表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも運命の人に出会えたら  作者: 柳瀬光輝
PR
26/40

嫉妬

ショックなことが続き、打ちのめされちぅ。はは。

「ただいま」という和人母の声に続いて、「お邪魔します」と、もう一人。

「おふくろ? どうしたんだよ」

 貴史が慌てて玄関に駆け寄る。。

 琴子も洗面所から顔を出し、玄関を覗くと、和人母が厳しい顔で全員を見回す。

「みんな、揃っているわね。丁度いいわ。話があります」

 リビングへと向かう和人母の後ろに、軽く会釈をしてから貴史母が続く。

 意図を理解できず、それぞれに目を合わせながらも首を傾げ、リビングへと向かった。

 和人母がお茶を入れている間も、誰も口を開く事無く、居心地が悪い。


 目の前に置かれたお茶を一口飲み、一息ついた所で、やっと和人母が口を開いた。

「櫻子ちゃん。悪いんだけど、うちの息子はこの件から手を引かせてもらうわ。琴子ちゃんも、手を引きなさい。あなた達の手に負える事じゃないわ」

 貴史母もそれに続く。

「うちの息子も、これ以上関わらせるつもりはありません」

 貴史が立ち上がり、声を荒げる。

「なんでだよ、急にそんな! 昨日までは反対してなかったじゃねえかよ!」

「怒鳴らなくても聞こえるわ。座りなさい」

「ざけんなよ! 俺は手ぇ引くつもりねえからな!」

 怒鳴りまくる貴史を、貴史母は黙って見つめる。

 貴史が怒鳴り続け、言葉が尽きて黙り込むまで。

 散々言いたい事を言った後、貴史は部屋を出ようとしたが、貴史母の言葉に足を止める。

「あんたがそうやっておこちゃま全開でダダこねて逃げ出すなら、私はあんたをチャイルドシートに縛り付けて監禁するわ。大丈夫よ。ご飯もうんこもおしっこも、全部面倒見てあげるから。見栄とかかっこつけ以外にこの件に関わっていたい理由があるなら、大人として話し合いで私を納得させてみなさい」

 しばらく無言で立ち尽くした後、貴史は席につき、震える声で

「守りたいやつがいるんだ」

 そう、言った。

 こぶしを握り締めて、ただ、手元だけを見つめて。

 でも、貴史母はそれだけでは当然納得はしない。

「自分にもできない事があるって事を認めなさい。あんたは理解してるはずよ。認めたく無いだけで」

 反論しようとした貴史を、貴史母が手で制して話を続ける。

「あんた、楽勝だって言ったわよね。目星は付いてるからって。しかも、八城小路さんの父親は薬物中毒者で、いずれはそうなっていた。長瀬君は後追い自殺で、この件には因果関係は無い、って。私は信じたのよ。だから許可したの。でもね、……田仲君が、事故で亡くなったそうよ。あんた、田仲君と躑躅森さんを守るためにここに来たんじゃないの? そして、守れなかったのよ? あんたの手に負える事じゃないわ」


 櫻子が立ち上がり、いっぱいに見開いた目から、ぽろぽろと涙をこぼした。

 やはり、田仲のことは前もって言っておいたほうが良かったのかもしれない。

 貴史は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに立ち上がり、櫻子を抱きしめた。

「大丈夫。大丈夫だ。俺が守るから」と。

 櫻子は、田仲の死にショックを受けて泣いているのだろうか。それとも、自分の身に降りかかった恐怖に涙しているのか。

 つい最近、同じような事を考えていた気がする。

 そして、その時とは違い、もう一つ、暗い想像が頭をよぎった。

 それとも、同情を引くための涙だろうか、と。


 その場に居たくなかった。

 疑問は根拠の無い確信に変わり、櫻子に対する憎悪が、自分の心の醜さを浮き彫りにする。

「ちょっと失礼します」と声を掛けて部屋を出て、屋上に向かう。

 外はまた小雨がパラついていたので、階段の踊り場で膝を抱えて座り込んだ。

 ぱらぱらと、当たっては砕ける水滴の音に耳を澄ます。

 それが全て、櫻子の涙の音に聞こえる。

 偽物の涙。

 ねえ、私、かわいそうでしょう? だから、私を守って。 

 偽物の雨。


 雨の音を聞きながら、いつの間にか眠っていたらしい。

 右腕に温もりを感じて目を開けると、隣に和人が座っていた。

 和人に寄りかかって寝ていたようだ。

 よだれを腕で拭い、明日からどうするのか聞いてみると、和人はしばらく考え込んだ後、口を開いた。

「タカは、勘当されてでも、躑躅森さんを助けるために、手を引くつもりは無いってさ。僕は……正直、命を懸けてまで躑躅森さんを守る義理も無いし、手を引きたいっていうのが本音。琴子さんはどうする?」

「私は……」

 櫻子のために命を懸けようとは思わない。

 だが、そんなに大袈裟な事だろうか。

 命の危機に瀕しているのは櫻子であって、私達では無いはずだ。

 ここで私が手を引いてしまったら、貴史は私を軽蔑するのではないだろうか。

 貴史との縁が、それで切れてしまうのでは?

 そんな想いから出た言葉だった。

「私も続ける。カズは手を引いてもいいよ」

「琴子さんが続けるなら、僕も続けるよ。僕にだって守りたいものが無いわけじゃない」

 和人は、琴子の頭をぽんぽん、と、軽く叩いて立ち上がった。

「そろそろ戻ろう。もう父さんも帰ってきてると思うし。お腹すいちゃったよ」


 部屋に戻ると、貴史と貴史の母の姿は無かった。

 無理矢理連れ帰られたらしい。

 櫻子は、琴子のベッドに潜り込んでいて、出てくる気配は無い。

「私達も、食事が終わったらお暇するわね。琴子ちゃんも、これ以上関わっちゃダメよ」

 おしゃれメガネをキラリと光らせ、和人母が言う。

 気まずい雰囲気のまま食事を終え、和人と和人の両親を送り出し、櫻子とも言葉を交わさないままに床に就いた。


 翌朝。

 やはり櫻子はベッドから出てこようとはしなかった。

 もし、琴子がこの件から手を引くから出て行ってくれ、と言ったなら、櫻子はどうするのだろう。

 そんな意地悪な考えも頭に浮かんだが、何も言わずにリビングに向かう。


 トーストを焼きながらスマホを確認すると、数件の着信と、和人からのメールが入っていた。

『ニュース見て』

 件名無しで、ただそれだけ。


 TVをつけるとニュースキャスターが神妙な面持ちで早口に語っていた。

「……尚、亡くなった方達の中には、手の爪を剥がされいる方が23名おり、警察は事件、事故の両面で捜査を……」

 ワイドショーにチャンネルを合わせると、より詳細に事件について語られている。

 昨夜のうちに、都内で自殺が相次いだ。

 ビルの屋上からの飛び降り、電車への飛び込み等、その数37件。

 その中の23名が、手の爪を剥がされていた。

 だが、電車への飛び込み等は目撃者が多数存在し、誰かに突き落とされたりしたわけでは無かったという事。

 何かから逃げるように、叫びながら飛び込んでいたため、新種の薬物によるものではないかとコメンテーターが語っている。

 そして、ネット上で話題になっている噂がある、と。

 爪を剥がされて自殺した人たちの共通点。

 全員が、とある事故現場で撮影した心霊写真を、SNSに上げていた、と。

 顔をモザイクで消され、ボイスチェンジャーで変に高い声になっている、自殺者の友人だと名乗る女性が語る。

「ええ、私は、止めたんです。不謹慎でしょう、って。でもあの子、言うこと聞かなくて。その後、二人で飲んでたんですけど、いきなり何かぶつぶつ呟き始めて。え? いえ、何を言っているのかは聞き取れませんでした。それでね、爪をこう、ね、噛んで、食い千切るみたいにして剥がし始めたんです。いえ、私だって信じられませんよ。すぐに周りの人に助けを求めて、店員さんやお客さんなんかも押さえつけようとしてくれたんですけど、なんかもう、ものすごい力で。頬を引っ掻かれた人もいたんですけど、その……彼女の爪がその人の頬に刺さって、剥がれて。ええ、普通の状態じゃなかったです。その後、全員を振り払って、車道に飛び出したんです」

 その女性がSNSに投降したという写真を「彼女が撮ったのはこの写真ですか?」と、アナウンサーが確認を取ったが、その女性は首を横に振った。

「いえ、あの……写真を撮った位置とかは同じだと思いますが、ここのところに黒い霧みたいなのがかかってて、顔みたいなのがいっぱい浮かび上がってたんです。だから、これとは違います」

 TV画面にはその写真が写されたが、トラックの後部から道路にかけてはモザイクがかけられていた。

 だが、間違い無く田仲の事故現場の写真だ。

 『心霊写真撮れた!』というSNSへの書き込みと共に、何枚かアングルの違うモザイクだらけの写真が映し出され、アナウンサーの説明が入る。

「これらは他の自殺者がUPしたと思われる写真ですが、ご覧のように、心霊写真と思われるようなものは何も写っていません」と結んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ