閑話休題 お下がり
村を出ていく、その日の朝へと時間を巻き戻す。
「ぎにゃあぁぁぁぁ!」
朝の静けさを引き裂くような叫び声が、フウタの家を震わせた。
突然の悲鳴に、大人たち三人は顔色を変える。
次の瞬間には、フウタの部屋へと駆け出していた。
「どうした?」
「何があったの?」
「大丈夫?」
三者三様の声が、いっせいにフウタへ向けられる。
当の本人は、顔を両手で覆ったまま、ベッドの上で丸くなっていた。
ケガをしている様子はない。血も出ていない。
――それなのに、この騒ぎだ。
一体、何があったのか。
フェルトは心配そうにフウタの肩へ手を置き、そっと顔を覗き込む。
「ど、どうしたの? 何があったの?」
その問いに――フウタは何も答えない。
ただ、ゆっくりと右手を上げて。
部屋の隅を、指差した。
「「「……?」」」
三人は顔を見合わせ、首を傾げながら、指の先を追う。
フウタの指差したもの。
それは、昨日お下がりでもらったフウキの服だった。
「……え、服?」
フェルトが眉間に皺を寄せながら問いかけると、フウタはこくりと頷く。
「これがどうかしたのか?」
エルはベッドに脱ぎ捨てられていた服を拾い上げ、ハンガーにかけながら言う。
フウタは、これまたこくりと頷いた。
「気に入らなかったの?」
フェルトがそう尋ねると、今度はぶんぶんと首を振る。
女性二人は顔を見合わせ、そろって首を傾げた。
しかし、ただ1人ホムラだけは、
「……あ〜。」
ぽつりと、納得した声が漏れる。
「お前、これ……サイズ、デカすぎたんだろ。」
ズバリと言い当てられたフウタは、びくりと肩を震わせた。
図星だった。
悲しいやら、恥ずかしいやら――
いろんな感情がぐちゃぐちゃに混ざった顔で、そのままベッドに突っ伏した。
「ちなみに、どれくらいだ?」
ホムラがそう聞くと、フウタは震える手で――
そっと、間を空けて。
軽く10センチはあろうかという幅を示した。
「「「…………」」」
大人たちは、そろって黙り込む。
その沈黙が、逆にすべてを物語っていた。
「どうせちっさいですよ!」
フウタは顔を真っ赤にして、やけくそ気味に叫んだ。
「ま、まぁ……こういうのは、個人個人の成長がな。バラバラだから、仕方ないさ。」
「そ、そうだな。そのうち成長するさ。」
「ほら、昨日も言ったじゃない?
アイツ、成長早かったから。ね?」
ホムラ、エル、フェルトの順で、必死のフォローが入る。
――が。
「そのフォロー、傷つきます。」
フウタはじとっとした目で、三人を見上げた。
「「「……」」」
なら、どうしろと。
大人たちは、心の底からそう思った。
「分かったわ!」
フェルトが、ぱん!と手を叩く。
「30分でサイズ直ししてみせるわ!」
「エルさん! 付いてきて!」
突如話を振られ、エルは珍しく困惑した。
「えっ!? なぜ私?」
「大丈夫! まち針の使い方、教えてあげるわ!」
まったく答えになっていない返事とともに、フェルトはキリリとした顔でエルの腕を掴む。
服をもう片方の手に抱え、そのまま有無を言わせずリビングへと引っ張っていった。
「いや、私は家事が苦手で……」
エルの弱々しい抵抗は、まるで届いていない。
部屋に取り残されたフウタは、ぽつりと呟いた。
「……やめて。」
そのフウタをホムラはなんとも言えない顔で見ていた。




