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星月夜/あるいてかえろう。

あなたと「かのんちゃん」との“if story”。 

秋の夜長をイメージして読んでくださーい

<登場人物>    

×× / きみ= あなた

かのん = 前作『黄昏どき~』のヒロイン。


                   

  【星月夜/歩いて帰ろう】

 

 秋の夕暮れの帰り道、今日は独り。

なぜだか遠回りをしたい気持ちになって、河川敷の土手の小道を歩いていた。


暮れる陽も早くなり、空はいつしか竜胆(りんどう)草のように薄紫の色に染まりかけている。 気づくとグラウンドの野球少年たちの弾む声も消えて、すれ違う市民ランナーも誰ひとりといなくなり、孤独な空間に佇みながら川向うを眺めていた。


 遠くに(かす)みながら叢生(そうせい)する、クリムゾンパープルに浮かぶ建造物たちの陰影が、心の奥底のセンチメンタルな部分を刺激する。 目の前に広がる、開け放たれた空虚な()()悲しさに、体の中にためていた感情を動かすための養分が、浸潤(しんじゅん)して流れ去っていくのを感じていた。



 そうして時間を忘れて惚けていると、いつものように柔らかい物体が背中から抱きついてくる。



「もう!! 勝手に帰るなんて非道いじゃない!? 全速力で追いかけたのよ! 独りで帰らないで‥‥‥ こんな淋し気な日は、一緒に帰るって決まっているの」



 そういって、怒ったような、照れているような複雑な表情をした()()()は、地平線へと消え去る寸前となっていた太陽の欠片を体いっぱいで掴まえながら、全身をピンク色に染め上げていた。



 「なにしていたの? 」


 「ひとりでいたの? 」


 「元気だったの? 」


 

 「もう、大丈夫。 」


 


 「仕事大変だったね」


 「勉強がんばろうね」


 「おつかれさま」



だから‥‥‥


 「いつだって‥‥ 一緒だよ」



 並びながら歩いていると、愛しむような優しい声で()()()は語りかけてくる。 いつものようにポニーの尻尾をゆらしながら上目づかいで君の顔を覗き込んでくると、桜貝のような唇が思わず君の頬に近づいてきた。


その時、北の空から吹いてきた“色なき風”が巻きながら、二人の間を通り過ぎる。


 「少し寒くなってきたね」


 かのんはそうつぶやくと、柔らかい小さな手で君の左手をやさしく握り、自らの手とあわせたままで、深緑のブレザーのポケットの中にそっと詰め込んだ。 かのんの手のひらから伝わる温かさが、体全体に行き渡るように“ポゥッ”とした伏流となって駆け巡る。


 一瞬細めた瞳を開け放すと、空全体を覆うような暗がりがどんどんと広がり、月の光と秋の星々たちが一斉に輝き始めた。


 二人はぎゅっと手を繋いだまま。

足元も見えなくなった小高い土手の小道を、虫たちの多重奏だけを頼りに歩いていくと、満天の星々たちを背景にして銀河の中を浮遊しているような感覚にのまれていった。


 このままずっと二人だけで、月へと続いていく星彩の回廊を進んでいきたいと君は頭によぎらせる。


 その瞬間、かのんは不意に振りほどいた手を胸の前へと広げながら、ふんわりとした時間を使って前へと一歩跳ねだした。


 そのまま()()()が満月の中へと吸い込まれてしまうような錯覚に驚いて、君は幾度かの瞬きをする。 すると彼女は弱重力の中で、ゆっくりと着地したつま先を君のほうへと向けると、優しくそっとささやいた。



 「いこう‥‥××。 なんだかドキドキするね」



 振り向いた()()()の頭上には、夜空に広がるアンドロメダ座を囲んだネビュラスの王冠が、白銀の渦を巻きこんで輝いている。


そして瞬く星々を瞳の中に湛えて、まるで幼い女神のように無垢な微笑みを君になげかけていた。



 二人は、ことばなど交わさずに星空の中を歩いていった。




挿絵(By みてみん)


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