第11話:神様がニート部屋に降臨しましたが、不法侵入なので追い出します
世界統一から一週間。
私は、人生で最も「静かで、かつ屈辱的な」朝を迎えていた。
(……聞こえる。全世界に、私の寝返りの音が響いている……)
壁に埋め込まれた魔力増幅器からは、今日も今日とてカイルさんの「リリアーヌ様、本日も健やかな寝息をありがとうございます!」という狂信的な実況放送が流れている。
私のプライバシーは、世界平和という大義名分の前に完全消滅した。
(……あー、もう。神様、仏様、誰でもいいから助けて。この恥ずかしすぎる状況から私を救い出して。そしたら、一生その人の言うこと聞くから……)
私が枕に顔を埋め、心から(適当な)祈りを捧げた、その時だった。
部屋の中央、空間がメキメキと音を立てて裂け、そこから目も眩むような黄金の光が溢れ出した。
「――呼んだかな? 愛しき地上の娘よ」
光の中から現れたのは、これまた鼻につくような美貌を持った、翼の生えた青年だった。
彼は優雅に宙に浮き、私を見下ろして微笑む。
「私は天界の最高神、ゼウス……の孫の、アポロン……の遠い親戚の『お昼寝の神』。君の『助けて』という切実な祈りに、ついに天界が動いたのさ」
(……出たわね。新たな『働かせようとする勢力』)
私は反射的に、枕の下に隠していた「昨日のおやつの食べ残し(かじりかけの煎餅)」を掴み、その神様の顔面に全力投球した。
「……帰れ!! 祈ってない! 呼んでない! 不法侵入よ! 神様なら、雲の上で勝手に雲でも食べてなさいよ!!」
本音である。
「神様なんて一番面倒くさい。これ以上、私に役割(仕事)を増やすな。帰って寝ろ」という意味だ。
だが、神様の顔に煎餅がクリーンヒットした瞬間。
神様は驚愕に目を見開き、その煎餅の破片を震える手で受け止めた。
「……ッ!? こ、これは……!!」
神様は煎餅を凝視し、そのまま床に膝を突いて震えだした。
「……バカな。……まさか、これほどまでの『徳』が……! 君は、私という神に対し、敢えて『日常の糧(煎餅)』を投げつけることで、『神も人も、同じ土俵で生きる存在である』という、天界すら忘れていた『共生の真理』を叩きつけたというのか……!?」
(は? ただのゴミを投げただけなんだけど)
「さらに、この『かじり跡』……! これは、不完全であることの美しさを説く、究極の哲学! 『雲を食べていろ』……それは、天界が地上の苦しみから目を背け、浮世離れしていることへの、鋭い批判……!!」
神様は、煎餅の欠片を宝石のように抱きしめ、号泣し始めた。
「ああ……リリアーヌ殿! 貴女こそ、我ら神々が探し求めていた『次世代の天界管理者』だ! 今の神々はみんな働きたくなくて、天界は書類の山で埋もれている。貴女のような、一瞬で真理を突く賢者に、ぜひ天界の主導権を握っていただきたい!!」
(……はい? 今、なんて言った? 『天界の主導権』? それって、天界の仕事も私がやるってこと!?)
私が抗議しようと口を開いた瞬間、部屋の扉が爆破された。
カイル、ファラ、セレナ、メイメイが、殺気立った表情で雪崩れ込んでくる。
「リリアーヌ様!! 不審な魔力反応が――って、神様!?」
「カイルさん、ちょうど良かったわ! この神様を追い出して! 私を天界に連れて行こうとしてるのよ!!」
私が助けを求めると、カイルさんは「……っ!」と息を呑み、次の瞬間、満面の笑みで叫んだ。
「……おおお!! ついに、ついにリリアーヌ様の徳が、神々の頂点すら屈服させたのですね!! 『追い出せ』……それは、『天界の古い秩序を一度リセットし、私が新たな天の法を作る』という、全宇宙規模の改革宣言!!」
「えっ、違う――」
「素晴らしいですわ、リリアーヌ様!!」
セレナがペンを走らせる。
「『不法侵入』……それは、神といえど礼節を欠く者は許さないという、厳格な平等主義! これで、天界も人間界も、すべて貴女の庭になりますのね!!」
「……フン。神を煎餅一枚で手懐けるなんて。……私の想像を超えていく女ね」
メイメイが満足げに頷く。
「よし、アステリオス! 天界までの特急通路を開きなさい! リリアーヌ様が、神々の怠慢を叩き潰しに参るわよ!!」
『……主の御心のままに』
魔神アステリオスが、部屋の天井を豪快にブチ抜いて、天界へと続く光の階段を形成した。
(待って。……天井、直して。……あと、私は行かない。絶対に行かないってばーーーッ!!)
私の絶叫は、天界に鳴り響く「救世主降臨のファンファーレ」にかき消された。
こうして、世界統一を果たした聖女リリアーヌは、わずか一週間のニート生活を経て、全宇宙の管理職へと強制昇進させられることになったのである。
リリアーヌの、神様すらもドン引きさせる「怠惰な奇跡」は、ついにステージを変えて加速していく――。
第2章の開幕をお読みいただき、ありがとうございます!
「天界からのお迎え」という、本来なら感動的なイベントを、
「煎餅の投擲」という最悪の対応で台無しにしたリリアーヌ。
しかし、神様もまた「働きたくない怠惰な存在」だったため、
彼女の行動を「超高度な経営コンサル」として受け入れてしまいました。
・リリアーヌ:ゴミを投げた
・神:神と人の共生の真理だ!
・カイル:宇宙規模の改革だ!
リリアーヌの敵は、もはや人間ではなく「概念」や「法則」になりつつあります。
果たして彼女は、天界の書類仕事を回避して、二度寝を決めることができるのか!?
「神様すらチョロすぎて草」
「煎餅の解釈が深読みの極みww」
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次回、天界に上陸したリリアーヌ。
そこには「書類の山に埋もれて現実逃避している神々」が。
リリアーヌが放った「こんなの、全部燃やしちゃえば?」という一言が、
天界のシステムを根本から書き換えることに……!?
お楽しみに!




