表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも運命の人に出会えたら  作者: 柳瀬光輝
35/40

ラスボス

やべえ、もう朝だ。

クリスマスセール、年末セール、福袋予約~~!ぎゃぁぁぁぁ~~~っ!!

 一心に真言の一部を繰り返す。

 しばらくすると、辺りに腐臭が漂い始めた。

 脳内にネガティブな考えばかりが浮かぶ。


『友達を、友達の魂を消滅させてしまうなんて、私は最低だ。もう、私なんて死んでしまったほうが……』

『もうタカは死んでしまった。私も早く後を追わなければ』

『早くしないと、タカはあの世で櫻子と結ばれてしまう。早くしないと』

『早く、早く、早く、早く!』


 違う。これは私の考えじゃない。

 残念ながら、環奈達を消したことに一切の後悔は無い。

 どうやら敵が陰険な手口で攻めてきているらしい。

 だが、友人を消した事で罪悪感を感じるだろう、と思っている敵のほうが、私よりも良心的なのではないか。

 そう、私は、今ここに櫻子の霊が居なかった事を、彼女を消滅させられない事を、残念に思っているくらいだ。


「ふふ、ふふふ」


 あまりの皮肉さに笑いが溢れてくる。

 更に腐臭が強くなり、琴子の笑いに、もう一人の笑い声が重なる。


「ふふ、ふふふふふ」

『ふふふ、ふふふふふ』


 目を開けると、目の前にどこかで見たことのある青年の顔があった。

 それが誰か、確かめる間もなく銅剣を突き出す。

 だが、青年は霧のように霧散する。

 琴子の必殺技、「ハリウッド・セレブリティ・アタック」(密かに名付けていた)が効かない相手らしい。


『おぉ、怖い怖い。それにひどい臭いだ。わかりますか? これはね、あなたの魂が腐っている臭いですよ』


 琴子も年頃の女の子なので、くさい、と言われると多少のショックはあるが、納得はできる。

 こいつに操られていただけの、かわいそうな何十人もの魂を、感情のままに消滅させた。

 そして、越法罪も犯した。

 ――――腐って当然だ。

 それにしてもこの顔、どこで見たのだったか……。

 いや、考えるまでも無い。古森医院の初代医院長のはずだ。


「あんたは、えぇっと、資料読んだ。古森医院の初代医院長。古森医院は大正12年創業。当初は結核の療養所。初代の医院長の名前は……古森……金……金太郎」

『金蔵だ! そこまで覚えていて、どうして名前を憶えていないんだ! お前は、脳みそまで腐っているのか!』

「一般的なJK並みには、BLにも興味があります」

『……お前が、何を言っているのかさっぱりわからない』


 悪霊を困惑させた事で、かなり平常心を取り戻した。


「ところで金ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」

『いきなり馴れ馴れしいな、お前は』

 人の名前を覚えるのは本当に苦手だ。金、までは合っていたはずだが、金太郎……いや、これはさっき違うといわれたはずだ。金助? 金左衛門? 金五郎?

『まあいい、なんだ?』

 やはり馴れ馴れしかったと自分でも思ったので、改める事にした。

「昔、古森は、気に入った爪を持つ女だけ爪を剥いで殺してたんだよね? なんで最近は見境なく殺してるわけ?」

 全員がこいつのお眼鏡にかなったとは思えない。

 あぁ、そうだ、思い出した。

 古森医院の隠し部屋で、暴力的に流れ込んできた映像。そこで、こいつの姿を見たのだ。

『呼び捨てのほうが失礼だがな。意味なんてありませんよ。ふふ。私が手を下したわけでもありませんしね。まあ、しいて言うなら、ご縁ができたので、って事ですかね。でも、爪は取っていませんよ。剥いだだけでね。ふふ、ふふふふふふ、ふひっ でもあなたの爪だけは別ですよ。そのために、あなたを最後まで生かしておいてあげたのですからね。ちゃんと私が、永遠に愛してさしあげます』

 実に悪霊的考えで、いっそ清々しい。

 世の中が悪いだの、幸せな人が憎いだの、そんな被害者意識は一切無く、意味もなくこいつは何十人もの人を殺したのだ。

 だが、琴子は既に、それを責める事ができる立場には居ない。


「ねえ、爪が欲しいだけなら、命まで取る必要無いんじゃない?」

『そうも行かないのだよ。私にも世間体というものがあって、変な評判を立てられると……ん? いや、もうそんな事は関係無いのか』

「そう。もう関係無い。命まで奪う必要は、無いよね?」

『ふふふ、そうですね。……でもね、命が失われるときに流れる涙というのも、それはそれは、とても美しいものなのですよ。ふふふ、ふふふふふ』

 想定内の答えだ。所詮、殺人で快楽を得られる異常者の霊だ。

「あんたは、爪と命と、どっち取りたいの? あんたの爪愛ってそんなもん?」

 挑発するように笑い、左手人差し指から小指までの指先を口に入れる。

『な、なにを……』

「ふぁうむ、かむひぐうぇうふぉおもう」

 一旦、指を口から出した。

「多分、噛みちぎれると思う。もし無理でも、爪くらいなら奥歯でぐっちゃぐちゃに咀嚼できる」

 生きている人間であれば顔色が変わる場面だったのだろう。古森の姿がありえない程にぐにゃぐにゃと歪む。

『ふ、ふん。できるわけがありません』

 そんな事を言うので、まず左手の人差し指を口に含もうとした。

 全身を貫くような痛みが走り、全ての爪が根元を残して剥がれる。

 ……こいつは、触れもせずに影響を与える事ができるのか。

 だが、好都合だ。指を自ら噛み砕くよりはよっぽど楽だ。

 剥がれた爪を噛み、引きちぎって次々に口に含む。

 あまりの痛さに涙が止まらず、歯を食いしばったままで口を開け、ムフー、ムフー、と、獣のような息を繰り返す。

『ま、待て、お前の命は助ける! だから、爪を、爪をこちらによこせ!』

 口の端で笑ってから、ゆっくりと口を開け、一気に閉じようとした。

『ひあぁぁぁっ!!』

 情けなく声の裏返った悲鳴を聞き、直前で口の動きを止める。

 そのままニヤニヤ笑いながら待っていると、古森がその場に跪いた。

『頼む、その爪を私にくれ。何でもする。何でもするから』


 口に含んでいた爪を、血液交じりの唾液と一緒に左の手のひらに吐き出し、そのまま握り込む。

「古森。私に、使役すると誓うか? 誓うならこの爪を与える。あんたも、忠誠の証を」

 小さな、黄ばんだ欠片を差し出す。

 銅剣を握ったままの右手の、親指と人差し指以外を開いてそれを受け取った。

『私の、初恋の相手の爪だ。本当に、きれいな爪の女だった。私は彼女との結婚も考えていたのだが、互いの家柄の違いから、私の親が許さず』

「ストップストップストーップ! あんたの身の上話を聞く気は無い。で、そんな大切なもの、いいの?」

『私は、どうしてもお前の爪が欲しい。それは確かに大事な物だが、もう劣化してしまった。お前のみずみずしい爪を見ているほうが、当時の事を思い出せる』

「わかった。私の爪、あげる」


 握りこんだ拳を前に突き出す。

 そこに古森が、両手をお椀の形にして跪く。

 小指だけ開くと、爪が一枚、古森の手のひらに落ちた。

 それを掲げて凝視している古森に、言う。


「あ、ねえ、さっそく一つ目の指令」


 古森は鼻の穴を広げながら一瞬こちらを見たが、一気に左手を開くと、爪を受け取る事に集中したようだ。


「消えろ」


 古森の脳天に、銅剣を振り下ろす。


 爪を受け取る事に集中し、実体化していた古森は、あっさりと銅剣に切り裂かれた。


「ちょろい」

 こんな悪霊よりも、むしろ言葉が通じない霊のほうが大変かもしれない。


 雲間から射す光に、ガラス片が煌めいていた。

 どこかの窓が割れたのかと見渡すが、そもそも窓など無い。

 屋上に設置されたソーラーパネルがひしゃげて、表面のガラスが無くなっていた。


「あぁ、これが……」

 ただ、そう思った。


 鉄骨が落ちていたので、残っているソーラーパネルを全て叩き壊した。

 意味なんてない。

 理由付けするなら、ただ……、そう、さっき、ピッタリな言葉を聞いた。

 ただ、ご縁ができたから。

 それだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ