第08話:雪かきが面倒なので、貧困問題を解決しました
王都に帰還した私を待っていたのは、季節外れの「大雪」だった。
(……いや、犯人は分かってるのよ。私の後ろで『保冷剤』として浮いている、このイケメン魔神のせいよね?)
アステリオスが私のそばにいるだけで、周囲の気温はマイナス十度まで急降下する。
おかげで王都は、一晩にして銀世界……どころか、膝まで埋まるほどの豪雪地帯と化していた。
「……リリアーヌ様! 見てください、この惨状を! 民たちが寒さに震え、物流が止まっております!」
カイルさんが、雪を漕ぎながら必死に訴えてくる。
一方の私は、魔神が発する冷気と、外気の寒さのダブルパンチで、完全に「冬眠モード」に入っていた。鼻水が止まらない。
(寒い。死ぬ。っていうか、雪かきとか絶対したくない。このままじゃ『聖女様、雪かき手伝ってください!』とか言われる未来しか見えないわ……。そんなの、労働の極みじゃない!)
私は、震える手でアステリオスを指差した。
「……ねぇ。……これ、邪魔。……消して。……あと、これ(雪)を全部……お金に、変えて……」
本音である。
「雪が邪魔だからどかせ。ついでに、私がニート生活を送るための追加資金をどこからか捻出しろ」という、ただの強欲な命令だ。
しかし。
私の横にいた賢者メイメイが、またしても「キィィィィィン!」と眼鏡を光らせた。
「…………ッ!! 『雪を、お金に変えろ』……!? まさか、聖女様、あの術式をやるおつもりなの!?」
「え、メイメイ様、何かお気づきなのですか!?」
セレナが身を乗り出す。メイメイは震える声で解説を始めた。
「……アステリオスの冷気は、ただの寒気じゃない。それは純度の高い『魔力の結晶』よ。聖女様は、あえて王都に雪を降らせることで、大気中の不浄な魔力をすべて『雪』として固定させたのよ! そして今……それを『お金(価値ある資源)』へと変換しろと命じられたわ!!」
(……は? 何を言ってるの、このロリババア)
私が困惑している間に、アステリオスが恭しく頭を下げた。
「……御意。我が主の慈悲、今こそ形にいたしましょう」
アステリオスが指を鳴らす。
すると、王都を埋め尽くしていた雪が、淡い青光を放ちながら一斉に「結晶化」し始めた。
それは雪ではなく、透き通った青い塩のような、不思議な粒へと姿を変えていく。
「な……これは!? 伝説の『魔力塩』ではありませんか!!」
カイルさんが、道端に積もった青い粒を掬い上げ、絶叫した。
「一口舐めるだけで疲労が回復し、農地に撒けば一年中枯れない肥沃な土壌を作るという……金貨と同じ重さで取引される、幻の超高級資源……! それが、王都全域に山積みになっているだと!?」
「……そういうことね」
メイメイが深く頷く。
「聖女様は、雪かきという『労働』を、資源採取という『富の分配』に変えたのよ! これなら、貧民街の人々も雪をかき集めるだけで、一生遊んで暮らせるだけの大金が手に入る……。……恐ろしい女。ただ雪が邪魔だと言いながら、同時に王国の貧困問題を根絶したというの!?」
「あああ……っ! なんて、なんて奥深い慈愛……! 民に施しを与えるのではなく、自らの手で『富』を掴み取らせる喜びまで計算されているなんて!!」
セレナが膝をつき、積もった『魔力塩』を拝み始める。
周囲の民衆も、最初は雪に困り果てていたが、それが「宝の山」だと気づくやいなや、「聖女様万歳!!」と泣き叫びながら雪(金)を袋に詰め込み始めた。
(……待って。……え、何? あの汚い雪が、全部お金になるの? じゃあ、私の分は!? 私が一番欲しいんですけど!!)
私は慌てて、自分の足元の魔力塩をかき集めようとした。
だが、その様子を見たカイルさんは、またしても目を潤ませる。
「……見なさい、皆様! 聖女様自らも、民と同じように泥にまみれて塩を集めておられる! 『私は貴方たちと同じ、一人の人間です』という無言のメッセージ……! ああ、その謙虚さ、その共感力……これぞ真の聖女だ!!」
「「「「リリアーヌ様ーーーッ!! 大好きだーーーッ!!」」」」
数万の民衆から、耳を劈くような歓声が上がる。
私は、両手に塩を掴んだまま、あまりの羞恥と絶望に、そのまま雪(塩)の中に顔を埋めた。
(……違う。……違うのよ。私はただ、自分の貯金が欲しかっただけなのよ……。なんでみんなに配っちゃったことになってるの……)
この日、王国の貧困率は0%になり、リリアーヌの支持率は測定不能なレベルまで爆増した。
そして当然のように、「経済を立て直した天才政治家」としての公務が、山のように彼女の机に積み上げられることになったのだが――。
リリアーヌは、自分の手についた塩をペロリと舐めて、「……ちょっとしょっぱい」と泣きながら、またしても三日三晩、ふて寝を決め込むのであった。
第8話、お読みいただきありがとうございました!
「雪かきが面倒」という極めて個人的なわがままが、
「魔力塩による経済革命」へと変換されてしまいました!
リリアーヌが欲しがった「お金」は、彼女の手を通り過ぎて
すべて民衆の懐へと吸い込まれていく……という皮肉な展開です。
・リリアーヌ:雪を金に変えて、私の貯金にしろ
・周囲:雪を資源に変えて、民に配るとは神の再来だ!
本人が一番欲しかった「金」と「安眠」が、
「名声」と「仕事」にすり替わっていくこの絶望感。
これぞ勘違い系の醍醐味ですね。
「リリアーヌの貯金が増えない不憫さが最高!」
「次はどんなやらかしを見せてくれるの?」
と思われた方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いします!
次回、ついに物語は第1章のクライマックスへ向けて動き出します。
リリアーヌの噂を聞きつけた「隣国の野心的な王子」が、
彼女を政治利用するために『偽りの求婚』を仕掛けてきます。
……が、リリアーヌの「最低な対応」が、なぜか王子の心を折ることに!?
お楽しみに!




