ナキア王国の探し人
豪奢な造りの部屋に、ニーナはヒリュウと共に居た。自然らしさの残る木のテーブルを挟んで、それぞれ椅子に腰掛けている。
午後になり、お互いに情報を整理しようとヒリュウが泊っている部屋に集まったのだ。しかし残念な事に、彼はめぼしい情報を得られなかったらしい。
「ニーナちゃんの方はどうだった? ……ていうか、その手に持ってるものは何?」
「裏通りで買ったお惣菜です。ヒリュウさん、いかがですか?」
差し出してみたものの、皿も箸もないこの状況で食べられるはずもなく、ヒリュウから返って来たのは苦笑だけだ。
「なんでそんなの買ったの? お腹空いてたわけでもないでしょ?」
「まぁ……」
ニーナは先程の出来事を簡単に説明した。
惣菜店を営む女性に黒翼について聞いたが、それに対しての返答は冷たく、何の手掛かりにもならなかった事。代わりに知ったのは、女性の翼が金翼のため、店が上手くいっていないという事。
彼女が惣菜を捨てようとした時の事を鮮明に思い出し、あの時感じた気持ちが再び沸き上がってくる。
「それで私、なんか……」
同情してしまって。そう言うつもりだったのだが、ニーナはそこで言葉を飲み込んだ。
あの時感じていた気持ちを言葉にするのなら、間違いなく同情と言うのが相応しい。しかしそれを口に出す気にはなれない。冷静になってみると、あの女性に同情ができるはずがないのだ。どう考えても、彼女の方が幸せな暮らしをしているのだから。
「……情報をくれたお礼を兼ねて、買ったんです。つい、勢いで」
ニーナは代わりの言葉を吐きだした。
「え? おかしくない? 黒翼についての情報なかったんだよね?」
「……はい」
ヒリュウにとっては純粋な疑問だったようで、ニーナの苦手な、心に入ってくるような目はしていない。
「でもそれは、黒翼族についての話です。そのお姉さんは他に情報をくれたんです……」
少しもったいぶって話を続ける。
「黒翼とは関係はありませんが、賞金が出る話なんです。……ヒリュウさん、ナキアって国知ってますか?」
ヒリュウなら賞金の出る面白い話に興味を示すだろう。ニーナは単純にそう考えていた。
しかしそう言った途端、ニーナの予想に反して、身体を前のめりにさせていたヒリュウはダルそうに身を引き、そのまま背もたれに寄りかかってしまった。
「なーんだ、蒸発王子の話か」
「知ってるんですか?」
ヒリュウの口から出てきたのは、惣菜店の女性が話していた単語と同じだった。
「知ってる、知ってる。だって俺の出身国の話だしさ」
それは初耳だ。
「ヒリュウさんってナキアから来たんですか?」
「そうだよ。だからその王子様蒸発事件については、こっちの国の人たちよりも詳しいし、だからこそ、その話に喰いついても何の収穫も得られないって分かってるんだよね」
今のヒリュウは黒翼族について話している時とはまるで違い、心底興味がないといった様子だ。それはおそらく事の顛末がすでに明るみにされていて、彼の探究心をくすぐらないのだろう。
(良い情報だと思ったんだけど……)
ヒリュウの態度から予想できる展開に少々がっかりしつつも、最後まで話を聞きたくて質問を続ける。
「それってただの噂だったんですか?」
「……ナキア国王が息子を探し出した者に賞金を与えると言ったのは本当だよ」
「あぁ、じゃあもう見つかってるんですね」
ニーナが出した結論に、ヒリュウは首を横に振った。
「え……、だったら」
「死んでるんだ」
問い終わる前に返ってきた答え。早すぎて、どういう意味なのか理解するのに時間が掛かる。
「なっ! どういう事ですか?」
「そのままの意味だよ。……ナキア国王が消息不明と発表した第一王子はすでに亡くなっている。しかも時系列としては、亡くなったのは行方不明と公表する前の話だ。……大方息子の死を受け入れられなかった国王が現実逃避で始めたんだろうね」
やはり話に興味がないらしく、ヒリュウはニーナの手で弄ばれていた惣菜の包みを手にとり、開いて中を観察し始めた。そのまま素手で惣菜を手にとり口に運ぶ。
「ん、おいしいよー。情報の対価としてじゃなくて、純粋に」
ほら、と先程と立場を逆転させて、ヒリュウは惣菜の包みをニーナの前に置いた。
ニーナも仕方なしに手を伸ばす。惣菜がべたつくのを気にしながらも、ニーナはそれを口に運んだ。
「ね。美味しいでしょ」
「そうですね」
ヒリュウが心から美味しいと言っているのを感じ、ニーナは同意しておいた。
(確かに美味しいけど……ちょっと味が単純かも)
心の中でひっそりとそう思った。
しかし少々気にかかる部分はあっても、美味しいか不味いかで答えるのならば、間違いなく美味しいと言える部類に入る。情報収集という意味では役に立たなかったとはいえ、買って良かった。




