3章-2
エルは、「さあ、お先にどうぞ」と、ドアマンのように扉の前へ手を差し出した。
促されるまま、フウタはおっかなびっくりと一歩を踏み出す。
ゆっくりと、扉の向こうへ足を踏み入れた――その瞬間。
「……え?」
チャプ、と。
足元から、小さな水音が広がった。
視界が開ける。
そこにあったのは――
水が張られた、大きな円形の“空間”だった。
まるでプールのように静まり返った水面が、どこまでも広がっている。
そして気づいた。
自分が、その中央に立っていることに。
水深は浅く、足元を濡らす程度だった。
天井を見上げれば、一面の白。
どこまでも均一で、境目すら分からない。
つい先ほどまでいた、あの暗い森とは――あまりにも対照的な場所。
あまりの変わりように、フウタは思わず辺りを見回した。
その時、不意に視線が止まる。
プールの外。
そこに、一人の少女が立っていた。
長く流れる銀の髪。
顔は伏せられており、その表情はうかがえない。
だが、その佇まいは――静かすぎるほどに、そこにあった。
(……小さい?)
一瞬、そんな考えがよぎる。
次の瞬間。
鈴を転がしたような声が、静寂の中に澄んで響いた。
「遠くよりの来訪者。あなたが来るのを、待っていました。」
フウタは、その少女から目を離すことができなかった。
ただ、立ち尽くしたまま――見つめることしかできない。
「すまないが、少年。少し動いてくれないか? 後が詰まっているんだ。」
不意にかけられた声で、はっと我に返る。
「あっ! ごめんなさい!」
慌ててその場を離れ、見えない扉の脇へと身を寄せた。
――そうだ。
ここは、ただ自分一人の場所ではない。
だが、それでも。
(……なんなんだ、あの人は。)
あまりにも現実離れした存在に、思考が追いつかない。
気づけばまた、視線は自然と彼女へと引き寄せられていた。




