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一抹の不安

 眉間にシワを寄せ視線をヒリュウへと移した。

「久しぶりだね、ヒリュウ。七年ぶりか」

「う……そ……」

 彼の口から漏れ出た声。それは声と言えるのかすら危うい微かな音だった。

(初めて見た)

 何事にも動じず、あまり表情を崩さない。表情の大半は笑顔。それが出会ってから今までの間にニーナが抱いた印象だった。

 それが今、まるで死人にでも会ったかのような驚きっぷりである。

「もっと嬉しそうな顔はできないのか? 兄弟の七年ぶりの再会なんだぞ」

「……そうか、これは夢だ」

「っぷ。っははははははは。相変わらずだなヒリュウ。大きくなってもボケているところは変わらないな」

 豪快な笑い声が辺りに響く。

 ほのぼのとした雰囲気に飲まれかけていた。

 思い出してみれば、ここは盗賊達が巣食う山の中。のんびり話などしていられないはずだ。

 そう気づいて周りを見てみると、やはりすでに囲まれていた。

「今はそんな話をしてる場合じゃないです! 逃げましょう!」

「大丈夫だよ」

 重なって聞こえた同じ響きを持つ声。

「俺がこんな奴らに負けるわけないでしょー」

「こいつらは俺の配下だから何も問題ないよ」

 は? という誰かの声を最後に、誰もが沈黙した。

 足の下を流れる濁流の音がさっきよりも小さくなった気がした。見ると、確かに水位が下がっている。

「何言ってるの? ティーグル兄さん……のそっくりさん」

「ったくお前は。俺を兄と認識しているのかしていないのかはっきりしろ。俺がただのそっくりさんなら、こんなところで盗賊率いてても何の問題もないだろ。まー、俺は本物の兄貴で、ここで盗賊まとめてるのも本当なんだけどな。あっはっはっはっはっは」

「そんな……ことが……?」

 呆然としているヒリュウに、マリアが優しい声色で言った。

「全部本当の話よ」

「そっか……そうだよね。マリアがいるんだもん。嘘なわけない、か」

「おいおい、俺だけじゃあ信用できないってのか?」

「できるわけないでしょっ!」

 そこで初めてヒリュウが笑った。ニーナもその顔につられて頬が緩んでしまう。

 ――と、その時だった。

「今だ、全員でかかれ!」

 尖った声。命令であるとすぐに理解した。

 誰から誰へのか?

 盗賊の頭から、子分達へだ。

 危機を本能で感じとり、ニーナはその場から急上昇した。後から空翼を持つ者が追って来ていた。

「白翼と守り花にはできるだけ怪我をさせずに保護しろ。ヒリュウ以外の空翼は……多少の無茶をしても良い、捕まえろ。そしてヒリュウは……殺せ」

 厳しい声とともに盗賊も飛んでくる。

 自分のことで精一杯で周りまで見えていなかったが、様子が気になりホーンズ達が居た木の枝の辺りに視線をやった。

「放せ!」

「……っ」

 ミューとリンリはそれぞれ捕まってしまっている。

(でも、二人に危害が加わることはないよね)

 二人には怪我をさせないようにと言っていたのだから、あの二人の方はひとまず心配ない。問題は――

「何人束になってかかって来ても同じことだと思うんだけどなー」

 平然と相手をなぎ倒している彼の方だ。力量を考えれば、ヒリュウが簡単に殺されるとは考えにくいが……。

(でも相手はヒリュウさんのお兄さんだし)

 衝撃だったのではないだろうか。そもそも死んだと思っていた相手が生きていただけでも驚きだというのに、その相手が……大切な兄が自分を殺しにかかってくるなんて。

 恨まれている。憎まれている。ヒリュウはそう言っていた。

「まさか……」

 ある可能性が浮かんで、身体の芯が凍えた。

 ヒリュウは、お兄さんが敵として自分に刃を向けてきたら、一切の抵抗をしないかもしれない。

 ヒリュウのところに行かなければ。その思いだけで、ニーナは下降をし始めた。

 しかし目の前には複数の盗賊達。簡単には通してくれそうにない。

「退いてよ!」

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