1章-6
「……ん? 私……?」
額に手を当てながら、フェルトがゆっくりと目を開ける。
ぼやけていた視界の中に、二つの人影が浮かび上がった。
「気が付いたのね。」
「エルさん……? ホムラさんも。
村の方は、もう大丈夫なんですか?」
体を起こしながら、フェルトは周囲を見回す。
崩れた建物。焦げた地面。
戦いの跡は、まだ色濃く残っていた。
「えぇ。こちらの方で爆音が聞こえたので、先にホムラに向かってもらって。
私は、ついさっき着いたところです。」
エルは落ち着いた声で答える。
その隣で、ホムラは無言のまま立っていた。
剣を握る手には、まだ力がこもっている。
「……そう、ですか」
フェルトは小さく息を吐いた。
ひとまずの安堵。
けれど、それだけでは終わらない何かが――
この場には、まだ残っている気がした。
「そうだったんですね。私、敵に背中を切られて…。」
そう言って、フェルトは自分の背中へ手を回した。
指先が触れる。
だが— —
「出血してない……?皮膚も、切れてない……?どうして……?」
さっきまでの記憶と、今の状態が噛み合わない。
戸惑いが、そのまま焦りに変わっていく。
「そうだ……!フウタは?
フウタは大丈夫なんですか?」
声が一気に強くなる。
完全にパニックに入りかけたその時— —
「大丈夫よ。少年なら、あなたの隣にいるわ。」
エルの落ち着いた声が、すっと差し込まれた。
「……っ。」
フェルトは弾かれたように振り向く。
そこに、フウタが横たわっていた。
「フウ……。」
ほっと息が漏れる。
フェルトはそっと膝をつき、フウタの頬に手を添えた。
温もりがはある。
呼吸も、確かにある。
ただ— —
まるで眠っているかのように、目を覚ます気配は無い。
「俺がここに着いた時にはその状態だった。」
ホムラが静かに口を開く。
「すまない。もっと早く来れば良かったな。」
「そんな……ことは……。」
フェルトが首を振る。
責める気など、微塵もない。
だが— —
視線が、ゆっくりと周囲へ移る。
崩れた建物。焦げた地面。
戦いの痕跡だけが、そこに残っている。
「でも……この惨状は、一体誰が……?」
フェルトの言う言葉も、もっともだった。
自分が倒れている間に、何が起こったのか。
視線を巡らせる。
家の屋根は吹き飛び、家具は無残に切り刻まれている。
壁のあちこちも大きくえぐれていた。
——明らかにおかしい。
エルたちが出ていった後とは、状況が違っていた。
「そのことで、ホムラとも話していたんだけど……」
エルが静かに口を開く。
「まずはあなた達を介抱しないとね。
傷のこともあるし。」
「フウタをこのままここで寝かせておく訳にはいか ないだろ。」
ホムラはそう言いながら、フウタを抱き上げる。
そのまま、周囲を見渡した。
「どこか、落ち着ける場所を……。」
「なら、フウタの家が近くにあるから、そこにいきましょう。案内するわ。」
フェルトが一歩踏み出す。
だが— —
足元が揺れる。
「……っ。」
体がふらついた、その瞬間。
「無理しないで。」
エルがすぐに支える。
「皮膚や出血は一時的に魔法で押さえているだけ。 少年の家に着いたら、ちゃんと横になりましょう。」
「えぇ……、ありがとう。」
フェルトは小さく頷いた。
支えられながら、ゆっくりと歩き出す。
三人は、フウタの家へと向かった。




