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物語設定資料販売所2

 物語の資料を売り始めたのは、今から数か月前。看板を掲げ、広告を作ったはいいものの、当然こんな怪しいところに来る客はおらず、しばらくは誰も資料を買いに来なかった。

 最初に来た客は、全く売れない漫画家であった。


「担当から10本ボツにされたんだ。次にいいネームがかけなければ、連載は諦めろって言われているんだ! 助けてくれ!」


 そう泣きつかれ、ちょうど最初に作り上げた設定資料集の説明を行い、その漫画家に売ったのが最初の売り上げである。

 その漫画家はもともと画力に定評があったため、設定資料を基にした漫画は現在では大人気の連載漫画となっている。コミック第1巻が発売されたときには、その漫画家が見本誌を持って泣きながらお礼をしに来たくらいである。


「あのときのタイトルは、確か『夢工場のお仕事』だったでふか?」

「そうそう、当たり前のように見ている夢だけど、実は夢の世界でも政治をしたり、商売をしたり、工事をしたりしている人がいて、みんなが安心して夢を見ることができる、って設定だったかしら。 小学生の頃に作った設定だから、結構いい加減だったのよね、あれ」


 そのときの販売価格は、15000円。一つの設定で大ヒットを飛ばせ、好きな仕事が続けられる上に大きな収入が得られると考えると超破格の値段だ。

 以来、何人かの小説家や漫画家がその設定資料集を買っていったが、それらの設定を使った小説や漫画はすべて、ベストセラーになったり、長期連載されたりしている。それらの作品は、すべて店頭の本棚においてあり、客も読むことが可能である。

 しかし、大ヒットを飛ばせる凝った設定が出来るのであれば、その設定を使って小説なり漫画なりを書いたほうが早いのでは?と思うかもしれない。

 実際、アティカもその設定を使って自分で小説を書いたことがある。その小説の冒頭は以下のようなものだ。



【限定カラオケサバイバル】


 今の世の中、様々な娯楽施設がはびこっている。その中でもカラオケという物は、暇人たちが暇をもてあますための道具として使用しているものだ。

 そして、そのカラオケという名の世界を、とあるゲームに使用しようという悪の組織が現れていた。

 時刻は12時。悪の組織の一人が呟いた。


「これから始まる……楽しいゲームが……」


 カーテンを開け、そこから見下ろすと、舞台となるカラオケルームが見える。そう、ここが"ゲーム"の舞台なのだ。


「くっくっく……これから楽しもうと思っているところ申し訳ないが……ゲームを開始させてもらおう」


 男はそういい残すと、自室のドアを開けた。窓から差し込む朝日が、ゲーム開始の合図を知らせる……


****


 この冒頭文を読んだカルチェは、そこだけで頭を抱えてため息をついた。


「どう? 私の力作は」

「どこから突っ込んでいいか分からないでふ」


 そういわれて、アティカはすこしへこんだ。


「とりあえず、カラオケに行くのが暇人みたいな書き方になっているのはどうかと思うのでふ。そして突然出てきた何のためかわからない組織も意味不明でふ。さらに言うなら、12時が深夜なのか昼間なんかも分からないし、次のシーンでもう朝日が出てきてるしで時間軸もぐちゃぐちゃでふ」


 などと、突っ込みどころを列挙した。


「な、ならばあんたが書きなさいよ!」

「フッ、私の文章力をなめてはいけないでふよ?」


 そう言うと、カルチェは設定資料を持って机に向かった。


 そして一時間後……


「できたでふ」

「どれどれ?」


 アティカは、カルチェが書いた小説を読んでみた。


「……私と大して変わらないのでは……?」

「だから言ったでふ。私の文章力のなさをなめてはいけないと」


 要するに、二人とも文章力が壊滅的なのである。

 設定はかなり凝って神がかっているものの、それを文章にしようとすると、時間軸やら言い回しやらが意味不明なことになってしまう。


「うーん、カラオケの選曲を、アーティストで限定させて、それで歌えなくなったら抜けるっていう発想はよかったのでふが、どうも文章にして話を進めるのは難しいでふね」

「まあね。選曲カードとか、実際作ったら面白そうなんだけどねぇ……つまりは材料を料理する人次第ってことかしら」


 ここでの設定はかなりの完成度を誇る。この設定を生かせるかどうかは、物語を描く作家自身の腕次第となる。

 いくら設定が凝っていても、話を進める能力や語彙力が無ければ、その設定の面白さがなくなってしまう。

 そのような能力は、いろんな文章を読むことで身についていくものだが、この姉妹にはそういったことに興味がないようだ。

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