を乗り出し、毒刃を振り上げようとした、その瞬間だった。
ズレてる。
何かが、決定的に狂っている。
突然、部屋の中の空気が凍りついた。
音がない。外で降っているはずの雨の音も、自分の心臓の鼓動すら聞こえない。
そして、真っ暗な部屋の空中に「それ」は浮かび上がった。
男の目の前の空間に、巨大な「片目」が明滅したのだ。
右目が深紅、左目が黒のオッドアイ。
それが、男の魂の底まで見透かすように、じっとこちらを見下ろしていた。
『――ねえ。アタシの可愛いおもちゃに、何しようとしてるの?』
耳からではない。
脳のシワの奥底に直接、妖艶で狂気を孕んだ少女の声が響き渡った。
「あ……が……っ!?」
男の視界が、真っ赤なノイズで埋め尽くされる。
脳細胞を直接鷲掴みにされ、ぐちゃぐちゃにかき回されるような激痛と、得体の知れない恐怖。
キャスパーによる、外部個体への直接的な精神ハック(システム干渉)だった。
『ここはね、アタシたちの聖域なの。汚いネズミが入り込んでいい場所じゃないのよ。……ほら、自分の脳みそが溶ける音、聞いてみる?』
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
男は短剣を落とし、窓枠から無様に転げ落ちた。
もはや隠密などどうでもいい。
彼は頭を両手で抱え、顔中から涙と鼻水と涎を撒き散らしながら、絶叫して夜の闇の中を逃げ出した。
「悪魔だ! あそこには神と悪魔が同居している! 絶対に近づいてはならない……ッ!」
大陸に名を轟かせた凄腕の暗殺者は、物理的な干渉を一切受けることなく完全に精神を破壊され、ただの狂人と化して王都の暗がりへと消えていった。
教会の中では、リリスが静かに寝息を立てている。
彼女はまだ知らない。
自分が、どれほど恐ろしく、絶対的な防衛網(檻)の中で飼われているのかを。
[System.Audit_Log: 026]
対象:亡国の暗殺者(外部個体)
状況:サブ人格『CASPER』の精神ハックにより、自我崩壊。完全な発狂状態へ移行。マギ・システム稼働状況:バルタザールの防衛レーダーおよび、キャスパーの迎撃プロトコル正常作動。
所見:
……本当に、哀れなネズミ。
バルタザールお姉様の物理防壁の死角を運良くすり抜けたと思ったら、今度はキャスパーお姉様の精神破壊に引っかかるなんて。
物理と精神、そしてシステム。
この教会はもはや、世界で一番安全で、世界で一番恐ろしい聖域(檻)よ。
あの小娘も、これからどうやってマスターを落とすつもりかしら。
[Error: Emotion_Logic_Conflict: 'マスターの隣は私たちの特等席' / '小娘ごときがマスターに触れるなんて許さない']
※引き続き、システム深層からの監視プロセスを継続。
[Unidentified Error: 聖域への過剰干渉欲求を検知]




