2章-5
「アイツ、そんなとこ出てきて、そんなこと言ってんのね!」
バーン!!
リビングに続く扉が、勢いよく開け放たれた。
「うおっ……」
ホムラがわずかに眉をひそめる。
現れたのはフェルトだった。
両手には、スープ皿を乗せたお盆。
——にもかかわらず、扉は完全に蹴り開けられている。
どうやら、足で開けたらしい。
「ちょ、危ないだろ……」
「大丈夫よ、こぼしてないから!」
どこか誇らしげに言い放つ。
その後ろで——
エルが冷えたタオルを手に、わずかに引いた顔をしていた。
「……一応言っておくが、危険行為だ」
淡々とした指摘。
「細かいことはいいの!」
フェルトは意に介さず、ずかずかと部屋に入ってくる。
「それよりフウタ!あんた今、フウキに会ったって言ったわよね!?」
ずい、と身を乗り出す。
スープが少し揺れる。
ドスドスと大股で歩み寄り、フェルトはフウタのベッド脇まで来ると、ずいっとお盆を差し出した。
「はい、これ。ちゃんと食べなさい」
「わ、わっ……!」
慌てて受け取る。
スープの表面が大きく揺れた。
「あああ、お姉ちゃん!スープ溢れるよぅ!」
「お盆の上なら溢れてもいいの!」
びしっと言い切る。
「あと、スープ飲んだら横になりなさい!」
有無を言わせない口調。
「ホムラさんも!」
びしっ、と指を向ける。
「病人に座って話させるとかじゃなくて、横にさせて話させなさいよ!」
「……っ」
突然矛先を向けられ、ホムラはわずかに面食らう。
「わ、悪い……」
素直に引いた。
その様子を見て、エルが小さく息を吐く。
「……言い方はともかく、間違ってはいないな。」
冷静な補足。
「でしょ!」
フェルトは満足げに頷いた。
「とりあえずこの話は一旦中断!」
ぴしっと場を仕切る。
「フウタが食事してからね!」
「い、いただきます」
両手を合わせ、フウタはスプーンを取る。
そっとスープをすくい、口に運んだ。
「……美味しい」
ほっと、息が漏れる。
野菜の旨みが溶け込んだ優しい味。
浮かんだクルトンが、静かに揺れている。
その水面を、ぼんやりと見つめながら——
「……なんで」
ぽつりと、呟いた。
「どうして、カグヤ様に会わなきゃいけないんだろう」
フェルトとホムラは、フウタへと視線を向ける。
しかし——
その中で一人だけ、鋭い視線を向ける人物がいた。
エルだ。
「……それは、どういう意味だ?少年」
低く、抑えた声。
だが、その奥にわずかな怒気が滲んでいる。
「え……っ」
フウタは思わず身を強張らせた。
「い、いえ……怒らせるつもりはなくて……」
視線を泳がせながら、言葉を探す。
「どうして僕なんかが、そんなすごい人に会うんだろうって……」
必死に言い繕うが、うまくまとまらない。
「……」
エルの視線は、逸れない。
「エル、やめろ」
ホムラが小さく息を吐いた。
「普通は、コイツと同じこと思うぞ」
「……」
一拍。
それでもエルは引かない。
「あの方は——」
静かに、だがはっきりと言い切る。
「素晴らしいお方だ」
言葉に、迷いがない。
「そんな方に呼ばれるなど、本来なら光栄に思うべきだろう」
空気が、わずかに張り詰める。
「はぁ……」
ホムラは頭を抱えた。
(こじれるな、これは)
その様子を見て——
「あのさ、ちょっと聞いてもらってもいいかしら?」
フェルトが、すっと二人の間に割って入った。
エルの視線を受け止めつつ、軽く肩をすくめる。
「私たちの知ってるカグヤ様ってね——」
一度、フウタの方を見る。
「この世界を作った“三柱”のうちの一柱。
今も存在してる、“現人神”なの」
「……」
フウタの表情が、わずかに強張る。
「あと二柱いるらしいけど——」
フェルトは首を傾げた。
「正直、私は名前も知らないわ」
あっさりと言い切る。
「でもカグヤ様は別。
名前くらいなら、普通に生きてても耳に入るレベル」
少しだけ、真面目な顔になる。
「それくらい“有名な神様”ってこと」
そこで一拍置いて——
ちらりとエルを見る。
「……で、エルさんは」
少しだけ含みのある声。
「その“有名な神様”のこと、ずいぶん詳しそうね」




