表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶海の無人島に転移したけど、ステータスが「通販」スキルしかなかった件 ~女に貢ぐより魔石を稼いでレベルを上げろ~  作者: ナマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/24

第十二話 兵站(ロジスティクス)の壁と、高嶺の「ストレージ」

砂浜に姿を現した、純白のプレジャーボート。

 それは異世界の月光を跳ね返し、まるで神が遣わした救命艇のように神々しく鎮座していた。

 

「……美しい。これこそが、俺の『自由』への鍵だ」


 俺はボロボロになった体を休めるのも忘れ、その船体――「パールホワイト・エディション2026(異世界換装モデル)」に触れた。ひんやりとしたFRPの感触。これがあれば、あの凶暴な海賊たちでも越えられなかった絶海を、鼻歌交じりで踏破できる。

 

 俺はボートのデッキに上がり、豪華なレザーシートに深く腰を下ろした。

 自動航行システムを起動すれば、目的地を入力するだけで、AIが最適な海流を計算し、最短ルートで文明圏まで連れて行ってくれる。

 

 だが、プロの警備員として、「完璧な計画」を練り直していた俺の思考に、一つの巨大なエラー(脆弱性)が通知された。


「……待てよ。この船、冷蔵庫はどうなってる?」


 ボートには確かに小さな保冷庫が備え付けられていた。だが、それはあくまでレジャー用だ。

 この島から次の大陸まで、どれだけの距離があるか分からない。数日、あるいは数週間の航海になる可能性もある。

 

 通販で「コンビニ弁当」や「生鮮食品」は買える。だが、買った瞬間に「消費期限」のカウントダウンが始まる。この暑い海の上で、肉や魚がどれだけもつ?

 干し肉だけで数週間過ごすのか? 栄養失調スカービーで倒れたら、いくら自動航行でも死体として大陸に届くだけだ。


「……兵站ロジスティクスの軽視は、プロジェクトの破綻を招く。基本中の基本だろ、賢治」


 俺は自分を叱咤し、再び「8インチのステータスウィンドウ」を呼び出した。

 通販スキル Lv.7。

 このレベルなら、きっと食糧問題を根本から解決する「何か」があるはずだ。

検索:インベントリ管理システム

 検索ワードに「食糧保存」「長期ストレージ」と入力し、スクロールする。

 保冷バッグ、真空パック機、高性能冷凍庫……。いくつか候補は出てくるが、どれも一長一短だ。電力消費コストと、何より「スペース」という物理的限界ハードウェア・リミットにぶち当たる。

 

 そして、リストの最深部。

 これまで「非科学的すぎる」とスルーしていた、あの『テンプレ』の項目が目に飛び込んできた。


・『アイテムボックス習得オーブ(時間停止機能付き)』


「……これだ。これしかない」


 解説文を読み込む。


【四次元空間に物品を収納可能。ボックス内の時間は完全に停止し、温かい料理は温かいまま、冷たい飲み物は冷たいまま、無限の期間保存可能。重量の概念も消失します】


 まさに魔法。物流革命ロジスティクス・イノベーション

 これがあれば、通販で買った「出来立ての牛丼」を100杯収納し、一ヶ月後の海の上で湯気が立つ状態で食べることができる。水も、燃料も、予備の武器も、全てをこの「見えない倉庫」に放り込める。

 

 だが、その横に表示された「価格」を見た瞬間、俺は危うくボートのデッキから転げ落ちそうになった。


【販売価格:2,000魔石】


「……2,000!? ふざけるな、桁が一つ多いだろ!」


 さっき、命を削って海賊の親玉ガッツを倒して手に入れた「極大魔石」ですら、換算すれば300魔石程度だ。

 部下たち全員分を合わせても、ボートを買った後の残高は雀の涙。

 

 2,000魔石。

 それは、この島の生態系を数回根こそぎにするか、あるいはガッツ級の「ボス」をあと6人は狩らなければ届かない、気の遠くなるような数字だった。


「……ハッ、なるほどな。世の中、そんなに甘くはないってことか」


 俺は自嘲気味に笑い、夜空を見上げた。

 

 女に金を注ぎ込んでいた頃は、どれだけ働いても、最後には「もっと、もっと」と要求されるだけだった。その先に待っていたのは、空っぽの通帳と裏切りだ。

 

 だが、この通販システム(異世界)は違う。

 2,000魔石出せば、確実に「アイテムボックス」という至高の機能を納品してくれる。

 

 努力と報酬が、1対1でリンクしている。

 これほど誠実なビジネスが他にあるだろうか。


「……いいだろう。残業の続きだ」


再起動:高効率ハント・スキーム

 俺はズタボロになったスーツを脱ぎ捨て、通販で「プロ仕様のタクティカル・アンダーウェア」と「予備の強化外骨格パーツ」をポチった。

 

 もう、罠にかかった雑魚をチマチマ狩るフェーズは終わりだ。

 

 ターゲットを「高単価・高リスク」の個体に絞る。

 森の深部、まだ足を踏み入れていない「禁域」には、ガッツ級、あるいはそれ以上のエネルギー反応(魔石)がゴロゴロしているのを『気配察知』が捉えている。

「……よし。まずは、さっきのスタンガンの予備バッテリーと、高貫徹のセラミック・ナイフを揃える。投資(装備)をケチれば、死ぬのは俺だ」


 俺はMOSの関数を組むように、最短で2,000魔石を稼ぎ出すための「狩猟ローテーション」を脳内のスプレッドシートに書き出した。


1.エリアD(火山地帯)の『フレイム・リザード』:1体あたり50魔石。

2.北の崖に住まう『サンダー・ギガント』:1体あたり150魔石。

3.それらを効率的に回るための、バイクによる高速移動。


「……やるか」


 俺はボートのハッチを閉め、ロックをかけた。

 この船は、俺が2,000魔石を稼ぎ、完璧な兵站を整えるまで、この入江で待っていてもらう。

 

 手にしたメイスを強く握り締め、俺は再び、闇に包まれたジャングルへと足を踏み入れた。

 

 そこは、海賊すら恐れて近寄らなかった、真の「化け物」たちの領域。

 だが、今の俺にとっては、それらは全て、俺を自由へと導く「輝く硬貨コイン」にしか見えなかった。

「……さあ、営業開始ハンティング・タイムだ。一人残らず、俺のストレージの肥やしにしてやる」


 男の背中が、森の深淵へと消えていく。

 

 異世界の夜に、再び火花と爆音が響き始めた。

 

 すべては、誰にも縛られない、最高の「一人旅」を始めるために。

 35歳のオッサンの、狂気にも似た「稼ぎのルーティン」が、再び幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ