第10話:【第1章完結】引きこもり宣言が、世界統一の聖典になりました
「リリアーヌ様! バルドゥール王国との戦争準備、整いましてございます! 貴女の号令一つで、我ら騎士団は国境を超え、悪の種を根絶やしにいたしましょう!」
私の部屋の扉を突き破らんばかりの勢いで、カイルさんとファラが叫んでいる。
その後ろには、地図を広げたメイメイと、私の「次なるお言葉」を記録しようとペンを構えるセレナの姿。
(……うるさい。……うるさい、うるさい、うるさい!!)
私の精神は、ついに限界した。
温泉に行けば魔神を連れ帰り、雪が降れば経済を立て直し、王子が来れば国際紛争。
私が動けば動くほど、私の「安眠」と「平和」が、ガリガリと削り取られていく。
私は、頭から布団を被り、芋虫のように丸まりながら絶叫した。
「……もう、嫌!! 誰も私に関わらないで!! 隣国も、この国も、騎士も、魔法も、全部消えてよ!! 人類みんな、一つの家族か何かにでもなって、勝手に仲良くやってなさいよ!! そして私を――永遠に一人にしておいてーーッ!!」
本音である。
「国境なんてあるから戦争になるんでしょ。みんな親戚にでもなって勝手に問題を解決しろ。そして二度と私に話しかけるな、この無能ども!」という、最大級の罵倒だ。
しかし。
部屋の外が、水を打ったように静まり返った。
(……あれ? 言い過ぎた? さすがに「家族になれ」は意味不明だったかしら……)
恐る恐る布団から顔を出すと、そこには。
カイルさんも、ファラも、セレナも、そして国王までもが、床に這いつくばって嗚咽を漏らしていた。
「……おお……。おおお……ッ!!」
カイルさんが、床を拳で叩き、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら叫ぶ。
「……今、私は……『神の真理』を聴いた……! 『人類は一つの家族になれ』……! そうです、国境があるから争いが生まれる。王がいるから野心が生まれる。ならば……王を廃し、国境を消し、全人類がリリアーヌ様を『母』と仰ぐ一つの家族になればいいのだ!!」
(はぁぁぁ!? 今、なんて言った!?)
「『私を一人にしておけ』……。それは、聖女様が個人としての私情を捨て、全人類の罪を一人で背負う『概念』に昇華されるという覚悟……!」
メイメイが、狂ったように計算機を叩きながら笑う。
「ククク……面白いわ。全国家の主権を放棄させ、聖女リリアーヌを唯一の絶対象徴とする『世界統一政府』の樹立……! あの一言は、旧時代の終焉を告げる『滅びと再生の福音』だったのね!!」
「早速、各国の王に親書を送りますわ!!」
セレナが、凄まじい筆致で何かを書き殴っている。
「『聖女様は、貴方たちを家族(兄弟)だとおっしゃっている。拒む者は家族の縁を切る(=物理的に消す)』……。これで、大陸全土に平和が訪れますわ!!」
「ちょっと待って! やめて! そんなつもりじゃ――」
私が止めようと手を伸ばした瞬間、魔神アステリオスが私の背後に現れ、恭しく私の手を支えた。
「……主よ。貴方の『人類皆家族』という壮大な理想、我が冷気をもって全土に刻みつけましょう。……家族の和を乱す不心得者は、私が永久凍土に封じ込めておきます」
(お前が一番怖いんだよ!!)
一ヶ月後。
大陸全土から「国境」という概念が消失した。
かつて争っていた諸国の王たちは、リリアーヌという「共通の母(聖女)」を崇める兄弟として、涙を流して握手を交わしたという。
そして。
リリアーヌは、世界で最も神聖な場所とされる『統一聖都』の奥深く、防音完備、24時間食事供給、外出禁止(というか、恐れ多くて誰も近づけない)の『至高の聖域』に幽閉……もとい、奉られることになった。
「……あ。……静かだわ」
誰もいない、豪華な寝室。
私はついに、念願だった「誰にも邪魔されない安眠」を手に入れた。
(……ふふ。なんだかんだあったけど、結果オーライね。これでようやく、五世紀くらい二度寝ができる――)
そう確信し、私が幸せに瞼を閉じようとした、その時。
部屋のスピーカー……もとい、魔力増幅器から、カイルさんの大声が響き渡った。
『――全人類の兄弟たちよ! 本日も我らが母、リリアーヌ様は我々のために眠り(戦い)続けておられる! さあ、彼女の寝息をBGMに、本日の統一政府運営会議を開始する!! 全人類、聖女様に向かって――礼!!』
(……寝息を全世界に生中継するんじゃねぇーーーッ!!)
リリアーヌの、本当の意味での「安眠」を巡る戦いは、まだ始まったばかりであった。
【第1章・完】
第1章、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!朝比奈ミナです。
「関わるな、一人にしてくれ」という究極の拒絶が、
「世界統一政府の樹立」という、歴史上の誰も成し遂げられなかった
偉業に化けてしまいました。
リリアーヌはついに「神」になりましたが、
その代償として「寝息を全世界に配信される」という、
ある意味で死ぬより恥ずかしい罰(?)を受けることになりました。
・リリアーヌ:引きこもりたい
・世界:統一しちゃった!
・カイル:寝息すらも聖なる音楽だ!
これにて第1章・聖女爆誕編は完結です。
第2章では、リリアーヌの噂を聞きつけて、なんと「天上界の神々」が
「あんなに凄い聖女がいるなら、自分たちの代わりに世界を管理してもらおう」
と、さらなる押し付け(丸投げ)をしにやってきます。
「リリアーヌの羞恥心が限界突破してて笑った!」
「第2章の神様との勘違いバトルも期待!」
と思われた方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】で応援してください!
皆様のポイントが、リリアーヌへの「新たな無茶振り」の種になります(笑)。
それでは、第2章でお会いしましょう!




