物語設定資料販売所4
数時間後、再びチリンとドアのベルが鳴った。
「こんにちはー、この前頼んでいたもの、出来てる?」
声を聴いてカルチェが事務所から顔をのぞかせると、若い男性が笑顔でこちらを見ていた。白いシャツと紺のデニムが若者らしい。
「あ、アラーキーさん、こんにちはでふ。この前の資料でふね。少々こちらでお待ちくださいでふ」
カルチェがテーブルに案内し、アラーキーを座らせると、アティカがいる事務所に向かった。
「お姉ちゃん、アラーキーさんいらっしゃったでふよ。この前お願いされてた物語の設定、取りに来ているでふ」
「ああ、アレね。その引き出しの中に入ってるわよ」
アティカは「物語設定依頼分」と書かれている引き出しを指差した。中には様々な資料が入っており、カルチェはその中から"スイートドリーム アラーキーさん"と書かれた表紙の設定資料集を手に取った。
「あ、たしかこれでふね」
「それそれ。一応中身確認して持って行って」
カルチェは資料を開き、中身が間違いないことを確認すると、事務所から出て客であるアラーキーの待つテーブルに向かった。
「お待たせしましたでふ。こちらが設定完了の資料でふ」
カルチェから資料を受け取ると、アラーキーは、待ってましたとばかりに設定資料に目を通した。ページをめくる手が徐々に早くなっていく。
「おお、これなら今回もおもしろい話になりそうだ」
「今回も連載取れそうでふか?」
「もちろん! これだけいい設定なら行けるよ。ありがとう!」
そう言うと、アラーキーは資料をカバンに入れ、満面の笑みを浮かべて、店を出た。
「とりあえず、満足してもらえたみたいでふ」
「お疲れ様。あの話って、結構設定作りやすかったわ」
現実で見る夢は、なんとも甘く切ないものだ。夢を見ることは誰にでも出来る。だが、叶えることとなると、本人のただならぬ努力が必要だ。
そんな砂糖のように甘い夢に向かう少女の物語が、依頼されていた話である"スイートドリーム"のあらすじである。
「何で主人公が中年男性だったのかなぁ、とか思ってね。少女にしてみたわけ」
「……主人公変えちゃだめでふよ」
「いや、話が全然出来てなかったみたいだから。ほら、少女って夢見がちじゃない?」
「そんなもんでふか?」
当初は主人公が、四十代になって夢を追いかけよう、というテーマだった。しかし、それだとあまりに話が進まないので主人公を少女にし、中年男性はサブキャラクターにしたのだ。
他にも、その少女の設定、中年男性の設定なども、主人公が少女のほうがやりやすかった、というのがアティカの言い分だ。
「あんまり大きい設定いじっちゃうと、大変なことにならないでふか?」
「案外、そうでもなかったりするのよ。大元の設定を変えても、全体の流れは変わらなかったり、逆に大元の設定を変えることで、物語がスムーズになることだってあるのよ」
「ふぅん、そうなのでふか」
アラーキーのように、もとになるアイデア、簡単な設定がある場合、それをもとに設定を完成させるというサービスも行っている。
自分で設定を行ってはいるものの、途中で話が進まなくなってしまった、という場合に利用している人が多い。
「で、まだ作業してるでふか? そろそろ休憩でも……」
カルチェが言いかけた時、チリンと入口のベルが鳴った。
「はーい。あ、幸運の買い取り希望でふね。お姉ちゃん、仕事でふよ」
アティカは書きかけていた資料を閉じ、慌ててエプロンを着けた。




