第20話 疑心は確信へ×雨の中の戦慄
案内されて到着した場所は、町から離れたごくごく普通の何の代わりのない開けた場所。
うっそうとした森が目と鼻の先にあって薄暗く、大きな岩や木々が自然の遮蔽物となり不意打ちをするには適した場所となっている。
今、太陽は厚い雲に隠れて雨も降っているこの状況は、更に物は見えずらい。森の中に視線を向ければ、人か影かは判断しづらい。
「ここで盗賊に襲われました。今は近くにはいないようですが、一体どこに……」
「くっ……雨のせいで痕跡が消えているか。ここでは見通しが悪い。森に入ろう。俺が殿を務める。シルヴァーストーン君、慎重に先導してくれ。スターリースカイ君はそのサポートを。他の4人は少し後ろに下がって距離を取って」
「「了解」」
指示に従い俺とマークが前に出て、他4人がトリスタンさんの付近まで下がった。
ゴーグルを付け、弓をセット。慎重に前に進む。
ついに始まる。
1歩、2歩、3歩。その瞬間、微かな殺気が頬を掠めた。時が来た。
(今だ!!)
瞬時に振り返った刹那、矢を放った。
ガシャッ─と音を立てて、剣が地面に転がり落ちた。その上に血が零れ落ちて、雨でたまった水たまりに墨の様に広がっていく。
「ぐっ……?!なん、だと!?」
矢は吸い込まれるように命中したのは、ライナーに向かって隠し剣を振り下ろす直前だった『トリスタンの腕』だ。
狙い通りだけど、タイミングはぎりぎり。危ねぇー。
殺気を纏った瞳には、なぜ勘付かれたのか理解できないような困惑の色が広がっていた。
それと同時にライナーが、案内してきた『自警団もどき』に水属性魔法【ウォーター・カノン】を放つ。巨大な水の球が見事に命中。一気に戦闘不能に追い込む。
「なっ……ぐあっ─!?」
その光景に慌てたのか、木に影に隠れていた『盗賊もどき』が顔を出した瞬間に矢を放ち、処理。他の面々も攻撃を放ち、状況が呑み込めず混乱して顔を出してしまったもどき共を片付けていく。
見えづらいだけで、はっきり見えていたよ。
「調子の乗るなよ、クソガキがっ!! ウラァッ!!!」
やはりこういう場に現れる敵なだけあって、甘くない相手もいるようで。屍を盾にして攻撃を回避。瞬く間に距離を詰めてくる。
岩のような体躯に似合わぬスピードで風を切り、猛烈な速さでフレイ君の後ろに回った。肩にかかるくらいの茶髪から覗く青い目は、背筋が凍るほどの殺気を滲ませ、フレイ君の背中を捉える。後ろからの斬撃で絶対に入ると確信しているかの、顔に刻まれた傷が歪むほどにほくそ笑みながら、剣を振り下ろす。一瞬『危ない!』と思ったが、フレイ君はしっかりその目で斬撃を確認していたのが見えた。
ギャインッ!─甲高い金属音と共に敵の刀身が宙を舞う。
目にも止まらぬ速さで剣を抜き、敵の剣を切り裂いた。刀身は薄く水色の光、波のような波紋が浮き出ている。その切れ味を物語るように、どんよりとした暗い空の下でも刀身は薄く光っていた。騎士団から支給された剣じゃない。
さらにはそのまま剣を返し、表情を固まらせる敵を斬りつけた。
「ガハッ……ぐぁ……ぁ……」
鮮血が噴き出し、少し後退りしながら崩れ落ち、そのまま動かなくなった。その横に宙を舞った刀身が突き刺さる。刀身から血が垂れ、その姿をじっと確認するフレイ君。かっこいい!
相手の動きを完全に読んで武器を破壊しただけではなく、きっちり敵を仕留めた。
ずっと支給された剣かと思っていたけど、上手くカモフラージュして持ってきていたんだね。まぁ俺の弓矢も自前の物だけどさ。
「ロイドがやられたっ!!! こいつら只者じゃねぇ! 慎重に行け!!」
どうやら敵の中でもそれなりに腕の立つ人物だったようで、ぞろぞろと森の中から出てきてきた連中には最初のように勢いだけで来てくるような直線的な動きしかしない者はいなく、慎重に距離を取りながら応戦してきた。
散り散りにならないように固まりながら動いて、飛んでくる魔法や矢を対処。森から離れた距離を取った。
森から出てきたのは、もどき達と距離を取ってにらみ合う。相手の数は30人前後。隠れているのは10人くらい。きっとまだまだ増える。数秒前までの空気とは一変。火花と殺気が散るような張り詰めた空気が、その場を支配した。対峙しているのは盗賊などという生易しいものではない。
スカイ国旗が刻まれたライトブルーの鎧─正真正銘、スカイ国騎士団が着用する専用の鎧。
だが正式な騎士は半分もいない。
団内でトリスタンと行動を共にしてきた連中がちらほら見えるが、大半が騎士団内の手配書で見たことがあるような顔。問題行動や不祥事で騎士団を追われている『騎士崩れ』の連中だ。
一体どこでスカウトしたのか。はたまた最初から繋がっていたのか。
「貴様らぁぁぁ!! 何をしている!!! スターリースカイィィ!!!! なぜ俺を──」
「もうそういう演技はやめましょうよ、トリスタンさん」
腕に刺さった矢を無理やり引き抜いた事で鮮血が舞う中、反逆者と化した騎士の後ろから往生際悪く喚こうとしたトリスタンの声を遮った。色々ともう終わったんだ。
そしてこれから、始めるんだ。
「今回の任務……そんなものは、あなたが俺たちを殺すために作り出した嘘だというはわかっています。正確には……狙いは『俺』のようですけど。貴族まで使って、随分と手の込んだ事をしましたね」
声が震えそうになるけど、なんとか耐えた。
絶対に弱気なのは悟られてはいけない。さっきまで耳に響いていた鼓動は今や、全身を鳴り響かせるくらいに増幅している。
あの時と同じだ。
見つかって、殺されかもしれないという恐怖を抱きながら何もできずに、瓦礫の下から村が壊滅していくのを見ていた時と同じだ。
生死のはざまを歩いているような、生きた心地がしない感触。
人と命を懸けて戦うのは、人生で初めてだ。
独特の緊張感の中で、生存本能が強制的に集中力は高ませて意識は覚醒されていく。なんとも不思議な感覚だけど、きっとこれが死線を生きていくという事なのだろう。




