疾走
へべれけ酔っ払い投稿。
誤字脱字乱文、今度ちゃんと見直して修正するのでご容赦くださいでござる。
朝食の席。
琴子と田仲はまともに会話した事も無い。
田仲と貴史とは仲が悪い。
貴史と和人と琴子は、今朝の告白の件があるせいか、どことなく気まずい。
貴史に関しては、気まずいというレベルでは無く、超絶機嫌が悪そうだ。
自然と田仲と櫻子が会話を交わし、和人両親がなぜか琴子のご機嫌を取り、貴史と和人は会話もせずに黙々とご飯を食べている。
とりあえず、今日学校を休むという事をどうやって伝えようかと悩んでいると、貴史がすごい勢いでご飯を食べ終わり、「ごちそうさま。俺、先に学校行くわ」と席を立った。
それを和人母が「ああ、今日は臨時休校ですって」と制止する。
「さっき連絡があったのよ。滅多に休みになんかしない学校だけど、さすがにこう立て続けに、しかも一クラスから亡くなった生徒さんが出るとねぇ。マスコミも集まっているらしいし。今日は説明会があるらしいから、私が行ってくるわ」
それを聞き、櫻子は泣き腫らした目からさらにぽろぽろと涙をこぼし、田仲は櫻子の肩を抱き、根拠の無い「大丈夫だ」を繰り返す。
だが、好都合だ。
「じゃあご飯食べ終わったら早速昨日の測量の続きしようよ」
幾分顔が部分的に腫れ、絆創膏だらけだが、睡眠を充分に取ったようなつやテカ顔で和人が言う。
少しふらつくが、このままベッドに潜っても眠れそうにもないので、琴子も同意する。
食器を片付け、洗い物をまた和人母と櫻子に任せてから、3人で古森医院に向かう。
いやな天気だ。
薄暗く、雨は降り続け、じめじめと体中を濡らす。
古森医院に到着した後も、和人が指示を出し、それに返事をする以外は会話といった会話が無い。
全員の気持ちを天候が代弁しているようにすら思える。
何事もなく全ての測量を終えた頃には雨も止み、薄暗い外の明かりの差し込むロビーで、方眼紙に書き込まれた間取り図を検分した。
おかしなところは一つも無い。
これでわかったことは、壁と壁の間に隠し部屋は無い、という事だけだった。
かと言って、外観と内部の天井の高さにも違和感は無い。
こうなるともう、地下室のそのまた下にある、と考えるのが普通だろう。
和人母の持たせてくれたお弁当を3人で食べ、また地下へと向かい、懐中電灯の灯りを頼りに、黙々と床を叩いたりしながら隠し部屋を探したが、一向に見つからない。
壁や床に突起も無ければ、机の上に固定された頭の向きを変えれる置物も、本のぎっしりと詰まった本棚も無い。
「こらっ! 何してるんだ!」
突然、ドアが開き、電気を点けられた。
あまりの眩しさに目を覆う。
何が起きたか理解できなかった。
話を聞くと、入ってきたのは、解体業者の見積もり担当の人だった。
許可をもらっている事を説明し、業者がオーナーに電話で確認を取ると、そのままスマホを渡される。
和人が応対し、しばらく話をした後で、業者の人にスマホを返した。
「ここ、取り壊すんだって。もうちょっと待って欲しいって頼んだんだけど、自殺が2件も出たから、即取り壊しだって。息子が参院選に出馬するからどうとか言ってて、まるで聞いてもらえなかった。一方的に電話切られた」
色々と言いたい事が無かったわけではないが、和人が説得できなかったものを、自分ができるとも思えない。
貴史も同じ考えらしく、「くっそ」と言いながら床を叩いているだけだ。
「君達、何やってたんだ? 電気も点けないで。おじさん、最初お化けかと思ってちょっとびっくりしちゃったよ。学校はどうしたの?」
「課長、ビビリですねぇ。まあ俺も地元のヤンキーが入り込んだのかと思ってちょっとビビってたんっすけどね」
しかし、そうか。電気を点けるという発想は無かった。
許可を取っていたのだから、電気を点けて調査すれば良かったのだ。
通報されたトラウマ、という訳でも無く、電気が通っているという発想が無かったのだ。
ただブレーカーを上げればいいだけだったと言うのに。
大人への対応は全て和人に任せた。
「僕達はここで自殺した二人と同級生だったんです。今日は学校のほうはその対応で忙しいみたいで休校なんです。ところで、ここだけの話なんですけど、ここで自殺した女の子の方が、この建物の中で隠し部屋を見つけたらしいんですよ。そういう話は聞いてませんか?」
業者は首を傾げながら鞄の中から数枚の平面図を取り出し、床に広げた。
「聞いてないねぇ。おや、君達も作ったんだね。おお、いい出来だ。将来うちの会社に入らないか? うちは建築部門もあるからね」
和人は曖昧に「考えてみます」と微笑みながら、その横に自分で作った平面図を置く。
覗き込んで2つの平面図を見てみたが、あまり差異は無いように思える。
「ここの下に隠し部屋があるんじゃないかと、僕等は思っているんですけど」
業者は難しい顔をしている。
「いやいや、課長、隠し部屋ってヤバいっすって。マジうちで請け負っちゃうんですか?」
「う~ん、まあ、地下に空洞があるかどうかは調べたらわかるからねぇ。危険は無いでしょ。わかってればなんとかなりますよ。それに、お得意さんだしねぇ。すぐに取り壊してくれるなら2倍払うって言ってたし」
「じゃあ、見積もり多く出したらその2倍って事っすよね。作業員の危険手当増やしたほうがいいっすよ。そんなわけわからない隠し部屋とか、絶対ヤバいっすって」
「でもねぇ、古森さんとこは住居の定期的リフォームも頼まれるし、やっぱり信頼関係が重要でしょう。調査で隠し部屋が見つかったら、それはそれでちゃんとその分も請求すればいいだけですよ」
「いや、そういう事じゃないっすよ、こう、なんていうか、お祓いとか? そっち系の話っすよ。ここで自殺者二人も出てんだし、自分が作業者だったらよっぽど金高くなきゃイヤっすよ」
「あぁ、そうか、そうだねぇ。じゃあ、病院だし、地鎮祭とかの名目でこのくらい上乗せして……でもキミも結構ビビってるじゃないか」
「そんな事ないっすよ。それじゃ足りないっす。作業員の人数に、時給にこんだけ上乗せするとして……」
大人たちは電卓を叩きながら話をしている。
なんとなく手持無沙汰になりながら、それでも自分から何かをする事はできず、和人を見つめた。
こんな時、本当に和人は頼りになる。
変態ではあるが、男女関係のいざこざとか、そんなくだらない事でこの友人を失うような事だけはしたくない、と思う。
だから私は、和人の告白をスルーしようとしたのだろうか。
では、貴史は……?
貴史も、私との関係を壊したくないと思って、私の告白を無かった事にしたのだろうか?
視線を貴史に移すと、それに気付いた貴史は舌打ちをしてそっぽを向いた。
違う。こいつはただ単に鈍くて、しかも機嫌が悪いだけだ。
「じゃあ、隠し部屋見つけたらここに連絡しろ。して、ください。なんかあったら俺、お祓いできるから。金とか取らない。俺は……ただ、守りたいやつがいる。それだけだから」
貴史は名刺を取り出して業者に渡した。
「すごい! タカ、名刺なんて持ってるんだ! 私にも1枚ちょうだい」
そう言うと、貴史は顔を顰めた。
「仕事用に慎二さんが作ってくれたんだよ。お前には必要ねえだろ、名前も連絡先もわかってんだから」
本当に女心のわからないやつだ。
課長と呼ばれていた人も条件反射的に貴史に名刺を渡したが、「まあ、何かあったら教えてあげるけど、君たちにお祓いを頼むような事は無いと思うよ」と貴史をあしらった。
まあ、それはそうだろう。
何かあったら尚更、得体のしれない高校生よりも、ちゃんとした神社やお寺等にお祓いを頼むだろう。
「あの、僕達、ここで作業を見学させてもらってもいいですか? お邪魔でしょうか?」
和人が交渉している時に、琴子のスマホが鳴った。
「ごめん、ちょっと電話」
櫻子からだ。
霊安室を出て、廊下が明るかったのでそこで通話ボタンを押してみたが、雑音が多くて聞き取れない。
階段を上ったが、やはり聞き取れない。
「もしもし? もしもし?」そう繰り返しながら歩き回り、古森医院の敷地内を出たところでいきなり音声がクリアになる。
「・・・・・・すけて、たすけて、助けて、琴子ちゃん! 怖いよ、怖いよぅ」
泣き叫ぶ櫻子をなだめながら、何があったのか聞く。
櫻子は今、ひとりでマンションにいる。
和人の父親は仕事、母親は学校の説明会で家を出た。
田仲は、親からおじいちゃんが亡くなったという知らせを受けて、家に帰ったそうだ。
そのすぐ後に、櫻子にも電話が来たそうだ。
櫻子の母の声で、「おばあちゃんが亡くなったからすぐに帰って来なさい」と。
それだけ言って電話は切れた。
櫻子の祖母はもう二人とも、とっくの昔に亡くなっていた。
疑問を抱き、リダイヤルしようとすると、自宅からの着信履歴は無かった。
登録していたアドレスから電話して、「おばあちゃんが亡くなったってどういう事?」と聞くと、櫻子の母は、「え? 何言ってるの? あんたのおばあちゃんはあんたが生まれる前に二人とも無くなってるわよ」と言われた、と。
わけがわからず呆然としていると、玄関チャイムが鳴り、インターフォンに出ると、「上の階の者ですが、申し訳無いです、水道をあふれさせてしまったので、被害状況の確認をさせてください」と言われた。
「ちょっと待ってください」と、とりあえず応対に出ようと玄関まで行き、鍵を開ける前になんとなく、本当になんとなくドアスコープを覗いてみると、そこには誰も居なかった。
そのまま戻ろうとすると、「状況を確認させて下さい、ジョウキョウカヲクニンさせテクダさイ、ジョウキョウヲかクにんさセテクダサイ」と、ドアを連打され、でも、ドアスコープ越しには誰の姿も見えなかった。
櫻子はパニックを起こしていてわかっていないようだが、部屋はマンションの最上階で、その上の部屋の住人など存在するわけもない。
今でもドアの連打は続いているそうだが、電話越しには何も聞こえない。
とりあえず櫻子には絶対にドアを開けないように、外に出ないようにと告げて、すぐに戻るから、と、電話を切る。
急いで地下霊安室に戻り、二人にその内容を告げると、二人ともすぐに走り出したので、琴子はその後を追った。
建物から出ると、パトカーのサイレンの音が、やたらと耳につく。
どこか近くで事件でもあったのだろうか。
心配になり、走りながら櫻子に電話する。
「櫻子、外に出てない? 大丈夫?」
櫻子がちゃんと電話に出て、家から出ていないと言ったので、安心して電話を切ろうとすると、「切らないで!」と櫻子が泣き叫ぶ。
怖いので、通話を繋げたままにしておいて欲しい、と。
ただでさえ男子の全力疾走には追い付けないというのに、電話を掛けたタイムロスに加え、喋りながら走ったために、琴子のSTとHPは半減していた。
目的地は同じなのだから問題は無いのに、貴史はもうまったく見えなくなっているが、和人が角を曲がる度にそこで足踏みをしながら、琴子と目が合うまでその場で留まっている。
なんだかイラッとしたので、顔を上げずにそこまで走ると、和人はまだそこで足踏みをしていた。
ぜえぜえ言いながらスマホを和人に押し付けて、そのまま走る。
そんな余裕あるならオメエが対応しろ! と。
話さなくていい分、呼吸を整えることはできたのだが、ペースを上げたその横を、涼しい顔で櫻子と通話しながら和人が並ぶ。
交差点で信号待ちで立ち止まった。
左側の二つ先の交差点で何か事故が起きたらしい。パトカーが何台も止まり、交通規制をしていた。
赤信号のうちに排気ガス臭い空気をいっぱいに吸い込んで深呼吸する。
信号が青に変わった途端にスタートダッシュ。
和人を置き去りにして貴史に追い付いてやる!
そう、思っていたのだが。
横断歩道の途中で足が止まる。
足元のアスファルトが、黒く染まっていた。
先程まで雨が降っていたので、アスファルトは全体的に黒く染まっている。
だが、足元の色はそれよりも濃く、黒く染まっている。
何か、落ちていた。
薄いプラスチックのかけらの様な何か。
見覚えがある。
ガリ……ガリ……という音が頭の中で再生される。
これは、――――爪、ではないのか?
足元の黒い染みは、長く、長く、左に続いていた。
「琴子さん、信号変わるよ!」
和人に肩を抱かれ、横断歩道を渡り切る。
渡り切ったところで、和人の手を払い、左へと走った。




