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~シルフ舞う滑走路~12

     【シルフ舞う滑走路】


 真っ赤な救急車のライトが、ゆっくりと点滅をしながら『一刻台女学院』の側道を照らし、ストロボのような発光が、その後の喧噪の(またた)きを切り取るようにシンクロさせる。


 そして、白蓮会の少女達の手際のよい働きが、あらかたの混沌を静寂で包ませた頃、空は薄明かりを取り戻していた。


 会長と呼ばれていた少女が、仲間たち、そして第百二十代白蓮会を継ぐ少女たちを前にして、東雲(しののめ)(そら)全体に通るような大きな声でこういった。


「みなみなさま! これにて、追儺(ついな)()、終了いたしましたーー! 」

 

 それを合図にして、白蓮会の面々が声をそろえて叫ぶ!


『そぉれっ!!! 鬼はソトぉー ! 』 『福はーウチーーーー!!! 』

『わぁーーーーーーーーーいっ!!! 』 


 

 そして、満面の笑顔を浮かべた少女たちは、思い切り飛び上がった。



「それじゃあね。 これからは、アンタたちの時代だよ」

そう言って、元会長となった少女は、白拍子姿の少女の烏帽子(えぼし)をはずして、優しく頭をポンッとたたくと、残りの上級生たちは、思い思いの涙を流しはじめていた。



 空がだんだんと明るくなってくる。



 深月と倫子は、今日あったこの出来事を振り返りながら、『風月庵』の数寄屋門を後にすると、並びながら石段を降りていった。 脇を見ると、やぶ椿(つばき)のつぼみたちが一斉にふくらみはじめ、たくさんの真っ赤な花が開きはじめているのが見えている。 そして、そよ風に揺れる椿の(あつ)()の上を、朝露(あさつゆ)の宝石たちがひとつふたつとすべり降りていくと、キラキラと楽しそうに弾けあって、春の訪れを予感させるようであった。


「わたし、鬱蒼(うっそう)とした(やぶ)の中に、こんなきれいな花が咲いているなんて、気づきもしなかったよ」 倫子が、いつになくしおらしい声で言う。


「うん」 深月は、長い睫毛(まつげ)をふせるようにして、ひとことだけ返事をした。


「いつもなにかにビクついてて、近くのものも見えなくなっていたのかなぁ。 だけど、今日のコトでなにかがふっきれた気がするよ」

そういいながら倫子は、大きなストライドを使って、少しずつ歩くスピードをあげていく。


「ごめん、倫子。 わたしアンタみたいなコが親友になって、進むべき道を導いてくれるんじゃないかって勝手に思い描いてた。 そして、それが叶わないからって、むしゃくしゃして  キツクあたってた。 違うよね。 導いてもらうんじゃない。 未来へ向かう《風の滑走路》は一緒に飛び立つんだ。 競争だからね!! やっぱアンタには負けらんないから! 」

深月は、瞳は前をまっすぐに、口元には満面の笑みを浮かべて、倫子の歩幅につられるように走り出す!


「はぁ? 体力でワタクシに勝てるとでも思ってんの? 」 

倫子がいつものように軽口をたたいた。


「あははははは」

深月は駆け足になると、朝風を顔いっぱいにうけながら、普段の姿からは似合わないほどの大きな口を開けて笑っていた。 そして、不意に真面目な顔に戻すとこう叫ぶ。

「わたしさ、『白蓮』をめざす! 」

 

 倫子が答える。 

「うん。 わたしもおんなじことを考えてた。 よぉし、ワタシについてきなさい! 」

 

 あきれたような顔をして、深月が返す。

「ハァ? アンタこそ、私がいなくちゃ真っ直ぐに進めないでしょ? 」

 

 そのとき、倫子も、まんざらでもないという表情で笑いながら、深月の前髪をたくしあげると、オデコのあたりをぐんっと押した。


「この~  大仏オンナ! ムカツク!! 」 

深月はそういいながら、倫子の(しな)やかなふくらはぎをコツンと軽く蹴りあげた。

 

 


 二人が立ち止まり、お腹を抱えて笑っていると、目の前をタンポポの綿毛のような妖精が、ふうわりと通り過ぎていく。 背筋を伸ばして遠くを見ると、その先には、どこまでも真っ直に続く風の誘導線が見えていた。


 二人の前には『シルフたちが舞い踊る、風が描いた滑走路』。 妖精たちが飛び交いながら、少女たちの未来を照らす。



 

 行先なんてどこだっていい。 二人ならどこへだって飛べそうだ。 




まだまだ続くよっ!

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