尾行
すんません。つるんと円形脱毛症やら楽しい旅行やら辛い帯状疱疹やらで、しばらくぶりの投稿。
まだ少し痛いけど、今後はサボらずに投稿したい、とは…思っては…いるのですよ?
多分w
なぜいきなりそんな事になっているのか、理解できない。
何が起きたのか。
今までは呪いの対象は、櫻子達だけだったはずだ。
何かが起きなければ、いきなりこのような状態になるなど、あり得ない。
昨日起きた出来事――――。
田仲の死。
残すは櫻子だけになったはずだ。
だが、櫻子はここに匿っている。慎二の結界により、アレは櫻子に手を出すことができない。
自分の姿を写した人間を、櫻子の身代わりに?
いや、それにしても23人は多すぎる。
そう。23人は多すぎる。
先程のワイドショーの、ヘリウムガスを吸ったような女性の声が蘇る。
『顔みたいなのがいっぱい浮かび上がってたんです』
――――霊は、一体では無いのだ。
どこで、何が起きたのか。
どこで、は、わかりきっている。あそこしかない。
古森医院。
もう、自分の身の安全は保障されている、とは思わない方が良いだろう。
今からでも間に合うのであれば、すぐに櫻子を追い出して、今後一切この件には関わらないようにしたい。
だが、今更そうしたところで、無事で済む保証は無い。
何が起きたのか、確認しなければいけない。
出来る限りの万全の準備を整えて。
慎二の仕事部屋と私室を漁り、お守りになりそうなものは何でも身に着けた。
パワーストーンのブレスレットにネックレスにピアスに指輪。
但し、琴子はピアス穴を開けていなかったので、Tシャツの裾にぷちぷちとそれを刺してとめた。
数珠に、持ち運びできそうな仏像に十字架にマリア像。なんでもアリなそれらをリュックにぶち込む。
そして、半紙を切り抜いたヒトガタ。まるで着物を着ているような形だ。
慎二がこれを使っているのを見た事がある。
もっと早くこの存在を知っていれば、他の人達も少しは守れたかもしれない。
琴子の力で、効力が見込めるのかはわからないし、今更だ。
見様見真似で、自分の生年月日と名前を書いて、息を3度吹きかける。
10枚ほど身代わりのヒトガタを作ったところで、インターフォンが鳴った。
「あ、琴子さん? 佐々木です。鍵は勝手に開けるから、チェーンだけはずしてもらえるかな?」
聞き覚えのない苗字だったので画面を見てみると、和人だった。
チェーンを外し、和人を招き入れる。
「丁度良かった。みんなの分も身代わり作るから、名前教えてくれる?」
もう忘れていた。
しかも、櫻子の名前だけはどうしても書くことが出来ず、和人に書いてもらった後で、効くかどうかわからないが「ハァーッ!」と格好つけて念を入れてみた。
和人に、自分のヒトガタに息を3度吹きかけるように言ってから、櫻子の分を部屋に持って行き、櫻子にも同じ指示を出す。
布団を被ったまま出て来ようともしないので、枕元に置いて部屋を出る。
戸を閉める前に、小さな声で「ありがとう」と聞こえた。
「タカはどうしてるの?」
そう聞くと、和人は溜息を吐きながら首を横に振った。
「連絡がつかない。スマホの電源も切ってる。でも多分、家を抜け出して古森医院に行ってると思う。ここのエントランスでタカのお母さんが張り込みしてたから」
張り込み、という言葉に目を丸くしてカズを見ると、カズは苦笑いしながら言葉を続けた。
「で、ごめん、実はうちの母親もなんだ。後をつけて来てる。今日は琴子さんとデートするって言って出てきたんだけど、どっかで撒いちゃおう」
それは別にいいが、平日に学校をサボってデートというのも・・・・・・と、琴子が困惑していると、今日も学校は休みになったと教えてくれた。
家電の留守電ボタンが点滅しているのに初めて気付き、押してみると、学校からの連絡で、本日も休校とする事、授業の遅れた分は夏休みに補習を行う事などが録音されていた。
この件にカタを付けるまで登校する気は無かったので好都合だ。
「デートだから、琴子さんもそれなりの恰好してね。汚れてもいい服、荷物で持ってって、途中で着替えて」
和人は荷物も少なく、小奇麗な恰好をしている。
「僕はこの下に着込んでるから」と。
仕方なく小奇麗だがどこかヤボったい、故郷で買った一張羅のワンピに着替えて、ジャージをリュックに突っ込んだ。
1階に下りてエントランスを横切ると、確かに、観葉植物の陰に、貴史と和人の母親が隠れていた。かなりの部分はみ出していたが。
気付かないふりで小芝居を始める。
「琴子さん、荷物重そうだね。持とうか?」
「う、ううん、いいの。カズに食べてもらいたくて、お弁当いっぱい作りすぎちゃった。てへっ」
「へぇ、楽しみだな。何作ってくれたの?」
「カレー」
「…………」
それ以上小芝居を続けられないと判断し、無言でマンションを出た。
確かにヘタクソな尾行で和人母がついてくる。
電車に乗り、5つ目の駅で降り、映画館前まで尾行がある事を確認し、萌えアニメ映画のチケットを買って二人で中に入った。
平日なのにそこそこ混んでいる上映部屋に入ってから、真っ直ぐに前の扉から外に出て、裏口から映画館を出る。
その後はダッシュで電車に乗り、地元の駅へ戻り、裏道を通って古森医院へ向かった。
居ないのがすぐにバレそうな気がするし、そうなると行先さえもバレバレな気がする。
不安を口にすると、和人も頷く。
「うん、まあとにかく時間との勝負だね。それより問題なのはタカの母親だと思う。多分まだマンションに居るだろうからね」
こそこそと周りを見回し、塀の陰等に隠れながら進んでいると、「カズ、こっち」と声がした。貴史だ。
ちゃっかり古森医院前のタバコ屋の中でお茶を飲んでいる。
ガラス戸を開け、中にお邪魔する。
なるほど。ここからなら古森医院が丸見えだ。
「こちら、70年前の雨ヶ丘小町のクマばあちゃん。ここらへんうろうろしてたら逆ナンされた」
貴史の隣で、小さなおばあさんがにこにこと笑っている。
「おやおや、こりゃまた、いい男が来たねぇ。死んだじいさんにそっくりじゃ。あたしがあと70歳若かったらねぇ。おや、そっちのお嬢さんも、あたしの若い頃には足元にも及ばないけど、かわいいねぇ」
お茶と煎餅を勧められ、全員で古森医院のほうを見ながら一列に並んでお茶を飲んだ。
昨日の今日で、もう既に古森医院の建物には足場が組まれて取り壊し作業に入っているようだ。
いくら何でも早すぎないだろうか。
クマさんの昔話の相手は男子達に任せ、奥の部屋を借りてジャージに着替えた。
ジャージ姿の琴子を見た和人が、「あ、僕もこの下に着てるんだ。ちょっと失礼して」と、服を脱ぎ始める。
黒の全身タイツ姿になった和人が、ツッコミを期待して目を輝かせていたが、敢えて無視する事に決めた。




