第09話:求婚(ノイズ)は門前払いで、ついでに陰謀を暴きました
「――我が名はエドワード。偉大なる隣国、バルドゥール王国の第一王子である。聖女リリアーヌ殿。貴女の神々しき噂を聞き、こうして馳せ参じた」
玉座の間。そこに現れたのは、金髪をなびかせ、歯が浮くような微笑みを浮かべた「ザ・王子様」な男だった。
彼は跪き、私の手を取ろうとする。
(……あ、無理。このタイプ、一番苦手だわ)
私は、アステリオス(保冷剤)の冷気で冷やした「冷感枕」を抱きしめたまま、死んだ魚の目で王子を見下ろした。
彼は煌びやかな小箱を差し出し、情熱的に語り始める。
「この『永遠を誓う秘宝』を貴女に。……そして、我が王妃として、我が国へお越しいただきたい。貴女の力があれば、我が国はさらなる繁栄を――」
(要約:私のネームバリューを政治利用して、自分の国をデカくしたい。……つまり、私を今よりさらに働かせる気満々ね!?)
私の脳内アラートが最大音量で鳴り響いた。
この男について行ったら最後、バカンスどころか「24時間365日、全公務出席」の地獄が待っている。
私は、王子が差し出した小箱を一瞥した。
中には、怪しく光る赤い宝石が入っている。
(……っていうか、その宝石。なんかカチカチ鳴っててうるさい。あと、その王子の懐からも、妙な『鉄の匂い』がする。……あー、もう、鼻につくわね。眠気が飛ぶじゃない)
私は、王子の手から強引に小箱を奪い取ると、そのまま背後の窓から全力で投げ捨てた。
「……っ!? 聖女様、何を――」
驚愕するエドワード王子。私は彼を指差し、冷徹に言い放つ。
「……うるさい。……その汚い『中身』、全部ここにぶちまけなさいよ。……あと、その服。……見てるだけで暑苦しいわ。全部脱いで、とっとと自分の国まで走って帰りなさい」
本音である。
「政治的野心(中身)が透けて見えるから黙れ。お前の豪華な衣装(権力)は鼻につくから、丸裸になって二度と私の前に現れるな」という意味だ。
だが、その瞬間。
窓の外で、ドゴォォォォォォン!! という凄まじい爆発音が響いた。
「な……ッ!?」
騎士団長カイルが窓の外を確認し、悲鳴のような声を上げる。
「リリアーヌ様!! あの小箱……投げ捨てられた途端に、暗黒魔力の爆発を起こしました! あれは秘宝などではない、至近距離で発動する『洗脳の呪具』だったのですか!?」
「な、なんだと……ッ!?」
カイルの鋭い視線がエドワード王子を射抜く。
王子は顔を引き攣らせ、後ずさった。
「……そ、それは……、いや、私は……」
「……ふん。往生際が悪いわね」
賢者メイメイが、王子の足元に魔法陣を展開し、彼の豪華な礼服を一瞬にして「消去」した。
すると、服の下から、何十本もの『毒を塗られた暗殺用の短剣』と、この国の要人を暗殺するための『機密計画書』が地面にバラバラと落ちた。
「「「…………ッ!!!」」」
玉座の間が、静まり返る。
「……メイメイ様、見ましたか?」
セレナが震える声で呟いた。
「ええ。リリアーヌ様は、王子が足を踏み入れた瞬間に、彼が服の下に隠していた『陰謀(中身)』を看破されていたのよ。……『全部ぶちまけろ』、そして『全部脱げ』……。それは、この男の虚飾を剥ぎ取り、その醜悪な正体を白日の下に晒せという、究極の審判だったのね……!」
「ああ……っ! なんと恐ろしい観察眼! 我々は王子の甘言に惑わされかけていたというのに、聖女様だけは一瞬で『鉄の匂い(暗殺者の殺気)』を嗅ぎ取っておられたとは!!」
カイルさんが抜剣し、エドワード王子を床に叩き伏せる。
「エドワード王子! 貴殿を『国家転覆未遂』および『聖女暗殺未遂』の罪で拘束する! ……リリアーヌ様。貴女が『自分の国まで走って帰れ』とおっしゃったのは、この男の国、バルドゥール王国に対しても『宣戦布告』を辞さないという、強い決意の表れですね!?」
「「「「おおおおおーーーーッ!!」」」」
(……はぁぁ!? 宣戦布告!? 戦争!? 寝る暇なくなるじゃない!!)
私は、あまりの事態の悪化に、持っていた枕を床に叩きつけた。
「……もう、嫌!! 勝手にして!! 私は寝るの!!」
私は叫び、自室へと全力疾走で逃げ帰った。
だが、その背中に向かって、カイルさんの感動に満ちた声が追いかけてくる。
「……見なさい、あの潔い背中を! 『戦争の指揮など、有能なお前たちが勝手にやれ。私は次の戦いに向けて、神との交信(睡眠)に入る』という、我々への全幅の信頼……! 我ら騎士団、リリアーヌ様の期待に応え、バルドゥール王国の野望を完膚なきまでに叩き潰して参りましょうぞ!!」
「「「「ははっ!!」」」」
こうして、隣国の王子による「求婚作戦」は、開始五分で「国際紛争」へと発展した。
リリアーヌが望んだ「静かな昼寝」は、一発の爆発音と共に、またしても遥か彼方へと吹き飛ばされたのである。
第9話をお読みいただき、ありがとうございます!朝比奈ミナです。
「王子が鼻につくから、裸にして追い出せ」という
極めて個人的でヒステリックな拒絶が、
「国際的なスパイ活動を看破し、敵国の野心を砕く聖断」に化けてしまいました。
・リリアーヌ:なんか時計(爆弾)がチクタクうるさいし、服がギラギラしてて嫌い
・周囲:爆弾の音を聞き分け、隠し持った暗殺計画まで見抜いたぞ!
もはやリリアーヌが何をしても、
「世界の正義」が勝手に彼女の味方をしてしまう無双状態。
でも本人は、戦争が始まって公務が増えることに絶望して泣いています。
「王子の脱がされっぷりが哀れすぎて吹いた」
「リリアーヌの『逆・全知全能』っぷりが加速してる!」
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次回、ついに第1章・最終回!
戦争を回避するため、リリアーヌが放った「最後の一言」が、
大陸全土を巻き込む『とんでもない新秩序』を生み出すことに……。
お楽しみに!




