1章-5
フウタは、フェルトに守られながら恐怖で固まっていた。
ガシャン!
反射的に視線を向けた。
——そこにいた。
もう一体のリザードマンが、すぐ目の前に立っていた。
フウタは目を見開く。
悲鳴を上げることすら、忘れていた。
次の瞬間。
ゴツゴツとした手が、フウタの頭を鷲掴みにする。
「——っ!」
そのまま、机や椅子を巻き込みながら引きずられ——
壁に叩きつけられた。
フウタは壁に激突し、視界がぐらりと揺れた。
「しまった!フウ!」
壁に激突したフウタは、気絶しているのか、反応が無い。
フェルトは振り向き様に、背後のリザードマンへ向けて結界を展開する。
その頭を囲うように、小さな箱状の結界が現れた。
「圧殺しろ!」
そう叫ぶと同時に、左手を拳の形に握り込む。
グジャッ!
敵は嫌な音が響き、リザードマンの頭が潰れた。
巨体は前のめりに崩れ落ちた。
(魔力が限界に近い…)
フェルトは肩で息をしていた。
(この状況…どうしたら…。)
焦るフェルトの耳に、低い笑い声が届いく。
「グッグッ…。おま゛え゛、つよい。
でも、よ゛わい…。」
その言葉に、フェルトは弾かれたように顔を上げた。
「何を……?」
リザードマンは大きな口を歪め、ニヤリと笑う。
そして、左手で壁の方を指差した。
「あ゛いづが、いな゛ぐなれば…も゛っど、よわぐなる…。」
ニヤリと笑い、斧を振り上げる。
次な瞬間——
リザードマンはフウタへ向かって走り出した。
リザードマンは机や椅子を蹴散らしながら突進した。
斧が振るわれ、木の机が真っ二つに裂ける。
椅子が弾き飛ばされ、床に転がった。
その後ろを、焦った顔のフェルトが追う。
「やめてぇ!!」
リザードマンは構わず、斧を振り上げた。
狙いは、気絶したまま動かないフウタ。
——当たる。
そう思われた瞬間。
フェルトが飛び込んだ。
フウタを抱きしめ、その身体を覆う。
次の瞬間——
斧が振り下ろされた。
ザシュッ。
刃がフェルトの背中を大きく切り裂いた。
「っ!!」
あまりの痛みに、フェルトの顔が歪んだ。
その衝撃で、フウタは目を覚ます。
「アイツとの約束……だから……アンタは、早く……逃げ……て……。」
苦しそうに言葉を絞り出したフェルトは、そのまま力尽きるように気を失った。
そして、フウタの上へと倒れ込む。
「お姉ちゃん?お姉ちゃん!」
フェルトの身体を抱き起こそうとして、背中へ手を回した瞬間——
ぬるり、とした感触が指に絡んだ。
ゆっくり右手を離す。
手は、真っ赤だった。
身体が震える。
ドクン、ドクンと心臓の音がうるさい。
呼吸の音も、やけにはっきり聞こえる。
——前にも、こんなことがあった?
いつ?
誰に助けられた?
お姉ちゃん…じゃない。
なら……。
フウタは、目を大きく見開いた。
「嫌だ。」
「嫌だよ。」
「一人に……しないで……。」
あの広い家に、ひとりぼっちなのは寂しいんだ。
どうして僕を守って死んでしまうの?
「もう……守られるのは嫌だ。」
「守れる僕でありたいよ……!」
その瞬間だった。
座っているフウタの足元から、淡い緑の光が滲み出した。
周りには魔法陣がゆっくりと回転しながら光を強めていく。
それはやがて帯のように解け、フウタの足に絡みついていく。
するりと、這うように。
光の帯は足首から、膝へ、腰へ、胸へと駆け上がっていく。
その軌跡が、体の表面に緑の紋様を刻んでいく。
まるで眠っていたなにかが、今、目覚めたように。
「……な゛んだぁ?」
低い声が落ちた。
リザードマンのリーダーは眉をひそめた。
だが、すぐに鼻で笑う。
「がきが、なに゛
を……!」
斧を振り上げ、フウタへと踏み込む。
床を蹴る重い音。
瓦礫を蹴散らしながら、巨体が一直線に迫る。
だが——
フウタは、動かない。
光の帯はすでに胸を越え、喉元へと達していた。
リザードマンは低く唸り声を上げ、斧を振り上げた。
「ガァァッ!」
振り下ろされた斧が、フウタへと叩きつけられる。
——だが。
ガンッ!
硬い音と共に、斧は弾かれた。
見えない壁に阻まれたかのように、刃が空中で止まっている。
「………あ゛?」
リザードマンが目を見開く。
もう一度、今度は力任せに斧を振り下ろした。
ガァンッ!!
再び弾かれる。
足元で回転する緑の魔法陣。
フウタの身体を覆う光の紋様。
それが、静かに脈打っていた。
「グゥゥゥ……ッ!」
苛立ちに顔を歪め、リザードマンは斧を大きく振りかぶる。
その時だった。
フウタの目が、ゆっくりと開いた。
右手を前へ突き出す。
「風よ……!」
静かな声。
次の瞬間、叫んだ。
「切り裂け!!」
——ブォン!!
空気が裂けた。
無数の風の刃が、家全体、家具や壁を切り裂いた。
テーブルは真っ二つに裂け、椅子の脚が宙を舞う。
壁が縦に裂け、梁が悲鳴のような音を立てる。
次の瞬間——
屋根が、吹き飛んだ。
木片と瓦が、嵐に巻き上げられる。
その暴風の中心で、リザードマンの巨体も直撃やわ受けていた。
鱗と鎧に覆われた身体に、風の刃が容赦なく叩きつけられる。
ギギッ、と嫌な音が鳴った。
鱗が裂け、鎧に深い傷が刻まれる。
巨体がよろめいた。
それでも——
リザードマンは、まだ立っていた。




