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兄の死因

「金色化についてみんなに話したいから……どっか休めるところ行こっか」

 ニーナだけでなくホーンズ達をも促し、ゆるゆると先導し始めた。

 いまだ勢いよく流れ続ける氾濫した川。しかたがないので、高い木の枝に座ることにした。ミシッと不安にさせる音がしたが、しなるだけで折れることなく持ちこたえた。

「ホーンズ達は怪我とかしてない?」

「あぁ。こっちは見ていただけだからな。問題ない」

「そう。じゃあ早速だけど本題に入るよ」

 一応確認をしただけで本当に怪我をしているという心配はなかったらしい。

「さっき俺たちが戦ってた相手。みんな思ってると思うんだけど、異常だったでしょ?」

 ニーナははっきりと頷いた。

「あれは金色化って呼ばれる現象なんだよ。俺も初めて見たけど、金翼よりも力が弱い種族にだけ起こるんだ。具体的にいえば、銀翼、空翼、桜翼、白翼。命を失う代わりに身体能力が飛躍的に上がる。彼らはそれをしたんだ」

 それを聞いたホーンズ以外の面々は、引きつった。自分も金色化の対象に入っているのだから、当然だ。

「ホーンズは知ってたみたいだね」

「あぁ。空翼族以外にも現れる状態とは思っていなかったがな。つーかヒリュウ、お前はなんで知ってたんだ?」

「確か書物で読んだって言ってましたよね」

「うん。うちの図書館に……」

 そこで言葉が切れた。

「うちの図書館?」

 ホーンズが言葉を繰り返し問いかけるが、ヒリュウはその質問には答えなかった。代わりにいつもの胡散臭いという表現がぴったりの笑顔を浮かべた。

 ホーンズのこめかみがピクリと震えた。

「お前……この期に及んでまだなんか隠してるのか?」

「ううん。何も隠してないよー。それよりさ、ホーンズはなんで知ってたのさ?」

 嘘だ。ニーナはそう思った。ニーナだけでなく、ホーンズもミューもリンリまでもそう思っていた。

「ホーンズはどうして知ってたの? 何かで読んだの?」

 あからさまに話題を逸らしているが、金色化についての話を進めるべきだと判断したホーンズは会話に乗った。

「いいや、オレは空翼族の仲間から聞いたんだ。力を得る方法がある、ってな。ただ瞬間移動の力がなくなるって知ってやめた。今思えばやめといて正解だったな……まさか死ぬなんて思ってなかったからな」

 危うく死にかけていたと知り、ホーンズは顔をしかめた。

「中途半端な情報ほど怖いものはないねー。あとついでに言っとくと、金色化できる種族の人たちは金色化を近くで見るとすごい恐怖を感じるとも書いてあったよ。だからニーナは金色化した相手を見て怖がってたんだねー」

 ヒリュウは何気なくそう言った。空翼族であるにもかかわらずまるで他人事のようだ。

(他人事みたい、じゃない。本当に他人事なんだ)

「……その口ぶりだとお前は違うと言っているように聞こえるんだが?」

「うん。俺は金色化を見ても何も感じないよー。だって、俺空翼じゃないしさー」

 またもサラリと言ってのけた。さも当然のことのように。

 あまりにも自然に言われたので、ニーナはつい、ヒリュウにその話を聞いたことがあるかと記憶を遡ってしまった。しかし思い出せたのは、染翼の話題の時に知らん顔で飄々と話すヒリュウの姿だけだった。

「それだけのことを隠しておいて……! どうしてそんな平然と話せるんだ!」

 空翼族だと思って勧誘していたホーンズが怒るのも無理はない。

「そんなに怒んないでよー。別に大した事じゃないでしょ。人には言えない事の十や二十、ホーンズにだってあるんじゃないの?」

「……ッチ」

 肯定の意味であろう舌打ちを一つ。ホーンズはそれ以上追及しなかった。

「しかしヒリュウ様。今まで隠してこられた事を、どうして話される気になったのですか?」

「うん、重要なのはそこだよね。リンリちゃん賢い!」

「……お褒めに預かり光栄です」

 照れたようにそう言い、リンリは軽く頭を下げる。

 その様子を笑顔で見届けた後、ヒリュウは珍しく真顔になった。

「俺を狙ってるんだってね、空翼族の連中。少し前までだったら疑問に思うところだったけど、今ならその理由が解るよ」

「お前の知り合いのマリアという女か」

 ホーンズの言葉に、ヒリュウは小さく頷いた。

「待ってください! その人はヒリュウさんのお姉さんだったはずです」

「『義理の』だし『なるはずだった』だけどね。それに俺は恨まれてて当然の事をしたんだ。彼女が俺を殺したいのも解るよ」

 身内に殺したいと思われるなんて。あまり人に好かれず育ってきたニーナだったが、家族に……父や母に憎まれた事はない。

 大切な人に嫌われる。それは想像しただけで泣きたくなるほど悲しかった。

「ニーナがそんな顔することないよ。ほら、俺はぜーんぜん悲しくなんかないんだからさ」

 笑顔のヒリュウを見て、申し訳ない気持ちになった。本当は笑いたくなんかないはずなのに。自分のせいで笑わせてしまった。

「で、その理由っつーのはなんなんだ? 殺したいと思われるなんて相当だぞ」

「ちょっとホーンズ! もう少し柔らかい言い方はできないの?」

「良いって。俺は別に気にしてないし。というかさ、婚約者を殺されて恨むなって言う方が無理あると思わないー?」

 殺されて……? つまりヒリュウが誰かを殺したと?

 ヒリュウの行動を見ていればそれほど驚くことではないかもしれない。だから、最大の問題はそこじゃない。

 ヒリュウの義理の姉の婚約者。それが一体誰を指しているのか、理解するのに時間が掛かった。

「え……?」

 まさか。

 それだけが頭の中で湧きあがり、嫌な予感がしてきた。

「何で死んだか、って問題出したよね。あれの答えって俺なんだよー。俺のせいでさー、死んじゃったんだよ。マリアの婚約者……っていうか、俺の兄さんなんだけどね」

「……っ」

 何も言葉が出てこない。出す言葉が見当たらない。

 この目の前に存在している男は人間なのか? そう疑いたくなるくらい、自分とは感情の回路が違いすぎる。どうして笑って話せるのかそれが解らない。ロインドによって生死の境をさまよっていた時に、ヒリュウは兄を求めてうなされていた。そんな彼が兄を慕っていなかったはずがないのに。

「ちょっと待て。さっきお前、兄は殺されたと言っていただろう。兄は空翼族を理由に殺されたと」

「……兄さんは、空翼族だから殺された。でも……そんな状況に追いやったのは……俺、なんだよ」

 小さな声で苦しそうに、ポツリポツリと話し出した。

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