2章-8
「はぁ……笑った」
フェルトが小さく息を吐く。
「体調戻ったら、一回着てみて。サイズ直しするから」
「うん。分かった」
フウタは素直に頷いた。
ベッドに置かれた服へ、もう一度視線を落とす。
柔らかな色合いが、静かにそこにある。
そして——
「で」
フェルトが、口を開いた。
その一言で、空気が変わる。
「さっきの話、どうするの?」
まっすぐな視線。
「彼らと一緒に行くの?」
先ほどまでの柔らかさはない。
試すような、確かめるような声音。
「……うん」
フウタは、ゆっくりと顔を上げた。
迷いはない。
「そのつもりだよ」
一拍。
「というより——」
言葉を選ぶ。
「そうしたいんだ」
その目は、真っ直ぐだった。
「……そう」
フェルトは、わずかに目を細める。
「それが、あなたの出した答えね」
問いというより、確認。
フウタは、静かに——
頷いた。
「そう……」
フェルトは一度、ゆっくりと息を吐いた。
「なら、止めないわ」
その言葉に——
フウタは布団から顔を出す。
ほっとしたように、フェルトを見る。
「ただ——」
続いた一言に、空気が変わった。
「私は、ついて行かないわよ」
「へ……?」
一瞬、意味が分からなかった。
「え……え?なん……なんで?」
驚きすぎて、言葉がうまく出てこない。
「だって、あなたが考えたんでしょ?」
フェルトはあっさりと言う。
「だから、私も考えたの」
まるで当然のことのように。
「そうだけど……でも、なんで……?」
戸惑いが隠せない。
その様子を見て——
フェルトは少しだけ、柔らかく息を吐いた。
「あのね」
声のトーンが、ほんの少しだけ落ちる。
「私がいたら、あなたは甘える」
まっすぐに、フウタを見る。
「それじゃ、あなたは成長しない」
言葉ははっきりしている。
けれど、突き放す響きではない。
「だから——行かない」
静かに、言い切る。
「自分で決めたことなら」
一歩、踏み込むように。
「自分の行動にも、言葉にも、ちゃんと責任を持ちなさい」
「——……。」
フウタは、しばらく何も言わなかった。
その顔には、はっきりとした戸惑いと——
少しの寂しさが浮かんでいる。
けれど、
「……うん」
小さく、息を吐く。
「……うん、うん」
自分に言い聞かせるように、何度か頷いた。
ゆっくりと、顔を上げる。
「分かった」
その言葉は、静かだった。
けれど——
さっきと同じ、真っ直ぐな目をしている。
もう、揺れてはいない。
「……」
フェルトは、その顔を見ていた。
何か言おうとして——
言えない。
ほんの一瞬、
困ったように眉を寄せて、
それから——
泣きそうな顔で、笑った。
その後——
「ほら、もう休みなさい」
フェルトにそう促され、
フウタは大人しく横になった。
まだ少しだけ残る熱と、
胸の奥に残る、さっきの言葉。
それらを抱えたまま、
ゆっくりと目を閉じる。
やがて——
静かな寝息が、部屋に満ちていった。
「……」
フェルトは、その様子をしばらく見つめていた。
安心したように、小さく息を吐く。
「……さぁ」
ぽつりと呟く。
「彼らにも話をしないとね」
くるりと背を向け、
扉へと向かう。
一度だけ、振り返る。
眠るフウタの姿を見て——
「ほんと、世話の焼ける子ね」
小さく笑った。
パタン、と
静かに扉が閉まる。




