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社会への挑戦

 モノフロムの街は大勢の人で沸いていた。エントリアルドに行く人来る人でごった返している。

 そんな中、さわやかな色でありながらも忌み嫌われるその翼を隠しもせず歩くというのは、いわば社会に対する挑戦である。

 本来在るざわめきに混じる批難と軽蔑の声。それを右から左に受け流す挑戦者は、ヒリュウだった。その後ろを、文字通り身の丈に合わないマントを引きずりながらニーナは体を縮こまらせてついて行く。

(あぁ、お騒がせしてすみません)

 事の発端であると自認しているニーナは申し訳なさでいっぱいだ。

 街が大きく見えてきても有効な解決策を見いだせなかったニーナに、「俺、マントなしで良いから」とヒリュウは申し出たのだ。彼はそのまま自分の着ていたマントを脱ぎ、ニーナに羽織らせた。

「んー、ちょっと大きすぎるかなぁ。まぁいっか」などとのん気に話を進めていくが、ニーナは反対した。しかし傍若無人で自信過剰、唯我独尊を絵に描いたような彼が聞き入れるはずもなかった。

「やっぱり目立つねぇ」

「知ってるならなんでこんなことするんですか!」

 と言ってると、ヒリュウの前から大柄の男が突進してくる。それをヒリュウは軽く二、三歩ずれて避けた。

「ッチ!」

 大柄の男は周りに聞こえるように、あからさまな舌打ちをした。けれど、それ以上何かをすることはない。

(感じ悪いな)

 わざとぶつかり、怪我をさせて笑い者にでもするか、いちゃもんをつけて金でも巻き上げようとしたのだろう。

 この状況では、聞き込みなどできるはずもない。

「ヒリュウさん、まず最初に服屋に寄ってください。そこで新しいマントを買いましょう。今のままでは誰も話を聞いてくれませんよ」

「うん。俺もそのつもりだよ」

 ヒリュウは建物と建物の間の人一人がようやく通れる細道に入った。はぐれないように慌ててニーナも後を追う。

(なんでこんな道?)

 疑問が顔に出たのかもしれない。振り返ったヒリュウが簡単に説明をした。

「空翼族には空翼族なりの買い物の仕方があるの」

 ヒリュウは唐突に立ち止った。彼の目の前には、小さな戸があった。とてもじゃないが人間が通れるものじゃない。

 ヒリュウがその戸を叩く。数拍置いて、戸が横に動いた。

「いらっしゃい」

「マントが欲しいんだけど。この子に合うやつ」

 ニーナは腕を引かれ、戸の前に立たされた。中にいた人と目が合ったように思えた。暗くてよく分からないが。

 中に居た人――おそらくおじいさんと思われる人がずいっと布の塊を渡してきた。

「はい、ニーナちゃんこれ着て」

 ニーナは指示された通り、ヒリュウのマントを脱ぎ新しいものに替えた。

(すごい、ぴったり)

 ニーナの背丈にちょうど合う大きさだ。一目見ただけでよくこの大きさのものを渡せるものだと、ニーナは心底感心した。

 代金を払い終えたヒリュウに、脱いだマントを手渡した。すると彼はすぐにそれを着る。

「あぁ……ニーナちゃんの、ぬ・く・も・り」

 自らの肩を抱き、マントに包まるようにして恍惚と呟く。

「ヒッ……」

 冗談なのだろう。しかしそうと分かっていても、身体はこわばってしまった。何かがゾゾゾッと体を駆け巡ったようだ。心なしか体温も下がった気がする。

「そこまで引く?」

 ニーナの反応を心外だとでも言いたげに見つめるヒリュウ。

「…………じょ……冗談でも、やめてください。血の気も引きましたよ」

「……ちぇっ」

 道に落ちていた小石を軽く蹴飛ばしながら、ヒリュウはマントを翻しまっすぐ道を進んでいく。

 ほんの少し距離を置いて付いていくニーナは気づいた。彼のマントの裾が、砂で汚れている事に。

(あ……私のせいだ)

 気をつけていたつもりだったが、どうやら引きずっていたらしい。

(ヒリュウさんの持ち物を汚したうえに、私は新しい物を買ってもらうなんて……)

 ここ数日一緒にいて感じたことがある。ヒリュウは優しい。が、その優しさはさり気なさすぎて気づくのが難しい。

 ヒリュウはおそらく、ニーナがマントを引きずってしまうことに気づいていた。知っていて何も言わないのだ。

「……ありがとうございました」

「え? 何? なんか言った? あのさ、ニーナちゃんなんかお腹空かない? 俺もうぺっこぺこ。黒翼族探すのは食べてからにしようよ。ね、そうしよ!」

 振り向いたヒリュウはそのままニーナの手を取り、少し早足で歩き出した。

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