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金目的の人助け

 モノフロムの北西には暗く深い山があった。それほど高くない木が広大な土地に所狭しと並んでいる。中に入ってしまえば昼間でも光が届くことはない。

「もー、ホーンズってばどこまで付いてくるのさー」

「お前が空翼の仲間達に挨拶するっていうまでだ」

 モノフロムで再会した売人の男・ホーンズはヒリュウを空翼の仲間として勧誘していた。ニーナが染翼していると知っているのでニーナには何も言ってこないが、ヒリュウに対しては結構しつこく言い寄っているらしい。

「組織に入っていない空翼は連れてくるように言われてるんだ。お前がどこの組織にも属してない以上、絶対に連れて行くからな」

「もー、やっぱりホーンズってば男色家なんじゃないのー?」

「もう、その手にはのらねぇよ。はぐらかすな」

 ニーナとのやり取りから、ヒリュウが健全で自分に害のない存在だと認識を改めたホーンズは強気だ。

「……はぁー、もう勝手にしなよ」

 心なしか疲れているように見える。こんなヒリュウは見たことがなかったので少し新鮮だ。

 ニーナはミューと顔を見合わせて笑った。ミューも勝手に付いてきてしまったという感じだが、ヒリュウにとって無害であるので特に追い払われるような事もない。

 ポツリ、ポツリ。顔に当たった水滴の正体を確かめるため、ニーナは上を向いた。

「やだ、降ってきた」

 空を見上げてそう呟いた。空は灰色に染まり、青はどこにも見当たらない。

 厚い雲が輝く太陽を覆い隠し、昼だというのに薄暗い。

「雨かー、でも今更モノフロムに戻るわけにはいかないしなぁ」

 ヒリュウはフードを被りながら後ろを振り向いた。すでに街の影は見えない。

 四人が麓まで来た時、そこには奇妙な人だかりがあった。

 揃いの服を着た人達が慌てた様子で右往左往している。よく見ると近くには負傷している人間も何人かいるようだ。

「何かあったんですか?」

 ニーナが問うと、緊迫した状態であることが分かるうわずった声で答えてくれた。

「守り花様が拉致された……」

「あぁ、よくある話だな」

 ホーンズが動揺も同情もない声でそういうと、彼らは唇をかみしめた。

「不覚だ……」

 山の向こうにある街の守り花になることが決まっていた桜翼の人間と、その護衛が山に入ろうとした時に、山賊に襲われたらしい。

「よしっ! じゃあ山賊退治といこうか」

 ヒリュウはパンッと手を叩き、力強くそう言った。

「何をどう考えてその結論に至ったのかを説明してください」

「えー、だってその守り花を助ければ報酬出るでしょ。……出るよね?」

 にっこり笑顔で問いかけると、男は力なく言う。

「助けられればいくらでも出すさ。……助けられれば、な」

 まるで期待などしていないという口ぶりだった。

「決まりだね」

「待て。オレは反対だ」

 口元に手をやり何かを考えていたホーンズが口を挟む。

「予定通り山を越えるだけにしておけ。山賊には……関わるんじゃねぇ」

「えー、なんでさ」

「こっちには空翼族が三人と白翼族の子供が一人なんだぞ! 退治なんかできるわけねぇだろ! むしろ、山越えの時に出くわさないように祈ってろよ!」

「子供って言うなっ!」

 ミューが抗議の声をあげる。が、ホーンズはそれを無視して続けた。

「戦力が違いすぎんだろーが! 危険だ!」

「うーん……そっかー」

 激しく強く主張するホーンズに対し、ヒリュウは穏やかに返事をしている。しかし考えを変える気にはなっていないようで、言葉の内容はホーンズの意見を肯定するものではない。

「ニーナはどう思う?」

「え? ホーンズの言う事はもっともだと思うけど……」

 話を振られたニーナは言い淀んだ。

 ニーナはそもそも空翼族ではない。そしてヒリュウが、空翼族の規格から外れた、強力な戦闘力を持っていることも知っていた。

「大丈夫なんじゃないかな」

 ヒリュウさんがいるし、と心の中で付け加えておく。

 それに――自分も空翼族ではないのだから。

「なっ……お前までそんなことを言うのか!」

「平気だよ、ホーンズ」

 ホーンズの青い瞳をジッと見つめた。

(気づいて)

 ややあって、ホーンズはニーナの視線の意味を読み取った。

「……そうか、そうだったな。……いや」

 一度納得しかけ、しかし首を横に振る。

「それでもダメだ。危険な事に変わりはない。それどころか……」

「もう! 埒があかないから多数決で決めようよ! 守り花を助けに行きたい人!」

 ヒリュウがピンと腕を伸ばす。

「ほら、ニーナも」

「あ、はい」

「強制するな」

 挙げかけたニーナの腕をホーンズが捉え、そのまま下げようとする。

「ホーンズの方こそ強制してるじゃん! 俺が促すまでもなくニーナは賛成派だったんだから、その手を放しなよ!」

「ニーナはお前に好意があるからな。本心を抑え込んで合わせてるだけかもしれないだろ」

「え、そうなの?」

 ヒリュウの意識の矛先がニーナに切り替わる。

「い、いや……その……。ホーンズ! 適当なこと言わないで! 私は私の考えがあるんだから!」

「だってさ、ホーンズ。これで二対一だよー。決まり!」

「まだだ! ミュー、お前はどっちにしたい? 山賊と戦うのなんて嫌だろ?」

 今まで黙っていたミューに意見を求めた。争いを好まない白翼族である彼なら、自分の意見に賛成だと思ったのだろう。

「僕は助けに行きたい。山賊に捕まってるなんて可哀想だもん。助けてあげたいよ」

「何っ?」

 ホーンズの想像以上に、ミューは優しくお人好しな少年だった。

「ホーンズは可哀想だと思わないの?」

 ミューは悪意なくそう問いかけた。

「これはホーンズの負けだねぇ」

 小声で呟いたヒリュウ。ニーナもうんうんと頷いた。

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