5章-6
頬からの出血がそれほどではないことを確認すると、フウタは反射的に両腕を交差させた。
体を小さく縮める。
動かなければ。
そう思うのに、足が床に縫い付けられたように動かなかった。
横から見ているカグヤとホムラは、
「あぁ〜、固まったなぁ。」
「あぁなってしまってはなかなか再び動くことは難しいですわね。」
『どうしよう、動かなきゃ。』
フウタが思っても体が言うことを聞かない。
その間にも金属がぶつかる音が何度も聞こえる。
「少年、縮こまっていては攻撃も出来ないぞ。」
「え…?」
エルの声にフウタは反応したが、次の瞬間、エルは手首を返した。
槍の切先をクロスした腕の隙間へ滑り込ませる。
そのまま上へ弾き上げた。
すると、クロスしていたフウタの両手が開かれて、胸の前のガードが解かれてしまった。
「え……?」
胸の前がガラ空きになる。エルはその隙を逃さなかった。
右足を引き、ハルバードを突き出そうとする。
「風よ!彼の者を戒めろ!」
その瞬間、突風が巻き起こった。
風は縄のように絡みつき、エルの四肢を拘束する。
「……!。バインド!?いつの間に…。」
驚きに目を見開いてフウタを見るエル。
一つ大きく息を吐き、少し気持ちを落ち着かせ、フウタはエルに向き合った。
「あら〜、フウタさんいつの間に。」
カグヤは目を丸くした。
「あなたが教えたの?」
とホムラに聞いてみた。
「いや、俺は多少の事しか教えてない。
だいたい、俺がバインドを使うヤツか?」
と自分を指さしてみれば、
「そうよねぇ……。」
と同意してみる。
「一体どこで覚えたのかしら。」
「バインドか……。よく使えたな。」
「僕では、動いている対象に攻撃するのは難しいって分かってますから。」
「だから、動いている私を、無理やり止めた……と。」
「……はい!」
フウタは少し辛そうな声で答えた。
額には汗が滲み、左手がわずかに震えている。
左手でバインドを維持しながら、右手では次の術を組み上げていた。
「そうか……。」
しかし、エルは低めの声で非情なことを口にした。
「少年すまない。」
「私は色々な相手と戦ってきた、君とは踏んできた場数が違うんだ。」
そう言うと、フウタがかけた術がバラバラと崩れていった。
「え、えぇっ!?」
左手に力を込め続けていたため、突然術が解けると力の行き場を失った。
ふらりと体勢が崩れる。
「さぁ少年、続きをやろうか。」
エルは両手を軽く振る。
四肢に絡みついていた風の縄は、ガラスのように砕け散った。
フウタは自らが放った術があっという間に解除されて驚きに目を丸くして固まっていた。
「うわ、ひっでぇなぁ……。」
「鬼畜ですわ……。」
エルはちらりと二人を見た。
「……あなた達が戦えと言ったんでしょう。」
呆れたような声だった。
「なんて、おちゃらけてもいられませんわ。
あと、残り1分半ですわよ!」
「「はい!」」
カグヤの声にはっとして下げていた目線をエルに向き直した。
フウタは円月輪を前に構えて突進をした。
ガキィィィン!!と金属がぶつかる音がして、エルとフウタはぶつかり合った。
「まさか、少年が突進を仕掛けるとは思わなかったよ。」
というと、エルは、ハルバードを右に薙ぎ払い、バックステップでフウタと距離を取った。
「僕は、そんなに力がないので。全身でいかないとダメなんです。」
フウタはそういうと、円月輪を両手で上段に構え上からエルに当てる様に大きく振りかぶった。
フウタの投げた円月輪はエルのハルバードによって払い落とされた。
しかし、それも想定の内だった。
フウタはすぐさまオーブを叩き、落ちた円月輪を回収する。再び攻撃を仕掛けよう円月輪を上段に構えた。
だが——
「胴ががら空きだぞ!少年!」
エルは鋭く踏み込むと、ハルバードの柄をフウタの腹部へと叩き込んだ。
「ぐぅっ!」
衝撃に息を詰まらせたフウタの身体が宙に浮く。そのまま修練場の壁へと叩きつけられた。
「そこまでですわ!」
右手を高く掲げたカグヤの凛とした声が修練場に響き渡った。
「勝負あり、ですわね。」
カグヤは倒れたフウタへ駆け寄る。
「メイさん。レモンのハチミツ漬けと、何かさっぱりする飲み物をお願いします。私はフウタさんの回復に専念しますから。」
「あ、俺アイスコーヒー。」
「あなた、何もしてないでしょう。」
「いや、応援してたから。喉乾いてる。」




