2章-7
「じゃあ、エルさん、ホムラさん。ちょっと二人だけにしてもらってもいいかしら?」
フェルトが、視線を二人へ向けて言った。
「え?……えぇ、構わないけれど」
エルが頷く。
「なら、ついでにこれもな」
ホムラは軽く手を伸ばし、フウタの手元からお盆とスープ皿を受け取った。
「悪いな」
短く言い残し、そのままキッチンへ向かう。
「……そういえば」
エルが思い出したように足を止めた。
「渡し忘れていた」
差し出されたのは、冷やしたタオル。
「ありがとうございます」
フウタはそれを受け取り、そっと額に当てる。
ひんやりとした感触が、じんわりと広がった。
それを見届けると、エルは何も言わず部屋を出る。
パタン——
扉が閉まる音が、小さく響いた。
途端に、部屋が静まり返る。
「さて、アンタは横になってなさい」
「はぁい……」
フウタが大人しく横になろうとした、その時——
ガサッ
「……え?」
フェルトが、突然タンスの引き出しを開け始めた。
「ちょっ……!」
フウタが目を見開く。
「お、お姉ちゃん!?なにしてるの!?」
「なにって、ちょっと探し物よ」
悪びれもせず、次々と引き出しを開けていく。
「や、やめてって!それ……その……!」
顔が一気に赤くなる。
「いまさらアンタの下着見たって驚かないわよ」
「そ、それもあるけど!!とにかく恥ずかしいんだよ〜!!」
ベッドの上で身をよじるフウタ。
「……あれ?」
フェルトは気にせず手を止めた。
「ここじゃなかったか」
くるりと振り向き——
「じゃあ、クローゼットね」
ガラッ
「やめてぇぇぇ!!」
さらに深刻な悲鳴が上がる。
クローゼットの中を、容赦なく漁るフェルト。
フウタは顔を真っ赤にして、もはや布団をかぶりかけている。
「や、やめ……っ」
「——あった!」
フェルトが声を上げた。
「……え?」
動きが止まる。
「何探してたの……?」
おそるおそる聞くフウタに——
「ふふ〜」
フェルトはにやりと笑い、
くるりと振り返る。
「これよ」
手に持っていたものを、フウタの前に突き出した。
「え、これって……服?」
「そう」
フェルトは軽く頷いた。
「アイツがね。“フウタに着せてください”って、そう言ってたの」
ハンガーにかかった服を、そっとベッドの上に置く。
白というより、淡いベージュ。
柔らかそうな生地が、静かに揺れた。
「……こんな服、あったんだ」
フウタは、少し驚いたように呟く。
見覚えがない。
この家にあったはずなのに——
「それがね」
フェルトは、ぽりぽりと頭をかいた。
どこか、言いづらそうに。
「これ、元はアイツの服なのよ」
「……え?」
フウタの目が、わずかに見開かれる。
「じゃあ、これって……」
「ようは、お下がりね」
あっさりと言う。
けれど——
その言葉の奥に、少しだけ柔らかいものが滲んでいた。
「ほら、アイツ成長早い方だったじゃない?
すぐサイズアウトしちゃって」
「——……」
フウタは、何とも言えない顔でその服を見つめる。
「大丈夫。1、2回しか着てないから!」
フェルトが明るく言い切る。
その言葉に——
「……ふふ」
小さく、笑いがこぼれた。
「お兄ちゃんらしいね」
どこか懐かしむように、そう呟く。
「“もったいないからフウタにあげてください”だって」
フェルトが肩をすくめる。
その言い方が、あまりにもそれらしくて——
フウタは顔を上げた。
フェルトと目が合う。
一瞬の沈黙のあと——
「……あはは」
「ふふっ」
同時に、笑いがこぼれた。




