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加賀 アスミ side
間壁様が泣いています。
まるで狂った幼子のように、泣き叫んでいます。
そして一人一人防人様達の名を呼んでいます。その中には、私の知らない名もありました。
きっと、元の世界にいる友人の名前でしょう。
私はここまで悲しさを表した人を知りません。
私も、大切な人を亡くした時は、目一杯泣きました。
でもそれは、一人ずつです。
義兄、義姉、義父、みんな一人ずつ亡くなりました。
間壁様は、それが一度にやって来たのです。
その悲しみは私に理解できるでしょうか?
いえ、理解してあげたい、悲しみを分かち合いたい。
こんなに人を愛しいと思ったのは、初めてです。
そばに行ってそっと抱き締めると、間壁様は私に向き直り、抱きついてきました。
私も涙が止まりません。
間壁様の悲しみが伝わって来ます。
私はそれがたまらなく嬉しかったのです。
いつかのように傷の舐め合いになりました。
それでもいい、少しでも癒されるのなら!
そうして抱き合い、泣き合っていると、本間さんと梶谷さんがそばにやって来ました。
彼らは、ずっと取材を続けていたのです。
間壁様は気付いていないのか無反応です。
「間壁君、もう俺達は、これ以上見ていられない。
君のようなまだ大人になっていない少年に、こんな苛酷な現実を押し付けた人間が許せない!
必ず、この事は世界中の人々に伝える。二度とこんな事が起きないようにしてみせる!」
彼らの決意を感じます。
「本間さん、戸田さんに、加賀が今までありがとう、と礼を言っていたと伝えて下さい」
そこまで言ってから間壁様の方を見ます。
「私は、もうこの人から離れる事が出来ません。
一緒にに逝きます」
私の宣言に本間さん達は驚いています。ですが納得してこの場を去って行きます。
梶谷さんが転移の間を出る前にこちらを見て言いました。
「間壁君、間壁 草太君、君は立派だった!
いや、君だけじゃない、君達防人達はどんな大人より立派だった。
君達に会えて本当にに良かった」
それだけ言うと、きびすを返し、二人とも出て行きました。
転移の間は私達の泣き声だけになりました。
どれ位たったのでしょう?誰かの足音が聞こえてきました。
そちらを見ると、佐竹隊長が立っていました。
「秘書官、無事・・・・ではないですね。でも終わったようですね。
外は援軍が来て、テロリストどもを制圧しました。
あなた達は、これからどうしますか?
私はもうこの塔は、この国に必要無いと思います。
二人が逝くならこの塔も一緒に連れて行って下さい」
そう言うと彼は、ジョニー・カーラントが持っていた爆薬の起動用スマートフォンを私に渡しました。
そして私と間壁様に向かって敬礼すると
「防人様、秘書官、今までご苦労様でした」
とだけ言って、この場を立ち去って行きました。
佐竹隊長の言う通りです。もうこの国には、異世界転移者は必要ありません。
佐竹隊長の気遣いが嬉しいです。
間壁様に妖魔と戦う為の知恵もいただきました。
この塔は、破壊すべきでしょうね。
しばらくすると間壁様が泣き止みました。
そして私の顔をじっと見つめています。
私も見つめ返します。
「加賀さん、僕・・・・ごめんなさい。あなたに甘えてしまった」
私は、何も言わず間壁様に抱きつき、抱き締めました。
「私の方が甘えているんです」
と言うと間壁様は、抱き締め返してくれました。
「ごめんなさい、私、あなたと離れたくありません。
このまま一緒に逝かせてもらえませんか?」
「え、まだ生きられるのに?」
「あなたがいなくなるのが耐えられそうにないです。
私は、あなたに惹かれてしまったようです。こんな女にもなりきれてない私では駄目でしょうか?」
「そんな事ありません。あなたは魅力的です。
僕も加賀さんの事が好きです。惹かれています。
あなたがそばにいてくれるなら・・・・」
そう言うと、抱き締める力が強くなりました。
「もう、加賀なんて呼ばないでほしいです。
アスミと呼んで下さい」
「え、アスミ・・・・さん?」
「ハイ、草太さん」
そう言うと、自然と抱き合っていた腕をほどき、お互いに見つめ合います。
「さん付けは、とれそうにないですね」
と、私が言うと
「フフフフ」
「ハハハハ」
と笑い合ってしまいました。
そしてまたお互いに見つめ合います。
私達は、どちらからともなく自然と唇を重ねていました。
小鳥の啄みのような、ほんの少しだけ触るキスでした。
そしてまた、お互いを見つめ合います。
二人とも恥ずかしかったので顔が真っ赤です。
お互いに顔を見られたくないので、また自然と抱き合います。
すると草太さんが
「僕、死ぬ前にこんな素敵な人を好きになって良かった。
アスミさんがいてくれて本当に良かった」
と言ってくれます。
「私もです。草太さんと会えて良かった。本当に嬉しいです」
と私も言い返します。
しばらく二人で抱き合っていると
「アスミさん、屋上に行かない?月を見たいんだ!」
「ハイ、私も見たいです」
月を見れば後、どれぐらい生きていられるか分かります。
私達は抱き合っている腕をほどき、今度は手を繋いで屋上に向かいます。
草太さんの歩みはゆっくりですがジョニー・カーラントを舌戦でやり込めた後、転移の間に来るまでのあの重苦しくて、悲しく、て辛かった足取りよりもずっと軽やかです。
屋上に上がると、満月が綺麗に見えました。
夜明けまで、後二三時間といったところでしょうか?
月を二人で見上げながら話しをします。
小さかった頃の思い出話から、私は父や兄弟、姉妹達の事、草太さんは育った施設の事などをお互いに話していきます。
ですが、楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまいました。
東の空が明るくなっていきます。
間も無く夜明けです。
草太さんのタイムリミットです。
私はおもむろに、起動用スマートフォンを取り出して言いました。
「これで、すべて終わらせましょう」
「本当に、いいの?」
と、草太さんが確認してきました。
それが彼の優しさの表れだと思うと、嬉しくてたまりません。
「私は、あなたと離れる方が死ぬより辛いです。
私に辛い思いをさせたいですか?」
「まさか、でもすごく嬉しい!」
と、私に笑顔で返してくれました。
そして二人の片方ずつの手でスマートフォンを握り、もう片方の手を重ねて、二人一緒に画面をタップしました。
スマートフォンをタップしたと同時に轟音が響き、私達は爆発の光りの中へ包まれました。




