無力な金色化
(こんな中途半端な力を得るために、君たちは命を落とすのか)
自分よりも圧倒的にか弱い相手を前にして、ヒリュウは同情を禁じ得ない。
兄の存在を思い出させる空翼族に対しては殺さないように手加減していたが、金色化してしまった今、それは無意味になった。
金色化してしまった彼らに先はない。変化した翼は二度と元に戻ることはなく、そのまま死んでしまう。
命をすべて削る代わりに力を得る。それが金色化。しかし得られる力は、その羽の変色と同じで金翼族と同程度。
この場ではそんな力など空翼族が元々持っている力と、意味としては変わらない。
「ヒギャアアアアァァァ」
目の前の男はもうすでに意識はないのだろう。生き物としての本能だけで動いている化け物に成り下がってしまった。
哀れだ。
ヒリュウ達を捉えることを選ばず、相手の強さを認めて退却していればこんなところで無残に命を落とすこともなかったのに。
「すぐに楽にしてあげるねー」
ニーナの目にも明らかだったように、ヒリュウは彼らを殺すつもりで拳を振るっていた。できる限り少ない傷で、できる限り苦しまないように。それ以外、ヒリュウが彼らにしてあげられる事ない。
皮肉な事に、金色化した彼らはなかなかしぶとい。もともと金色化というものが肉体の強化を目的としている以上当然の結果と言えるが、相手に打ち勝つこともできず打たれるしかないとは。
男の持つ短剣が顔の横を過ぎる。そのタイミングを読んでいたヒリュウは同時に接近し、相手の眉間に拳を叩きこんだ。眼球が飛び出し、血しぶきが舞う。翼が停止し、そのまま増幅した川に消えていった。
この場はひとまず片付いた。少し離れた場所からこちらを見ているニーナを見つけ、近づいた。
「待たせちゃったかなぁ? ホーンズ達のところに行っててくれて良かったのに」
「い、いえ……」
視線を下げ、ヒリュウと目を合わせようとしない。
「どうしたの?」
「……な、なんでもありませんよ」
見たところ怪我は無いようだ。しかし、その顔は暗く沈んでいるように思えてならない。
「なんでもなくない! ニーナ、何があったの?」
「あ……」
思わずニーナの腕を掴んで詰め寄っていた。色素の薄い青の瞳が、不安げに揺れる。
その時、ヒリュウにとって予想外のことが起こった。
「っうぅ……っう」
「え、ちょ……ちょっと」
ニーナが泣いた。そしてヒリュウに縋りついたのだ。
彼女がなぜ泣いているのか。その理由が分かればまだ対処のしようもあるが、今しがた合流したばかりのヒリュウには見当もつかない。結果として、彼女を優しく抱きしめることしかできなかった。
「あのさ、理由を言ってくれないと俺には何がなんだかわからないんだけどー」
「うぅ……」
返ってくるのは嗚咽ばかり。この状態のニーナに話をさせようとするのは無理だと悟り、押し黙る。
その時、彼女の背中越しにホーンズ達がやって来るのが見えた。声を上げようとするホーンズに、慌てて人差し指を自らの口に押し当ててサインを送る。
「あー! ヒリュウがお姉ちゃんを泣かせてる」
ヒリュウの想いを汲み取れなかったのはまだ人生経験が浅いせいだろうか。
すでに危険は去ったと言われていたミューは、ホーンズを置いて素早くニーナに飛び寄った。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「……へ」
発した声は掠れていた。
「平気だよ」
嘘だと思った。それは絶対的な確信。
顔は笑みを作っていたけれど、細部に見え隠れする微妙な違和感がヒリュウには透けて見えた。本当の笑顔ならそんなに眉は下がらないし、頬もこわばらない。なにより、彼女の声の調子が違いすぎる。言葉に感情が無いのだ。
まだ収まらない彼女の負の感情を和らげるように、ヒリュウはそっと彼女の背を撫でた。




