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物語設定資料販売所1

 小説を書いたり、シナリオを書いたり、そういった仕事をしている。

 あるいは、これから小説を書こうと思ったり、記事を書こうと思っている。

 しかし、ネタが無い、アイデアが浮かばない、構成が思い浮かばない……

 こんなこと、ありませんか?


 当店では、様々な物語のアイデア、プロット、設定、すべてを入れた資料を販売しております。

 この資料の使い方はあなた次第! そのまま小説を書くのもよし、設定を活かした商品開発をするもよし!

 アイデアにお困りでしたら、是非ともご来店ください。


 ****


 いつも、何もかもうまくいかなかった――

 貧しい家に生まれ、しばらくして両親は両方ともいなくなってしまった。

 家も失い、財産もわずかしか残らず、明日の生活も見えない状態。

 スラム街で暮らし始めてもう10年、奪い奪われ、殺し殺されそうになる毎日。

 もう、希望なんて無い。いっそのこと、このスラム街で死んでしまおうか。

 少年がそう思って塞ぎこんでいたとき、彼女は目の前に現れた。

 同じ年くらいの、黒い髪と黒い瞳、そして黒と白のコントラストが不思議な印象を持たせる衣装の少女。


「君は……誰?」


 少年は、突如現れた少女に問いかける。


「私? 私は、あなたたちが言うところの悪魔」


 ここから、少年と悪魔の少女の物語は始まった――



「という物語なのでふ」


 ややぽっちゃりとした、ワンピースに白い前掛けをした店員カルチェは、「悪魔と少年の物語」と書かれた、手元にある設定資料集を元に、やってきた客の男性に説明を行った。

 広々としたこの空間は、木で出来たテーブルの上に出されたコーヒーの香りで満たされている。スーツ姿の客の男性は、そのコーヒーに口をつけながら説明を聞いていた。


「確かに、ファンタジーとしてはなかなか面白そうだね。『悪魔がいるから不幸になる』のではなく、『不幸があるから悪魔がやってくる』という設定も面白いね」

「そのほかにも、キャラクターの設定や時代の設定、そのようなことになったいきさつ、その結末などの設定も各種取り揃えているのでふ。全50ページ、これで1冊分くらいはかけると思うのでふが、どういたしまふか?」


 客の男性は、コーヒーカップをコースターに置くと、静かに考え始めた。


「……そうだな……締め切りまであまり時間もないし……そのネタ、購入するとしよう」

「まいどあり、でふ♪」


 カルチェは手元の資料を片付けると、奥から別の書類を持ってきた。


「こちらが購入契約内容と、契約書でふ。よく読んで、こちらにサインしていただきたいのでふ」


 カルチェが書類を渡すと、客の男性はその書類に目を通した。

 しばらくして、胸元のボールペンで契約書にサインを行った。


「はい、これで契約は完了でふ。代金は、連載確定後に引き落としをさせていただくのでふ」

「助かったよ、ちょうど小説のネタに困っていたからね」


 男性は書類をかばんにしまい、店を後にした。



「あなたの幸せ買い取ります」


 扉につるされた看板の隣には、こんな貼り紙が貼ってある。


「私の物語、あなたに売ります」


 もともとこの店は、人の幸せを売り買いする「幸運販売代行店」というとんでもない店であるが、経営している店員の趣味が講じて、様々な副業を行っている。

 そのうちのひとつが、「物語の設定を売る」というものである。

 世の中には様々な小説、漫画、ドラマ、アニメ、演劇などがある。すべてに共通することは、「物語がある」ことである。

 その物語の中には、さらに様々な要素が含まれている。たとえば物語のコンセプト、登場人物の設定、時代の設定、場所、目的、結末……

 物語を構成する上で、これらは欠かせない設定であると同時に、物語の作者を悩ませるものの一つである。

 小説一つ書くにしても、これらが決まらなければ、どんなに文章力があっても話が出来ない。

 そんな、作家たちの悩みの一つを解消するのが、この店である。

 ここでは、物語のコンセプトから、そのコンセプトに合った登場人物や場所の設定などを、「設定資料集」の形で販売しているのだ。さながら、「物語設定資料販売店」といったところか。


 ちなみに先ほどの「悪魔と少年の物語」のあらすじはこんな感じである。


 生きる希望を失った少年の前に、謎の少女が現れた。

 彼女は、人間が言うところの「悪魔」である。しかし、一般的なイメージである、「悪魔がいるから不幸になる」という存在ではなく、不幸から発せられる負のエネルギーを得るために悪魔がやってくる、というものだ。

 彼女は「死」という究極の不幸がどのような味なのかを知るために、負のエネルギーを放出し続ける少年と共に行動をする。



 客の男性が帰った後、カルチェは店の奥にある事務所に顔を出した。


「とりあえず、1つまた売れたでふ」

「フフ……また私の才能が一つ売れたってわけね」


 不気味な笑いで事務所の机に座り、原稿となる紙を見つめる、背が高く、すらりとした体型の持ち主は、カルチェの姉、アティカである。

「幸運販売代行店」を行っているときは主に姉のアティカが接客、妹のカルチェが経理担当なのだが、「物語設定資料販売店」のときはアティカが主に商品を作成しているため、カルチェが接客を行っている。

 もともとアティカは物語の設定を考えるのが得意だったらしく、小さい頃から様々な設定をノートに書き溜めていたのだ。

 それをつい最近、幼馴染の男性に見せたところ、そのアイデアを元にした漫画が、なんと大ヒットしてしまったという。

 そこでアティカは思った。「このネタを売ったら商売になるのでは?」と。

 それ以来、「幸運販売代行店」で接客を行いながら、その間に思いついたネタを片っ端からノートにメモしていったのだ。

 すると、何故かそれを見たカルチェが、翌々日くらいにパソコンで見事なまでの設定資料集として完成させているというのだ。


「あんた……これは売れるわよ!書店で販売しましょ!」

「何で書店なのでふか? しかも誰か1人使ってしまったらもうそのネタは使えなくなってしまうでふよ?」


 何故か表紙まで普通の本のように加工されているその設定資料集は、恐らく書店に並んでいても不思議ではないくらいの完成度を誇っていた。一体、どうやって加工して一冊の本に仕上げたのかは不明である。

 こうして出来た設定資料集は、「幸運販売代行店」の傍ら、ひっそりと販売されることになったのである。

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