浄霊
まだ続くぉ。
とりあえず貴史と二人でお経を唱え、リュックから様々なアイテムを取り出す。
アクセサリーの類は全員、均等に身に着けた。
全身黒タイツに、腰にはパワーストーンを使用した金属のベルトを巻き、ネックレスをじゃらじゃらとぶら下げている和人が、ちょっと小粋な怪盗のようになっている。
「うわっ!」
和人が黒タイツの胸元から手を入れ、脇の下あたりから身代わりのヒトガタを取り出した。
その中の1枚の手の部分が、黒焦げになっている。
「え? なにそれ。どうしたの? ちょっと待って、私のあと何枚残ってるかな」
自分のヒトガタを取り出そうとしたところで、貴史がお経を唱えながら肘で小突いてきた。
「なに?」
聞いてみても、貴史はお経を唱えながら、棚の小瓶から爪を回収している。
わけがわからず、リュックからヒトガタを見つけて手に取ってみたが、全部無事だった。
「あぁ、まだ全部無事だ。良かった」
平たい胸を撫で下ろしていると、貴史が焦れたように蹴りを入れてくる。
「ったぁ~。なんだってのよ、さっきから。文句があるならはっきり言えばいいでしょ!」
「とっとと経唱えろ! 塩とか酒とか小豆とかあるなら早く結界張れ! 限界なんだよ、こっちは!」
貴史が叫んだ途端に、手に持っていたヒトガタが、焦げるというよりは腐食するように黒く変色した。一気に3枚。
慌てて経を唱えながら塩を取り出し、小皿が無かったので、そこいらへんの資料の紙を4枚取り出し、その上に塩を盛り、それを4辺に広げていく。
こうする事によって、一点から四方に清められた領域を広げていくのだ。
本来は方角やら順番やら自分の清め方やらがあり、そもそも、空間を作り出すまでそこに人が入ってはいけないのだが、もうそんな事は言ってられない。
3人が作業できるスペース、且つ、まだ未回収の爪の小瓶がある部分まで結界を広げて、ぱぁんっ! と柏手を打つ。
いや、打ったつもりが、ぼすん、という音しか出ない。
澄んだ音が出るまで柏手を打ち続けてもいいのだが、ここは手っ取り早く、慎二コレクションからくすねてきた鈴を鳴らす。
幾分濁った音が出たが、ジャージのウエストのゴムに引っ掛けて腰を振り、音を鳴らしながら爪の回収を急いだ。
何を考えたのか(恐らく何も考えていない)荷物を全部クマばあちゃんの家に置いてきた和人は、全身タイツの胸元から日記のノートを詰めている。
全ての爪の小瓶の回収が済んだところで振り返ると、黒い霧はでかいゴンズイ玉のようになって禍々しく渦巻きながら、まるで結界に体当たりでもするように蠢いている。
時折、その中から女の顔や手がうじゃうじゃと出てくる。
「うわ、塩がびしょびしょになってる! あっちのはなんか黒カビ生えてるよ!」
和人が説明するまでも無く、もうこの結界は持たない。結界の決壊。出来の悪いダジャレのようだ。
リュックを背負い、貴史と和人に目配せをしてから、残りの塩を井戸の方向に向かって投げつけて、道を作る。
一気に駆け抜けて梯子を上ったが、あと少しというところで視界が黒く染まり、指先に激痛が走った。
真っ暗で見えないが、爪が剥がれたかもしれない。
だが、そんな事は想定内。
梯子からは手を離さず、このまま上るのみ!
そう、思ったのだが――――。
梯子を握ったまま、落下していた。
どうせ目の前が真っ暗なので、あえて目は瞑らなかった。
暗闇からいくつもの顔が現れては消える。
にやにやと笑っていたり、叫んでいたり。
悪意と恐怖。
彼女たちは成仏したくないのだろうか。
「むぎゃ」「ぷぎゅ」という声が聞こえ、落下の衝撃はあまり無かった。
和人と貴史の二人がクッションとしての役割を果たしてくれていた。
すぐさま体勢を立て直し、重機に向かって走る。
足を掴まれて転んだ琴子を、和人が小脇に抱えて走り出す。
黒い霧から、琴子の足を掴んでいる何体もの黒い女達が、ずるずると引きずられて出てくる。
「こ……とこ、さん、ちょっと、言い辛いけど、重い……かな」
ムッとしながらも足元に向けて早口で九字を切ると、女達が霧散する。
突然の重量の変化に、和人はバランスを崩して顔面から重機に突っ込み、琴子は放り出されて空中で半回転し、後頭部を強打した。
死に物狂いで重機にしがみつき、地上を目指す。
何度も足を引っ張られたが、その度に九字を切って追いすがる霧を散らした。
なんとか隠し部屋を脱出したが、3人共もうボロボロだった。
琴子は頭部から血を流し、掴まれた足首は捻挫したのか脱臼したのか、ひどく痛んで歩くのがやっとだったし、和人も鼻が曲がっていて、鼻血がボタボタと落ちている。
一見、一番軽傷そうに見える貴史は、あちこち青あざだらけで、足元がおぼつかずフラフラとして、歩きゲロをしている。
地面の穴から、黒い霧が這い出して来ている。
「タカ、マンションまで持ってくの、無理! 死んじゃう!」
貴史はチラリと琴子のほうを向き、頷いた後、顎で一方を指し示す。
そちらを見てみると、草むらから小さな煙突が見えた。
――――焼却炉だ!
和人の肩を借り、最後の気力と体力を振り絞って焼却炉まで走った。
無骨な鉄製のソレは、現役を退いてから何十年経過したのか、全体が赤茶色にサビていて、煙突部分は腐食して所々穴が開いていた。
貴史が必要なものだけバッグから取り出し、バッグを丸ごと焼却炉に突っ込んだので、琴声もそれに倣う。
そう、ここでリュックを燃やすことを惜しんで、爪の1枚でも残ってしまって浄化できなければ元も子もないのだ。
貴史は線香とライターを手に持っている。
「カズ、そのノート全部よこせ」
激しく動いたせいで、和人が胸元に入れたノートは全て股間に集まっていた。
「あ、ちょっと待って、く、取れないな、どうしよう」
黒い霧はもうそこまで迫って来ている。
「早くしろ!」
貴史に急かされても、和人はなかなかノートを取り出すことができない。
「早く!」
「や、ちょっと、ほんとマジ取れない、どうしよう」
「ああ、もう、じれったい! なにしてんのよ!」
九字を切っていた手を止めると、霧が一気に琴子達を取り囲んだ。
かまわずに和人の全身タイツに手を掛け、爪を立てて一気に引き裂く。
「きゃ~!」
和人が絹を裂くような悲鳴を上げたが、相手にしている余裕など無い。
爪が数枚割れていたため、痛くてこちらが悲鳴を上げたいくらいだ。
貴史はお経を唱えながらノートを1ページずつ破り、丸めて焼却炉にどんどん投げ込んだ。
火が付いたのを確認してから、ノートをそのまま破らずに放り込み、焚き付けにする。
琴子は黒い霧に向かい、ひっきりなしに早口に九字を切る。
和人は煙を見て駆け付けた近隣住民に説明して回ったが、曲がった鼻から大量に出血し、変態的な格好をしている少年の話をまともに聞いてくれる人などいない。
ただ一人、クマばあちゃんだけが3人を庇い、他の人に、もう少しだけ待ってやってくれ、と説いて回ってくれた。
そして、3人が何をしているのか理解しているわけでもないだろうに、何度かに分けて、自宅から少量の灯油とボロ布、巨大なトングのようなものと消火器まで持ってきてくれた。
クマばあちゃんが貴史に合わせてお経を唱えながら、たらいに入れたボロ布にちょぼちょぼと灯油をかけ、それを次々に焼却炉に入れる。
炎は勢いを増す。
クマばあちゃんが焼却炉の蓋を閉めると、焼却炉の中から、大勢の女の悲鳴が響き渡り、ガリガリと中から爪で掻いているような音がし始めた。
「恐ろしいことじゃ。なんまんだぶ、なんまんだぶ」
いつの間にか何人もの老人(恐らくクマばあちゃんの知り合いなのだろう)が集まり、皆それぞれにお経を唱え始める。
宗派が統一されていないのでかなりバラバラだが、それは一つの大きな力、大きな流れとなって、西方へと光の道を作り出していた。
霧は色を黄金色へと変えて、光へと吸い込まれていく。
琴子も九字を切る手を止め、両手を合わせ、彼女たちの成仏を願い、経を唱えた。
全てが終わり、3人は満身創痍のまま、いつの間にか来ていた貴史と和人の両親たちによって病院へと運ばれた。
琴子は頭部を包帯でぐるぐる巻きにされ、指先は深爪した程度だと絆創膏で済まされ、足首は軽い捻挫だと湿布を貼られた。
和人は鼻の骨が折れていたらしく、ギプスで端正な顔が台無しになっている。
貴史はあらゆる個所に湿布を貼られて、「寒い、寒い」と呟きながらガタガタと震えている。
霊障を心配もしたが、湿布が冷たいだけらしい。
全身ボロボロで、あちこち痛くて、へとへとに疲れているのに、3人共、説教を受けながらヘラヘラと笑っていた。
貴史と和人の両親には心配させて申し訳なかったとは思うのだが、自然と頬が緩んでしまうのだ。
やっと、終わったのだ。
自分達の力で櫻子を守り、多くの霊を浄霊できたのだ。
誇らしく、満ち足りた気分のまま、和人の両親にマンションまで送ってもらうため、車に乗り、説教を聞きながら、眠りに落ちた。
まだまだ続くぉw
つか、なんかもう語尾とか言い回しとか単一的でおかしくなっちゃってるので、一度全部書き直したいと思っているのだ。
クライマックス迎える前に・・・
ただでさえ遅筆なのにw




