第三話 一日目終了
二つの月が中天に差し掛かり、森の闇はいっそう深まった。
腹は満たされたが、喉の渇きは限界に近い。焚き火で炙った魔物の肉は、塩気がないとはいえ野性味に溢れていて、余計に水分を欲させた。
「……だが、今は『水』より『安全』だ」
夜の森を地上で過ごすのは、セキュリティの観点から見て自殺行為だ。
俺は周囲で最も太く、枝振りの良い大樹を選んだ。警備の仕事で培った「現場の下見」の癖が、ここでも役に立つ。
一歩間違えば転落死だが、レベル2に上がった恩恵か、指先の力が以前より増している。
スーツのズボンを汚しながら、俺は地上から5メートルほどの高さにある、V字に分かれた太い枝の間に辿り着いた。
「ここなら、大型の捕食者もすぐには登ってこれないはずだ」
俺は余っていた蔓を使い、自分の体と幹を固定した。
眠っている間に転落しては元も子もない。即席の安全帯だ。
背中を幹に預け、ようやく一息つく。
ふと、暗闇の中で『ステータス』を開いた。
青白い光が、疲れ切った俺の顔を照らす。
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【収支報告:転移1日目】
・獲得魔石:2
・消費魔石:2(レベルアップ×1、ライター×1)
・現在高:0
・現在のコンディション:中度の脱水症状、極度の疲労
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「……赤字じゃないだけ、マシか」
俺はカタログの『通販:Lv.1』の項目を最後にもう一度眺める。
魔石1個で買える**「天然水」**。明日の最優先事項は、何が何でも魔物を一匹仕留めて、これをポチることだ。
そして、その先にある目標。
• レベル3への昇給:魔石5個
• 通販スキル:Lv.2へのアップグレード:魔石5個
「あぁ……明日も、残業確定だな」
森の奥から、遠吠えや何かが咀嚼される音が聞こえてくる。
日本のフカフカなベッド。
冷蔵庫で冷えたビール。
そして、金を払えばすべてを肯定してくれた、あの夜の街のネオン。
それらがすべて、何万光年も先にあるお伽話のように感じられた。
だが、不思議と後悔はなかった。
ここでは、自分の命の価値が、稼いだ魔石の数に直結している。
騙す女もいなければ、媚びる上司もいない。
「……明日は、5個稼ぐ」
俺は独り言を呟き、タブレットのような画面を閉じた。
渇いた喉に唾を飲み込み、俺は木の揺れに身を任せて、意識を闇へと沈めていった。
異世界無人島サバイバル:1日目 終了
残り魔石:0




