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この物語の中では、サブリミナル、催眠、暗示、洗脳などをほとんど同じものとして書いています。
実際にはそれぞれ特色があって違うのでしょうが、この物語の中だけの設定だと解釈してもらえれば有難いです。
加賀 アスミ side
間壁様は本当にすごいです。
誰も思い付かなかった事に気付いて、私達を導いてくれました。
戸田さんが言ってました。
「この榊の銃弾を発展させていけば、宝玉の力は要らなくなるよ」
彼は、私達が何十年と乗り越えられなかった壁を、ぶっ壊して風穴を開けてくれたのです。
戸田さんが、苦手なヘリコプターに乗ってでも実戦の試射に立ち会いたかったのがよくわかります。
しかし、そんな興奮も一気に覚めるような情報を戸田さんは、私にもたらしました。
「アスミ、気を付けなよ、村田局長はまた何やらいろいろ人と会っているみたいだから、それと国内であのジョニー・カーラントの目撃情報があったらしいわ」
村田局長の事は、予想はついていました。
しかし、あのジョニー・カーラントがこの国に現れるなんて。
ジョニー・カーラントは、国際的なテロリストです。
ジョニー・カーラントの主導したと思われるテロで、何千人と死傷者を世界中で出しています。
彼がこの時期にこの国に現れたのは、宝玉の力に関与する事かもしれません。
私は、その日の内にジョニー・カーラントの顔写真や、起こしたテロの大まかな情報などを防人様に配布したスマートフォンへ送信しました。
そして、口頭でも防人様達を集めて注意を促しました。
今、私が出来る事はそれくらいです。これから先は、もっと情報を集めて動かないと、と勢い込んでいると、政府中枢から通達がありました。
それは、首相主導で防人様を招いて晩餐会を開く、というものでした。
全く、この時期に、と思いますが、これは毎回防人様を招いて行われる行事みたいもので、断るわけにもいかず、取りあえず準備を進めました。
そして晩餐会当日、私は軍の制服、防人様達は私が手配した礼服を着てのぞみました。
本当は、男性はタキシード、女性はドレスを準備したかったのですが、昨今の国防軍はマスコミに評判が悪いのです。
あまり派手な格好をすると、何と書かれるかわかったものじゃありません。
女性達からの評判が悪かったのですが、仕方がありません。
晩餐会は各界の著名人や、有力な政治家などが参加していました。
彼らの狙いは、もちろん宝玉です。
防人様と個人的な友誼を結び、あわよくば宝玉を自分の為に使ってくれないだろうか、と近付くのです。
ただ本当に、純粋に不治の病などを治してほしい、と願う者もいます。
しかし、純粋に願う者の背後で名を売ろう、と暗躍する者もいるのです。
様々な欲望が渦巻く場である、という事を防人様達には伝えてあり、後は個人の判断にまかせることにしています。
毎回、この晩餐会で妖魔討伐以外の宝玉の使い道が決まるのでした。
私は、防人様達の様子を見ながら壁の花と化していました。
そんな私に話しかける者がいました。それは村田局長でした。
「フン、こんな所に出来損ないが、おい喜べ、私がわざわざ防人達の為にカウンセラーを準備してやったぞ、お前などよりずっと優秀な男だ」
相変わらず、人を蔑む言動を取りながら、後ろの男を紹介してきました。
「初めまして、吉川 里志と申します」
と言って私に握手を求めてきました。
私は、握手を交わしながら何やら嫌な予感を感じていました。
「局長、前回も前々回もカウンセラーなど準備しなかったはずですが?」
「フン、今回は特別だ。
何せ防人は十五歳と若年だからな、私も気をきかしたというわけだ」
もっともな事を言っていますが、何か企んでいる事は明白だと、思いました。
私は、「そうですか」とその場を取り繕いました。
局長は、西脇秘書官と吉川という男を引き連れてその場を後にしました。
西脇 梨香は、派手なドレスを着ていましたが、あまり似合っていませんでした。
しかし、あの吉川という男はあまり特長のない男でしたが、私は何か不気味なものを感じました。
今後は警戒心をもっと上げなくては、と自分に言い聞かせる内に晩餐会は終了しました。
三件の不治の病を持つ子供に宝玉を使う事が決まりました。それ以外は、毎回行われる晩餐会と大差ありませんでした。
その後、研修施設へ帰り、今後の予定などを決めていると、吉川カウンセラーから連絡がありました。
明後日からこちらに伺うという連絡でした。
私は、断れる訳もなく仕方なく、了承しました。
草太 side
吉川というカウンセラーがやって来た。
彼は僕達にリラックス効果がある、という映像を見せた。
その後、一人一人面談を行った。
僕は、何か胡散臭さを感じていた。
それというのも吉川という男は、あの局長の紹介だからだ。
面談は当たり障りの無い事しか聞いてこなかった。
そしてその日はそのまま帰って行った。
次の日も映像を見せられた。
僕は、何故かこの映像を見ていると気分が悪くなった。
だから、見ているふりをしてスマホで映像を録画しながら耳をふさぎ、目をつぶっていた。
そしてまた、面談をしてカウンセラーは帰って行った。
その後、クラスのみんなと雑談していると、何となくいつもと違うような気がした。
僕は違和感の正体を探ろうとみんなをよく観察した。
すると目がトロンとして意志がはっきりしない者や、僕と同じように気分が悪くなったのか、頭を押さえている者がいる。
剛志や将も似たような感じだ。
僕は、おかしいと思った。
すぐに加賀さんに相談した。
加賀さんも違和感を感じていたらしく、僕の相談にすぐに応じてくれた。
「やはり、いつもと違いますね」
加賀さんもみんなを観察して、僕と同じ感想をもらした。
僕は、加賀さんに録画した映像を見せながら言った。
「この映像を見てからみんなが、おかしくなったような気がする」
加賀さんは、映像を見てすぐに判断した。
「この映像をコンピューターにかけて、解析してみましょう」
その結果は、サブリミナル効果を狙った映像が入り込んでいる事がわかった。
「ただ、これが何の効果を狙った物なのかが、わからないのです。
もしこれが、何か悪意のある効果を狙った物なら、大変問題です。
ですが、私達はそれを証明する知識がありません」
「僕は頭が痛くなったし、みんなも様子がおかしいんです。絶対、悪意がありますよ」
「ですが彼が、これはリラックス効果を狙った物だ、と言われれば私達はそれを覆す専門知識が無いのです」
「誰か、僕達の味方で専門知識のある人は、いないんですか?」
「う~ん、彼女に聞いてみますか」
と言うと、おもむろにスマホを取り出すと電話をかけ始めた。
そして、コンピューターを使って録画した映像を何処かに送信していた。
「取りあえず、知り合いに誰か紹介してもらえるように頼みました。
問題は、防人様達が受けている影響ですが、専門知識を持つ者にアドバイスなり受けてから対処した方が良いでしょうね」
「確かにそうかも知れないけれど、少し試したい事があるんだけど、いいかな?」
「試したい事?」
「うん、サブリミナルって、洗脳とか催眠術みたいな物だよね。
だから本人の本能みたいなものを刺激したらどうだろう?」
「大丈夫ですか?変に刺激して脳に障害とか残ったら」
「だから本当の本人に語りかけるんだよ!」
そう言って僕は行動を開始した。
僕の大切な人達の脳をいじくって、どうにかしようとしている奴がいる、と思うといてもたってもいられなかった。
まずは、剛志に声を掛け、訓練場へ連れていった。
加賀さんも同行している。
剛志は、微熱で頭がボウっとしている時みたいに目がウツロで、ただ黙って立っている。
だが、僕が言う事は分かるみたいで反応はある。そんな感じだ。
そして剛志に声を掛ける。
「剛志、宝玉を出してみて、僕の心臓が治るかもしれないよ」
そう言うと剛志の目付きが変わった。
実際は嘘だ。後から剛志にどれだけ責められるかわからないが、それでも構わない。
僕は、剛志を取り戻す、僕の言葉で!ずるいと文句を言われてもいい、必ず取り戻す、剛志だけじゃない、将も浩幸も他のクラスのみんなも、必ず取り戻す!
「剛志、剛志が願えば僕は生きて行けるよ!」
生きて行ける事なんて、ほぼないだろう。
でもこの時だけは、そう言った。
「ホントだな、絶対だな、必ず生きて行けるんだよな!」
剛志に正気が戻ってきた。
そして剛志は、集中して宝玉の力を溜めだし、あっという間に宝玉にしてしまった。
「ごめん、剛志、一旦、宝玉を引っ込めてくれないかな」
「何で?何か問題があるのか?」
「いや、剛志の方は問題ないよ。問題があるのは僕の方さ・・・一旦、宝玉を引っ込めてくれると助かる」
そう言うと剛志は、訳がわからないといった感じで宝玉を体内に戻した。
僕は、剛志の方を見る、いつもの剛志だ。
剛志が戻ってきたと思うとホッとした。
そして剛志の真正面に立つ。
「剛志、ごめん、宝玉で僕の心臓が治ると言うのは嘘なんだ」
と言って僕は深々と頭を下げた。
「どうしてだ?何で嘘をついた、俺を馬鹿にしてんのか?」
剛志は、大声をあげて僕に詰め寄った。
僕は、言い訳しようとすれば出来た。
しかし、それは何か誠実じゃないような気がしたんだ。
だから、ただ「ごめん」とだけ言って頭を下げた。
剛志は、僕の服の襟をつかんで引っ張り、僕の顔を強引に上に向け、僕の顔を覗き込む。
「なんとか、言えよ」
「ごめんとしか、言えない」
「何だよそれ」
剛志が呆れた顔を見せた時に加賀さんが参入してきた。
「室田様の為だったのです。
間壁様が嘘を言ったのは、室田様の為だったのです。
室田様、宝玉を使う前と後で何か変わりませんか?」
「宝玉を使う前と後?」
「そうです、前と後です。頭の中がはっきりしませんか?」
と加賀さんが質問し直すと、剛志は考え込んだ。
そしてハッとした顔をして、また僕の顔を見てきた。
「俺、なんか夢の中にでもいたような気がする。
そうだよ、宝玉を使う前は、なんか頭にモヤがかかったような感じで何が何だか分からないんだ!」
「今は!」
と加賀さんが聞き直す。
「今ははっきりしている!」
そして剛志は、僕の襟を離すと。
「俺、どうかしていたのか?」
と、やっと状況を理解したようだ。
「室田様は、洗脳を受けていたようです」
「洗脳を受けていた?」
「そうです、他の防人様を見ていただければ分かります」
剛志は、黙って僕の方を見た。
僕も黙って頷いた。
「他の連中を見せてくれ!」
こうしてクラスメートの下へ様子を見に行った。
今はまだ、みんな、普通は気付かない程度の差しかないが、確実に目がウツロであったり、こちらの問い掛けに返事が曖昧であったりした。
剛志もそれを認めて。
「俺も、こんなだったのかよ!」
とショックを受けていた。
「みんなを元に戻そう」
と僕が言うと剛志は強く頷いた。




