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ヒリュウの姉

「オレにもお前らに……つか、ヒリュウに話すことがある」

「えぇ、なになに? もしかして……」

「うるさい、黙って聞け」

 今にもくだらない事を言いだしそうなヒリュウの顔面を手のひらで押さえつけ、無理矢理話を始める。

「お前、なんか怨み買ってないか?」

 ホーンズの視線がヒリュウの赤い髪に移る。

「アジトに見知った顔が居たんだが、そいつが言っていた。――赤い髪の男を消すってな。お前の事だろ」

 どう見ても真っ赤だし、とホーンズは言う。

「うん。たぶん俺のことだよー」

 緊張感のない口調。その口調同様、顔も笑顔のままだ。

「心当たりあんのか?」

「…………うん」

 ヒリュウの髪が顔に影を落とし、その表情を分からなくさせた。俯き加減のまま、彼はぷちぷちと手近にある雑草を抜き始める。

「さっきさ、洞窟で女の人に会ったでしょ?」

「あの、マリアと呼ばれていた人ですか?」

「そう。あの人がさ、俺の探していた姉さんなんだよ」

「えっ?」

 マリアを見たときの尋常じゃないヒリュウの取り乱し方を思い出し、ニーナは頭をひねる。

(おかしい気がする……)

 確かに血縁者であれば大切な人なのだろうが……あの反応は姉というより――。

「姉さん?」

 不自然さに納得のいかなかったニーナは思わず言葉を漏らしていた。それを拾うようにヒリュウは話を続ける。

「うん、姉さん。まぁ……義理……なんだけどね」

「義理?」

「あれー、言ってなかったっけ?」

「……聞いてませんよ」

 探してる人は『姉さん』だと言っていただけだ。それだけを聞いたニーナが実の姉だと勘違いするのは当然だった。

「マリアは……兄貴のお嫁さんになるはずだった人だから」

「……」

 聞きたい事は色々あるのに、上手く言葉にならない。

「なるはずだった、とはどういうことだ?」

 ホーンズが問う。

「死んだんだよ、兄貴。結婚する少し前に、死んだ。殺されたんだ……ただ空翼族だって理由でね」

 ヒリュウはなんでもなさそうな口調でそう言ったが、その顔にいつもの笑顔はなかった。笑顔を作るだけの余裕がなかった事を察し、ニーナの心がシクシクと痛む。

(だからヒリュウさんは、空翼族を蔑む人に対してあんなに冷たいんだ)

「そんな顔しないでよ、ニーナ」

「だって……」

「俺が同情される理由なんて一つもないんだからさ」

 ちょうど良い高さの切り株を見つけ、ヒリュウはそこに腰掛けた。柔らかな髪が風に揺られる。

「兄貴はさ、注意深い人だった。空翼族がどんな扱いを受けるかをよく知っていて、自分の身は自分で守れるだけの頭を持ってたんだ……さて、ここで問題です」

「え……?」

「そんな注意深い兄貴が、どうして殺されるようなことになってしまったのでしょうか?」

 心臓を直接手で握られたのかと思った。

 精神的な痛みなのか、肉体的なものなのか。どちらか判らなくなるくらいには、大きな衝撃だった。

 ニーナはヒリュウの笑顔を目の当たりにしていた。

 内容を聞いていなければ、本当にただの世間話をしているようにしか見えない。

「どうして……?」

「そんなこと、俺達には知りようのない事だ。いいから早く話せ」

 ホーンズは大きな木の根元に座り、ヒリュウをジッと見据えた。

「……そんなに急かさないでよ。うーん、なんて言うかさ、ちょっと話辛いんだよね、さすがにさ」

 何気ない口調に聞こえる。ヒリュウがどんな気持ちなのか、ニーナには解らなかった。

 そんな時に変化が起きた。ふと、周りの雰囲気が変わった。そんな気がした。

 辺りを見回してみるが、気まぐれな風が葉を右へ左へ揺らすだけで、取り立てて変化したとは思えない。

 それでも、何か引っかかる。

 ――コオオオオォォォォォ。

「あ!」

 微かな音をニーナの耳が捉えた。かなり小さな音だ。

「どうしたの?」

「どうした?」

 ヒリュウもホーンズも気づいていない。ミューもリンリも不思議そうにニーナを見つめていた。

「なんか聞こえない? 風が洞窟を吹き抜けるような感じの」

「ッ! みんな、後ろ!」

 ニーナの言葉が終わるか終わらないかのうちに、ミューが緊迫した声を上げた。

 声音から急を感じ取った三人は、間を置かずにミューの指した方向に顔を向けた。三人の顔が揃って引きつる。

 巨大な水の塊がこちらに迫ってきていた。

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