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作戦会議

 彼女たちの後をすぐに追ったが、くぼみの先に広がる空間にはまた無数のくぼみがあるばかりで、肝心の人影はどこにもなかった。

「これじゃあ、どこに進めば良いのか分かりませんね」

「マリア……どこ……?」

 ヒリュウは小さく呻くようにそう言った。まるで迷子の子供のようだ。

 いつも笑っていて、おちゃらけていて、好き放題自由に生きているように見える。かと思えば戦いになると、とんでもなく強く……そして容赦がない。

 彼は場面場面で全然別の顔をのぞかせる。掴みどころがない、という言葉がぴったりだ。

「とりあえずあそこのひと際でけぇくぼみから入ってみようぜ? 人が通れる大きさのものはそう多くねぇだろ。しらみつぶしだ」

「そうだね」

 ホーンズの意見に反対をする者はなく、一番大きなくぼみに入ってみることにした。

 下手に触れば手が切れてしまいそうなほどゴツゴツとした岩壁に気をつけながら、ニーナ達は奥へ奥へと歩みを進めていた。

「気をつけろよ。足場が悪いぞ」

「……なんかヌルヌルしてる」

「苔だな。水気が多いのか? すげぇ量だ」

「ほとんど地面が埋め尽くされて……うわぁ!」

 岩場に薄く生えた苔の上をニーナの足が滑る。慌てて壁に手を着くが、その瞬間に鋭い痛みがニーナを襲った。

 ミューの後ろに居たヒリュウが目一杯腕を伸ばし、ギリギリのところでニーナを支えることに成功した。

「大丈夫? って……全然大丈夫じゃなさそう。手、見せて。んー、かなり深く切れてるみたいだね」

「そうなんですか?」

 自らの手を直視する事ができず、傷口から目を逸らしたままニーナは言った。

 ぱっくりと切れてしまった掌。

 真っ赤に染まるそこに、ヒリュウが素早く口を寄せ……舐めた。

「っ! いひいぃっ!」

 ニーナは、おかしな悲鳴を上げるほどのパニックに陥った。反射的に右手をヒリュウから奪い返す。

 肉が裂けている事による痛みとヒリュウの行動。どちらか一方でも耐え難いのに、両方が同時に押し寄せてきたのだから、痛いやら恥ずかしいやらで思考回路が壊れてしまった。

「騒ぐな! 遊びに来たわけじゃねぇんだ」

「だって……だって!」

「お姉ちゃん、ちょっと傷口を見せて。大丈夫。僕はヒリュウみたいに破廉恥なまねしないから」

 破廉恥じゃないもん消毒だもん、と言うヒリュウを無視して、ニーナは素直に手を差し出した。

 ミューはニーナの傷口に重ねるように手をかざし、小さく呟いた。すると柔らかな光が発生し、辺りまでも照らしだす。

 長く伸びる洞窟の隅々までとはいかないが、互いの顔を確認できるほどの明るさはある。

「おい、こんなに明るいと盗賊に見つけてくれって言ってるようなもんだぞ」

「……」

 ホーンズの言葉を受け、ミューは体で光を遮るように立ち、より真剣に治療に集中した。

「だ、誰だお前ら!」

「……だから言ったんだ」

 ホーンズの危惧した通り、光に導かれて盗賊がやってきてしまった。

 それと同時にヒリュウが動く。狭さを感じさせない動きで素早く盗賊を気絶させた。

「光が見えたってことは、ここはアジトの近くなのかな」

「もうそろそろか……んじゃ、これを使うぞ」

 そう言って服の隠しから取り出したのは小さな球だった。

 ニーナはミューに手を差し出しつつ、顔だけホーンズの方に向けた。

「何、それ」

「煙玉。催涙やら毒薬やらいろんな種類のもんが存在するが……今回使うのは催眠玉だ」

「よくそんな物騒なもの持ってたねー。ホーンズちょっとこわーい」

 ヒリュウが茶化す。

「あん? てめぇだって持ってんだろ? 空翼族にとっては必需品じゃねぇか」

「いや? 俺は持ってないよ。基本的に翼隠してるし、襲われた時のことよりも襲われないようにすることを優先してるからねー」

「危機感がねぇな。そんなことだから毒盛られて死にかけんだろ」

 ニーナはかすかに肩を震わせた。その言葉はきっと私の方が当てはまる。そう感じた。

 ヒリュウが強いことはよくわかっている。そしてその強さが油断を生み、空翼であることを隠さず街を歩いてしまった。けれどその原因を作ったのは、自分だ。

 自分の不注意でマントをダメにしてしまったために、ヒリュウに翼丸出しで街を歩かせてしまった。止めることだってできたはずなのに、結局それをせずヒリュウを危険な目に合わせてしまった。

 そうしてしまったのもニーナに油断があったからだ。ヒリュウなら大丈夫だという油断が。

(危機感がなかったのは私。ヒリュウさんは、一人ならきっと平気だった。私が居たせいでヒリュウさんの予定が狂ったから……。だからあんなことに……)

「……ってことだ。おい、ニーナ! 聞いてんのか」

「え……何?」

「ったく、これからどうするかって説明してんだからちゃんと聞いとけ! ただでさえテメェとミューは足手まといみたいなもんなんだから話くらい聞けよな」

 言葉を選ぶこともせず乱暴にそう言ったホーンズ。返す言葉もない。

「これからオレが先に進んで、奴らのいるところでこの煙玉を撒く。中に居んのは空翼が大半だろうから何人かは瞬間移動で逃げるかもしれねぇが、幸い一本道だ。逃げた奴らはヒリュウ一人でなんとかできんだろ。後は全員が眠った頃合いを見て、三人で奥へ来い。警戒は忘れんなよ」

 一方的な説明を済ませると、彼はすぐに一人で奥へと歩み始めてしまった。

「待って。ホーンズはどうするの?」

「あ?」

「煙玉を使った後は? 煙玉を使ったらすぐに、こっちに戻ってくるんだよね?」

「あー……」

 低く唸る。それから目を逸らし、軽く頭を掻いた。

「……寝ながらお前らを待ってる事にするわ」

「なにそれ! 自分の煙玉で眠っちゃうってこと?」

「仕方ねぇだろ、催眠玉なんだからよぉ! それで眠らない人間がいるか! 居たら居たで、逆に困るっつーの!」

 逆ギレされた。しかしニーナも譲らない。

「じゃあ、他の方法を考えようよ。敵陣で居眠りとか……ありえないし」

「いやー、そうも言ってられないと思うよ」

 ヒリュウが穏やかな口調でそう言った。そうして、ホーンズの肩にポンと手を乗せる。

「俺たちが一番安全に、守り花を保護できる方法を考えてくれたんでしょ?」

「……」

 ホーンズの眉間のしわが深くなった。

「この作戦に関してはホーンズに賛成って言ってるんだからさー、もうちょっと嬉しそうな顔はできないのー?」

「悪かったな、地顔だ」

「安心して任せて良いよ。俺が守り花もホーンズもちゃーんと助けるからさ」

 ヒリュウがそう言った瞬間、どうしてだろう、ニーナはなぜかすんなりとこの作戦を受け入れてしまっていた。

(やっぱりヒリュウさんが強いからかな?)

 歳が上というのもあるのだろうけど、それよりも彼からあふれ出る自信がすごい説得力を持っていた。ニーナにはまだ想像がつかずどうすれば良いのか分からない事柄も、おそらくヒリュウにはその過程や結果が見えているのだろう。

「この人数で真っ向から盗賊とやり合うなんて……まぁ、できなくはないけど賢いとは言えないしね。だからさ、ここはホーンズに任せよう。ね、ニーナ」

「はい」

「……ったく、お前はヒリュウが絡むとやけに素直だな。分かりやすいやつ」

 自覚しているだけに、言い返す気にすらなれなかった。

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