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作戦決行

 ホーンズが気を張りながら近づいていくと、段々と人の声が聞こえてきた。談笑しているようで、その響きは穏やかなものだ。

 中に直接移動できるまでの距離で立ち止り、空間を頭の中に描く。次に自分が出現するポイントを明確に想像した。

 一瞬すべてが無になり、次に目を開けた時には描いた場所に立っていた。素早く役割を実行した。

 煙玉を複数投げ、辺りに催眠ガスをまき散らす。

 突然の事に盗賊達は驚いたようだ。部屋の奥にいた奴らは逃げられずに必死で口を袖で押さえている。その中に見知った顔があった。

 同じく売人をしていた空翼の男。目が合うと近くまで瞬間移動でやってくる。

「ホーンズ、なんのつもりだ?」

 口を押さえたままのくぐもった声でそう問いかけてきた。

「お前こそどうしてここに?」

「ただの配置転換だ。空翼族は売人も盗賊もすべて裏で繋がっているんだから、不思議じゃないはずだ」

(やはりか)

 山に住む盗賊の話を聞いた時に、空翼族全体が関わっている気がしていた。同時に関わっていなければ良いとも思っていた。

 気持ちとしてはヒリュウ達に付きたいが、自分の種族を考えるとそう簡単にはいかない。

「答えろ。なんのつもりでここに来たんだ?」

「……知らなかったんだ」

 なんとか嘘じゃない答えを紡ぎ出した。

「なんだ。じゃあお前も……あ、やべぇそろそろ……意識が」

 彼もそろそろ限界のようだが、ホーンズも根性で意識をとどめている状態だった。

「起きたらちゃんと話す……。あの……赤い髪の男を……消す……けい、かく……」

 ドスンと音を立てて頭から倒れた。かなり痛そうである。

(眠ると分かってんだから、もう少し頭下げとけよ)

 そんな事を考えてるうちにホーンズの方も限界を迎えた。

 まずい。早く座らないと。急いで膝を折り、なるべく頭と地面との距離を近くする。できれば横になってから意識を失いたい。

 しかしそれは叶わず、わずかな距離を残したままホーンズは意識を手放した。



 どれほどの時間が経ったのだろう。妙に静かなせいで変に緊張してしまう。

 ホーンズが突入してしばらくは、催眠玉から逃げてきた盗賊がこちらに逃げ出して来ていたけれどここしばらくはその気配もない。

「んー、じゃあそろそろ行こっか」

 ヒリュウを先頭に、ミューとニーナが続く。

 少し進むと地面の感触が変わった。ヌルヌルごつごつしていたものが、固く踏み歩きやすい道になった。おそらく出入り口が近いのだろう。

 ぼんやりと灯りが見えた。入口までの道こそ自然、ありのままといった感じだったが、中は綺麗に整えられていた。石を削って造られたテーブルやイス。木と木の間にはハンモックが張られていた。

 中に居る盗賊たちは、もちろん眠っていた。一安心だ。

「あれ? ……ねぇねぇねぇねぇ。ニーナちょっとこっち!」

「なんですか?」

 興奮ぎみに呼ばれ、いったい何を見つけたのかとヒリュウの元に歩み寄った。

「この子、見たことない?」

 ヒリュウが指し示す先には女の子がいた。イスに腰掛けたまま机に突っ伏して小さな寝息をたてている。その背に生えている翼は間違いなく花の――桜の色をしていた。

「守り花……?」

「たぶんね。顔をよく見て……この子、リンリちゃんじゃない?」

「リンリちゃん……? ……あー、あの」

 記憶を手繰り寄せると、確かにエントリアルドで守り花見習いをやっていたリンリの顔だ。

「じゃあまさか攫われた守り花って……」

「リンリちゃんのことだったみたいだね」

 ぐっすりと眠っている彼女をそっと抱き上げる。

「ニーナ、この子背負える? それともホーンズ担ぐ方が良いかなー?」

 顎で指した先にいたのは、盗賊達と重なるように倒れているホーンズだった。

 助け起こしてみると、口元にわずかだが血がついていた。殴られたのか、はたまた倒れた時にぶつけたのか。

「僕が治すよ」

 ミューが素早く手をかざす。数秒ののち、うんと頷いた。

「口の中を切ってたけど、大きな傷じゃなかったよ。もう大丈夫」

 その言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろした。

「じゃあニーナ、ホーンズをお願いね」

「はい。……って、無理ですって。自分の体格よりふた回りも大きな人間担げませんよ」

 問題は重さより大きさだった。抱いて運ぶにしても背負うにしても、ホーンズの体は大きすぎる。

「冗談だよー。さすがに女の子にそんな事させるような人間じゃないし」

 よいしょ、という掛け声とともにリンリを左腕一本に抱え直し、右手で器用にホーンズを持ち上げ肩に担いだ。

「ちょ……、ヒリュウさん。リンリちゃんは私が」

「んー? 俺にとっては一人も二人も大して変わんないからさー。……あ! じゃあさニーナが先頭歩いてよ。この状況で盗賊に出くわしたら、さすがに対処しきれないかもしれないし。ニーナが時間稼いでくれれば問題なし」

 確かに両手のふさがっている状態では、いくらヒリュウといえど楽には戦えないだろう。

 ニーナはひとつ頷いて、先頭を歩き出した。

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