第13話:真っ白な部屋で寝たいだけなのに、宇宙を再起動しそうになりました
「――リリアーヌ殿! 天界の効率化、誠に感謝する! お礼と言っては何だが、君専用の『プライベート・ユニバース』を贈呈しよう。ここは君の好きなように作り替えていい、完全なる自由空間だ」
神々から渡されたのは、手のひらサイズの水晶体だった。
どうやら、この中に入れば誰にも邪魔されず、自分の理想の世界を構築できるらしい。
(……ついに。ついに来たわ!! 私の真のゴール!!)
私は、アステリオスを『門番』として入り口に立たせ、一人でその空間へと飛び込んだ。
私の理想? そんなの決まっている。
「……あー。……何にも、いらない。……真っ白にして。……家具も、光も、音も……全部、なし。……ただの、空っぽな……『無』の空間が、いい……」
本音である。
「余計な装飾があると掃除が大変だし、神々が持ってくる派手な調度品は目がチカチカする。何もない防音室で、感覚を遮断して永遠に眠りたい」という意味だ。
だが、その言葉を口にした瞬間。
私の周囲の空間が、凄まじい純白の輝きに包まれた。
「…………ッ!! な、なんという……!!」
入り口で覗き見していた(不法侵入常習犯の)カイルさんとセレナ、そして賢者メイメイが、眩しさに目を細めながら絶叫した。
「メイメイ様、これは一体……!? 聖女様が望まれた『真っ白な世界』とは……!」
「……信じられないわ。……リリアーヌ様は、宇宙が誕生する前の状態……『原初の混沌』すらも浄化し、完全なる『零』の状態に戻されたのよ!!」
(……は? ただの『掃除の手間が省ける部屋』なんだけど)
「見なさい! この何もない空間……! これは『飽和した既存の理』への拒絶! 『全部なし(=全ての罪を消滅させる)』! 聖女様は、この閉鎖空間の中で、宇宙をイチから作り直すための『創造主の演習』を始めようとしているんだわ!!」
「ああ……っ! なんと尊い志! 今の汚れた世界を一度リセットし、純白の善意だけで満たされた新世界を構想しておられるのですね!!」
セレナが膝をつき、何もない「真っ白な虚無」を拝み始める。
私は、その中心で「……あー、静か。最高」と、床に寝転がった。
ふかふかの枕(保冷剤アステリオス製)を抱きしめ、幸せなため息をつく。
「……はぁぁ……。……気持ちいい……。……もう、ずっと、このままで……。……動きたく……ない……」
本音:二度寝の準備完了。永遠にこの静寂の中で眠らせて。
しかし。
私が「はぁぁ」と吐いた溜息が、この真っ白な『無』の空間では「原初の振動」として響き渡ってしまった。
ゴォォォォォォン……。
溜息の振動が空間の壁に反射し、光の粒子が結合して、私の周囲に「新たな法則」が書き込まれていく。
「……見たか! 聖女様の溜息一つで、新たな『生命の律動』が生まれたぞ!!」
カイルさんが窓(?)の外で涙を流す。
「『ずっとこのままで(=この平和を永遠に固定せよ)』! 『動きたくない(=争いのない不変の楽園)』! 聖女様は、自らの呼吸だけで、全人類が永遠に安らげる『至福千年王国』の設計図を描いているのだ!!」
「……リリアーヌ様!! 貴女の溜息から、今、新しい銀河が生まれましたわ!!」
(銀河!? 寝息で銀河ができちゃったの!? 不法投棄じゃない、掃除大変になるからやめてよ!!)
私が慌てて「……やめて! 消してよ、そんなの!」と暴れながら手を振り回すと、その動きに合わせて空間内の魔力が撹拌され、宇宙規模の『浄化の嵐』が吹き荒れた。
「……おお!! 『やめて(=古い悪を滅ぼせ)』! 『消せ(=不浄な因果を断て)』! 聖女様の舞(※ただの暴れ)によって、天界の淀みが完全に払われていくわ!!」
メイメイが狂ったように数式を書き殴る。
「リリアーヌ様……貴女はもう、聖女なんて器じゃない。……全宇宙の法を書き換える、『原初の女神』そのものだわ!!」
「「「「リリアーヌ女神様ーーーッ!!」」」」
外から聞こえる数万の神々と人間の合唱。
私は、真っ白な空間の中で、新しく生まれた銀河に囲まれながら、絶望して枕を投げた。
(……おかしい。静かに寝たかっただけなのに。なんで私が宇宙を再起動してることになってるの……。っていうか、銀河が眩しくて、目が冴えちゃったじゃない!!)
リリアーヌの「安眠への執念」が、ついに「ビッグバン」を引き起こしてしまった。
彼女が望む「静かな夜」は、彼女自身が放つ「創造の光」によって、またしても永遠に明けない昼へと変えられてしまったのである。
第13話をお読みいただき、ありがとうございます!朝比奈ミナです。
「何もない白い部屋がいい」=「宇宙をゼロから作り直す創造主の意志」
「溜息」=「生命誕生の振動」
……もはや勘違いの規模が、惑星どころか宇宙単位になってしまいました。
・リリアーヌ:感覚遮断室で寝たい
・周囲:新世界の法を構築中だ!
・宇宙:聖女様の寝返りに合わせて、銀河が再編される。
リリアーヌが寝返りを打つたびに、どこかのブラックホールが消え、
新しい太陽が生まれるという、極上の他力本願(?)宇宙創生。
本人は「眩しくて寝られない」とブチ切れています。
「寝息で銀河が生まれるw」「掃除の手間を考えてるのがリリアーヌらしい」
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次回、リリアーヌの「寝返り」が原因で、天界に『謎の流星群』が降り注ぐ。
その流星の一つが、封印されていた『最古の邪神』を直撃し……!?
お楽しみに!




