2章-6
「……“知っている”では足りないな。」
低く、はっきりとした声。
そのまま、続ける。
「俺とエルは——そのカグヤ様と、一緒に住んでいる」
「……は?」
間の抜けた声が漏れた。
フウタとフェルト、二人揃って固まる。
「……神様と?」
フェルトの声が、わずかに上ずる。
「あ〜、まぁ……色々あってな」
ホムラは肩をすくめた。
「今は、居候してるって感じだ」
軽い調子。
だが、その内容は軽くない。
「……いや、ちょっと待って」
フェルトが額を押さえる。
「話が一気に飛んだんだけど?」
「だろうな」
苦笑する。
「まぁ、俺はアンタらとそこまで感覚は変わらねぇよ」
ちらりとエルを見る。
「ただ——コイツは違う」
一拍置いて、
「俺より長く、あの方の側にいる」
「……」
その言葉に、空気がわずかに沈む。
「だから、ちょっと感覚がな」
ホムラは短く息を吐いた。
「悪いな」
「——……」
エルは、何も言わなかった。
だが——
その表情は、明らかに硬い。
まるで、何かを飲み込んだような。
苦虫を噛み潰したような顔で、視線を伏せる。
そのエルの様子を見て——
「あ、あの……」
フウタはおずおずと口を開いた。
「カグヤ様に、会いたくないわけじゃないんです」
言葉を選びながら、ゆっくりと続ける?
「それだけは……分かってください」
その声に、エルの肩がわずかに揺れた。
顔を上げる。
フウタは、視線を落としたまま。
「ごめんなさい。言葉が足りませんでした」
飲み終えたスープ皿を見つめながら、小さく頭を下げる。
「——……」
一瞬の沈黙。
そして、
「……すまない」
エルが静かに口を開いた。
「大人気なかったな」
その声音から、先ほどの棘は消えていた。
言葉の棘が消えたのを感じて、フウタはそっと顔を上げる。
エルと目が合う。
互いに、どこか困ったような顔で——
ふっと、笑った。
張り詰めていた空気が、少しだけ緩む。
その変化を見て取ったのか——
「で、アンタはどうしたいの?」
フェルトが口を開いた。
先ほどまでとは違う、真っ直ぐな眼差し。
逃がさない問い。
「ぼく……」
一瞬、言葉に詰まる。
だが——
「僕は……会ってみたい」
ゆっくりと、しかしはっきりと言い切った。
「カグヤ様のことも、そうだけど」
視線が揺れない。
「どうして、あのモンスターが僕を狙ったのか」
拳を、わずかに握る。
「それも、知りたいんだ」
いつもの柔らかい口調ではない。
芯の通った声だった。
「……ただ」
少しだけ、苦笑する。
「このタイミングだと、“アイツに言われたからだろ”って思われそうだけど」
自嘲気味に肩をすくめる。
それでも——
「でも、これは」
まっすぐにフェルトを見る。
「自分で決めたことなんだ」
その瞳には、迷いがなかった。
「——分かった」
フェルトは、短く頷いた。




