↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣使いの忍  作者: 月崎海舟
第三章 甲冑の王女の欲求
16/17

第十六話 血を流し、涙を流し


 星空の中を落ちていくゲルグの横に、真希奈が瞬間移動で現れる。

 すぐさまゲルグが真希奈の手を取り、地上へと瞬間移動した。


 瞬間移動した先では、クリストフが他の『神聖騎士軍(クルセイダーズ)』のクルセイダー達と、ティアナの『堕ちた迷い星(メテオ・ラビリンス)』の対処を行っているところだった。

 ゲルグ達がその横を見れば、『堕ちた迷い星(メテオ・ラビリンス)』の周りを、次元の壁で覆われていた。処法として、侵蝕する先に何も無い空間へを用意する、という手法を取ったのだ。

 これほどの大きさの次元の壁を作るのは、大量の人数を以てしても大変な作業であり、クリストフ達が披露しているのが見てうかがえる。

 そんなクリストフが、ゲルグと真希奈に気がついた。


「どうした! 何かあったのか!?」


 疲れた体に鞭を打って二人に歩み寄るクリストフに、ゲルグは肩を揺さぶるように掴む。


「なあ! アイツ、今ティアナの『堕ちた迷い星(メテオ・ラビリンス)』にしか行けないんだよな!?」

「それがどうした? 本題を言え!」

「主人格の人間が、肉体のまま『堕ちた迷い星(メテオ・ラビリンス)』に入ったらどうなる!?」


 そのゲルグの言葉に、クリストフは顔を青くさせる。


「……前例は少ないが、主人格が俺達の原理で、肉体を持って活動すると思う。が、まさか、お前……」

「ああ、そのまさかだよ! アイツ、対象を連れて飛び込みやがった!」

「なんでそんな事を!? なぜ止めなかった!?」

「急にそんなことしたんだよ! 気がついたときには、もう遅かった!」


 二人が声を荒げヒートアップしている様を見て、真希奈が自分の手を叩く。


「はい! 報告はそこまで! とにかく、迎えるメンツ揃えて! 私が瞬間移動で送るから!」

「……ああ、そうだな」

「……わりい。変に熱くなり過ぎた」


 二人が冷静になろうとした時、オッドアイの顔のいい、ホステスのような服装の男が現れる。


「おいおい、後ちょっとなんだ。こんなの作ってくれるな」

「……誰だお前?」


 ゲルグやクリストフは、見覚えのない顔に首を傾げる。

 だが、真希奈は顔を青くさせて叫ぶ。


「……エクス、何をしに来たの!」


 その言葉を聞いた誰もが『魂の写し鑑(オーブ)』を装飾品に嵌め込み戦闘形態に移る。


「無論、邪魔をしに、な」


 エクスが壁に手を掲げると、次元の壁があっけなく瓦解していく。


「次元の壁とは、よく実行できた。これならどれだけ侵蝕しようとも、サガニウムの摂取は不可能だ。……だが、俺がこの世にいる限り、この作戦は失敗だ」


 エクスが『堕ちた迷い星(メテオ・ラビリンス)』に入ろうと足を向ける。

 だがその瞬間、凄まじい勢いで景久が斬りにかかった。


「おっと」


 エクスは何もせず変身形態に移り、景久の顔を蹴り飛ばす。

 景久の口から吹き出したのは、赤く光る粒子ではなく、赤く滴る血液だった。

 だがそれでも、エクスの前を阻む様に立ち構える。


「……友が命を賭けている。ここから先は通さん」

「お前の事情なんぞ、俺が知るか」


 だが、次々と周りにいるクルセイダー達が次々に襲い掛かってくると、エクスは愉快そうに笑った。


「――――いいだろう。お前らに全員、終焉を見せやる!」


 総勢一万人を超える軍勢と、終焉のカリスマの戦いが幕を切った。

 もっとも、蹂躙と呼んだ方が正しいのかもしれない。


     ◇


 光一は、ティアナと一緒に、見慣れた町の中にいた。

 町を歩く人々の姿は無く、青い空の下、光一がティアナの手を握っていた。


「ティアナ、俺は昨日頼んだはずだ。二つ目に、隠し事はせず話して欲しいと。三つ目に、逃げないでほしいとな」

「……それは、甲冑の王女にでしょう?」

「君なんだろう。甲冑の王女は」


 ティアナは驚愕し、大きく紫色の目を見開く。

 だが、すぐに憎たらしい笑みを浮かべて目を閉じ、大袈裟な素振りで手を払いのける。

 その瞳の色は、燃えるような赤色だった。


「……よくぞ余の正体を見破った。が、それがどうした? 貴殿はそんな言葉を突きつけた所で、余をどうこうできると思っていたのか? 笑止千万。愚行であるよ」


 ティアナは黒い『魂の写し鑑(オーブ)』を取り出し、いつの間にか付けていた腕輪に嵌めこむ。


 そこに顕現したのは、光一がよく知る甲冑の王女だった。

 特に驚いた様子も無く、光一はアクシスカリバーと白い『魂の写し鑑(オーブ)』を取り出す。


「……正直騙されかけた。俺達を混乱させるために、色々とよく手を尽くすと感心する。混乱させるために逢引を強要するとは、俺にはできなかったと思うよ。……だが、その努力もここまでだ」


 聖剣に『魂の写し鑑(オーブ)』を嵌め込み、アクシスカリバーを天に掲げる。

 そこに顕現したのは、仮面で顔を覆い隠し、聖剣を携えた忍の姿があった。


「もう死は目の前なんだろう。だが、俺が必ず君の邪魔をする。さあ、武器を取れ」

「……言われるまでもない」


 そう言いながら、ティアナは、身の丈を超えるガジェッドの様な剣を、虚空から取り出す。


「君が隠し事をし続けるというのであれば、仕方がない。全霊を持って、俺に挑め。さもなくば、君を生かす」

「――――ッ!」


 その言葉に、怯えたように剣を振うティアナ。

 だが、その一撃を、光一は手で簡単に払いのけた。


「悪魔の様な仮面を付けた男に、会ったことは無いか? その『魂の写し鑑(オーブ)』や、この『堕ちた迷い星(メテオ・ラビリンス)』については、その男が関わっているんじゃないのか?」

「……余の知るところではない!」


 先程とは比べ物にならない程の速度で、光一に襲い掛かるティアナ。

 だが光一は、最低限の動きでその攻撃をいなし、すかさず大きな一撃を叩きこむ。

 それができる程に、光一は落ち着いていた。彼自身、不思議なほどだった。


「……もう楽になりたくて、そんな男の言葉に惑わされたんだろう?」


 仮面を被ってても分かる様な、悲しそうな声で光一は問いかける。


「ォ、オォ、ァガ……ァアァァァアア――――ッ!」


 血反吐を吐き出し、獣の様な咆哮をあげ、震える足で立ち上がるティアナ。


「……私を、死なせろ。死なせろ! 死なせろッ!!」


 震えるような声から、段々と殺意が染みついているような声で叫ぶ。

 実際、ティアナは自分を憎んでいるのだろうと、光一は思っていた。

 それでも尚、彼女が嫌う言葉を紡ぐ。


「絶対にダメだ」

「……ふざけるなッ!」


 目に涙を浮かべ、がむしゃらに手を振う。

 光線が光一を襲うが、彼は聖剣でそれら全てを切り落とす。


「皆より身長が高くて、皆より胸が大きい! それだけで、息苦しくてしょうがなかった! 男からはいやらしい目で見れたりするし、女からは嫉妬や侮蔑の言葉しか送られなかった! 大好きなスケートまでできなくなった! 父の身長を超えた日には、もう腫物扱いだ! ただ、ただ皆より! 少し違うだけなのに!」


 追い詰められた彼女は、嘆きながら殺意に満ちた一撃一撃を放つ。

 時には剣戟で、時には物量の武器の雨で、時には念力で。

 だが、それら全ては光一が的確に判断し、聖剣アクシスカリバーで薙ぎ払う。

 そして最後には、心まで痛む様な一撃をティアナに叩きこむのだ。


「……だから、一生懸命がんばった! これ以上ないってくらい、私はがんばった!」


 どうやって殺すか考えを張り巡らせながら、地に突っ伏すティアナ。


「それでも! 何一つ、報われることなんてなかった! 誰も、誰も私を見てくれない!」


 立ち上がり、光線を光一に放つ。何度も、何度も何度も、自分のやるせない思いをぶつけるように放つ。

 避けても薙ぎ払っても、一撃一撃の火力が大きく、全てを対処しきれずまともに攻撃を喰らってしまう光一。

 それをティアナは見逃さず、瞬間移動で光一の後ろに立ち、背中から剣を突き刺す。


 そこで、ティアナは初めて流れる血を見た。


「な、なんで、血が……!?」

 目に見えて分かる程、狼狽えるティアナ。

 大方、誰かに殺すことは無い。赤い粒子が出るだけ。ゲームのような物だと教えられ、自分も血を流していることは、そこまで気にすることがなかったのだろうと光一は考える。

 そんな性格の悪い男が、彼には目に見えるようだった。

 だが、そんな事よりも、彼女の言葉に応えなければいけないと、意識が遠のく中考える。


「……好きだったんだろう? ご両親が」


 息を荒々しくしながら、剣を引き抜き、また突き刺す。

 地面に倒し、俯かせたまま、何度も、何度も突き刺す。


「大好きだった。お父様も、お母様も、大好きだったのに……! 自分の要望を押し付けるだけで、私の事なんて見てくれない! 何をすれば、皆私で満足するの!? 背を縮めて、もう一度フィギアスケートをやれって!? できるか!! 私はいつになったら私になれるの! 私にさせて! 私ってなんだよ!!」


 もう、彼女自身、何も分からないのだろう。何も考えたくないのだろう。

 どれだけ頭を巡らせようとしても、答えなどでない。それを出してくれる人もいない。

 頭の中はもう、自分の事でいっぱいで、誰かを気遣う容量など無くなってしまっている。


「……だから私は、完璧な後釜を作って消える。それで、誰にも迷惑はかからない。お父様も、死んだお母様も、きっと喜んでくれる」


 それは、苦労がやっと報われるような、そんな人間を想起させる感情が込められていた。


 彼女の言葉に、光一は仮面の下で涙を流す。彼にはティアナの気持ちが、痛い程に理解できるからだ。

 彼がもし、本当に完璧な息子であれば、母親が死ぬことは無かっただろう。父親を悲しませ、世間に弾圧させることもなかったはずだ。


 だが、それでも、彼女の気持ちを、光一は否定しなければいけなかった。


「……俺は、君に生きて欲しい」


 それは、彼の正直な気持ちだった。


「……私は死にたい。これが最適な自殺だ」


 死人の様な、機械の様な言葉で返す。


「……そんな事はさせたくない」


 ティアナは光一をひっくり返し、その胸倉を掴む。


「お前に、何がわかる。 私の気持ちの、何が」


 泥を吐き出すような顔で、ティアナは問いかける。


「……誰かの期待に応えられないのは、辛い。俺も期待に応えたかった……」


 母が死んだあの日、皆の期待に応えられる自分なら、きっとそれができていた。

 でも結局、それはできなかったと、光一は嘆く。


「――――生きてくれ。俺は、また君と歩きたい」

「――――――――ッ」


 ティアナの手の力が緩み、光一が地面に崩れ落ちる。

 その手は自分の髪の毛を掻き毟り、その顔は何もかもにおびえていた。


「……もう嫌だ。嫌だ。いやだいやだ! 誰の期待にも、私は応えられない!! また、きっとまた応えられないんだ!! そんな私は、もう嫌だ!!」


 彼女は疲れていた。死んでしまいたい程に。もう、ずっと昔から疲れていた。

 手を抜き始めた頃から、もう彼女は先に歩けなくなったのだろう。

 だから彼女は、エクスの魔の手にかかってしまったのだと光一は考えた。


 それなら、自分が代りの手を差し伸べなければならない。

 故に、光一は立ち上がり、手を差し出す。


「……無理して応えなくていい。人間、誰だって失敗する」


 つい最近、誰かに言われた言葉だった気がしたが、血が足りない光一にはそれが誰かは思い出せなかった。

 ただその言葉は、自分を完璧の重みから救ってくれた言葉だったことだけは、しっかりと覚えていた。

 彼女にとっても、そうであってほしいと、光一は願った。


「……でも、失望する」


 光一の手を見つめながら、怯えたような声を絞り出すティアナ。


「俺はしない。がんばっている君を、失望なんてしない。絶対に」

「嘘だ!! 誰が、誰がそんな言葉を、信じられる!!」


 拒絶の方向を上げるティアナの手に、光が収束する。

 そんな自分の都合に言い言葉を、彼女は信じられなかった。


「……それを受ければ、信じてもらえるだろうか?」

「黙れぇぇえええええ――――ッ!!!!」


 その光の一撃は、ありとあらゆるものを破壊した。

 建物は愚か、『堕ちた迷い星(メテオ・ラビリンス)』の境まで破壊し、青空が歪むほどに。

 その攻撃を、光一は正面から直撃した。


「は、ははは、アッハッハッハッハッハァ――――!」


 土煙舞う町に、彼女 狂った人形のように笑いだす。

 ティアナは涙を流しながら、高笑いを一人響かせる。

 涙が枯れ果てれば、どれだけいいだろうと思いながら。

 それは、光一を消したのを後悔しているかのようにも見えた。


 だが、それが唐突に止む。

 土煙の中で、何かが動いているのを感じ取ったからだ。


「……生きていたか」


 その言葉が聞こえたのか、光一が土煙の中から現れる。

 顔を覆い隠していた仮面は砕け散り、自慢の忍び装束もボロボロだった。

 傷はあちこちあり、蛇口から水が出るように血液が溢れだしていた。

 それでも光一は、聖剣を握り、ティアナに歩み寄る。


「さあ、来い光一殿! 決着を着けよう! 余は、貴殿を、殺す!」


 いつの間にか地面に落ちていた剣を拾い、刃先を光一に向ける。

 彼女自身、もう自分がどうしたいか分からないのだろう。

 だから甲冑の王女を演じる。それだけを考えるのは、とても楽だから。


 だが、光一は攻撃の挙動に移る様子はなく、ただティアナへ歩み寄る。


「剣を抜け! 抜け! 失礼だろう! なんだ、どうした!」


 光一のふざけた態度に、ティアナ怒鳴り散らすが、光一は歩み寄ることを辞めなかった。

 ティアナも死にかけている光一に、刃先を向けることしかできず、目と鼻の先までの接近を許してしまう。

 そこまで光一は近づいたかと思うと、倒れ込むようにティアナを抱きしめた。


「おい」


 ティアナは思わず剣を手放し、倒れ込む光一の身体を支える。


「……少し休もう。君は、疲れてるんだ」


 光一の口からあふれ出る言葉に、彼女は困惑した。


「……なんで」

「君が、がんばったから」

「違う! ……なんで、なんでそこまでするの……?」


 なんでだろう? と光一は動かし難くなった頭で考える。

 そんな頭で答えを出すのは大変だったが、難しくても彼女の言葉に応えたくて必死に動かす。

 そして、彼女が水族館で見せた顔を思い出した。


「……もう、大切なモノを失いたくないんだ」


 あの時の顔は、彼が大切にしたいものだった。

 あまりに綺麗なティアナ横顔に、光一は突き動かされていたのだと、ようやく思い出した。


「……お願いだ。死なないで欲しい。どうか、どうか生きて欲しい……」


 光一は、泣きながら懇願した。

 あの光景が、思い出だけのものになるのは嫌だった。


「なんで、泣くの。そんな価値、私には無いのに……」


 震えた声で問いかけるティアナに、優しい笑みで答えを告げる。


「……あるよ。たくさんある。君と話してて、楽しかった。君との時間は楽しくて、もっと一緒に居たいと思えた。そんな君が消えてしまうなんて、俺は嫌なんだ……!」


 誰かに仕組まれたような一日の中で、光一はそれを見つけていた。

 誰が何と言おうと、それは彼にとってかけがえのない物だ。


「――――お願いだ。死なないでほしい」


 強く、強く抱きしめた。この腕から命が零れ落ちないように。


「……わかった。わかったから、泣き止んでよ……」


 ティアナも泣きじゃくりながら、強く光一を抱きしめ返した。

 その顔は、困っていたようにも見えたが、喜んでいるようにも見えた。


 空は彼女の心を映すかのように、傷一つない、美しい青空だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。