~シルフ舞う滑走路~ 7
【交差点】
「ファイトーッ!! いっぱーーっつ! 」 朝、家をでるときは、ついこう叫んでしまう。 右足。 左足。 元気?? さぁ、今日も学校まで走っていくよ! なんたって近いからね。
小さな神社の脇を通ると、ちょっと寄り道。 願掛け、願掛け。 なにを願うかって? いやいやそれはヒミツでしょう。 お稲荷さんにも「おはよー!」 となりの塀の上の猫にも「おはよー!」 それから、まだ人通りも少ない古い街道を抜けて、水路の横の大きなしだれ柳の下をくぐると、しゅんっとした冷たい空気の中にも、春のにおいがだんだんと入り混じってくる。 やっぱ朝は、なんだかんだいっても気持ちがいいよね!!
ほっほっほっ だんだんと体もあったまってきたよ! ほらもう学校の黒門が近づいてくる。
「もいちど、ファイトー!! いっぱ‥‥‥ 」 あーーっ あれは! あの長い黒髪は!!
うわー。 朝からちょっと緊張するヤツと会っちゃったよ。
無視するのもなんだしなぁ。 そんなわけで、でてきた言葉が‥‥‥。
『最近は、よく学校にきてるね』
「ふぁぁぁぁ ねむっ!! 」 アイツにひとこと言ってやりたくって、似合いもしないのに今日は朝イチバンで学校にやってきた。 暦の上では、もうすぐ春! なんてテレビでは言ってたけれど思いっきり寒いじゃない! 手袋を被せた指にさえ、息をふきかけたくなるくらいだわ。 そういえば、この手袋の刺繍ってなんの花なんだろう? そう思って、上を見あげたら、黒門にしだれかかる白梅の花。 あっこれだ! なんて気づいたところにアイツが走ってやってきた。
遅刻するような時間じゃあるまいし、なんであんなに全力疾走なの??
それにしても、なんだってコイツは、こうも能天気なのよ。 なんだか上級生のゴタゴタに巻きこまれて面倒なことになっているのに。 だいたいなんで、まだ2月だっていうのに、うっすらと汗をかいてるの? だいたい、なんだっけ? あの『鬼ナントカ』っていう古くさい曲。ちゃんと練習できてるのかなぁ? いくら頼まれごとだって、いいかげんなのは、私のポリシーに反するんだけど!! あー。 このコ見てると、ほんとイライラする!
でもま、風月庵の大騒ぎには、わたしにも責任の一旦があるかもだしね。 そんなこんなででてきた言葉が‥‥‥。
『まぁね。 やんなきゃいけないこともできたから』
「そういえば、連絡きたね。 今夜決行だって。 ちゃんと練習できてる? 」
「あたりまえじゃん。 どんなことでもひと弾き入魂! 上級生のみなさま方に恥はかけさせられないからねっ 毎日、毎日、血の滲むような猛特訓をしましたからっ」
「でも、真夜中の演奏会なんだよね? 親にはなんていって誤魔化すの? 」
「そうだよねー。 先輩たちが徹夜で勉強会を開いてくれるとか、なんとか言って納得してもらうしかないよね‥‥‥ 」
「だいたいさぁ 夜中に『風月庵』で筝を弾いたって、いったい誰が聞いてくっていうのよ」
「へぇ、そんなのやるんだぁ」
「いやぁ それは、先輩方のそれぞれの事情があるんだから、察しないと」
「察しと思いやりは、日本人の美徳ってやつ?? ぜんぜん意味わかんない! 」
「まぁ ワタシたちごときが考えても、ぜんぜんわかるわけはないかな。 あはははは」
「ホント、あきれる! 」
「うふふふふ。」
なんだかいいこときいちゃった。 こんや、わたしも行ってもいいよね。
それでね‥‥‥ そこにいったら、こういうの。
『わたしがほんものなんだから、ここにいるのは、あたりまえでしょ? 』って。




