最終話 無限の明日
光一は、その後すぐに発見された。
「俺言ったよ? 確かに後輩の責任ぐらいは取るって、俺言いました。え? 景久も言ってた? 知らねー! でもな? 何の相談も無く、そんな強硬策取ろうとか、何考えてるのお前? 我らが主にしっかり怒られて来ーい!」
とゲルグに言われた光一は、『沈まぬ太陽』にある『ギルディオン神殿』まで来ていた。
それはもう惨憺たる結果であった。
ギルディオンに直接試合をしようと言われ、誰もいないコロシアムで一方的に痛めつけられた。
無論、試合なので光一も反撃してもいい。
だが、そんな事はできない程に、ギルディオンは強かった。魂技は愚か、『魂の写し鑑』も使われていないというのに、『魂の写し鑑』を使っていた光一は、完膚なきまでにぼろ負けした。
試合が終わった後、ベンチで二人水を飲む。
「そうそう、今回相談しなかった件については、今月は最低賃金だけを支払う事にするのと、ボーナスは無し、有給無し、一週間の謹慎という話にまとまった。人命に関わる仕事で、ホウレンソウを怠り、独断行動を取るのは歴とした悪である。猛省するように」
「……はい」
甲冑の王女が主人格であることに直前まで確信が持てず、その場の勢いだったとはいえ彼女ごと『堕ちた迷い星』向かうというのは、光一も言い訳の使用が無い程自分に非ががあると重々承知していた。
この世界の刑罰に触れないだけ、まだありがたい処遇である。
「それと、判断が遅いな。緊張や想定外に弱いように思える。それを補えるよう、ゲルグやクリストフに進言するといい」
「本当にありがとうございます」
「気にするな。こうでもしないと、体罰だと思う者が出る」
違ったのか、と心の中で驚愕する光一だったが、それを口には出さなかった。
「ああ、そういえば、ティアナ・ヴァイス・ロックハートだが、クルセイダーになりたいと進言してきている」
「……なん、ですと……!?」
何気ない話をするノリで、とんでも無い事を言いだすギルディオンに、驚愕を隠せない光一。
「そのまま君のいるチームにを配属しようと私は思っている。正式に決まるのは一周間はかかるが、まあまず間違いあるまい。……フフフフ、ちゃんと仕事内容を覚えていないと、後輩に恥を掻くぞ。先輩」
ギルディオンは意地悪っぽくそういうと、懐から封筒を取り出す。
「それと、今月分の給与明細だ。今すぐ確認しておけ」
光一に封筒を渡すと、ギルディオンは瞬間移動をしてその場から消え去った。
「…………」
最低賃金とはいえ、自分の初めての給料の額が気になった光一は、辺りに誰もいないことを再確認し、給与明細を読んでいく。
「……日本円で、手取り百万、だと……!?」
最低賃金とは、一体何なのか。光一は不思議に思わざるを得なかった。
◇
太田家所有するいつもの武家屋敷の庭園にて、四人は集まっていた。
景久はゲルグと研鑽を重ねるために、クリストフは真希奈と情報をまとめるためにここにいる。
クリストフと真希奈は武家屋敷に来る必要も無かったのだが、ゲルグなら茶菓子を無料で出してくれるだろうと言う事で、四人が集結する形となった。
「ゲルグさぁ、言い過ぎだったんじゃない? まだ新人だよ、あの子」
侍女の出した茶菓子を頬張りながら、真希奈はゲルグに問いかける。
「予想した上で、あの行動をしたなら擁護不可能だ。あそこで怒らなきゃ、いつ怒ればいいんだよ。こういうのって、優しいだけじゃダメだろ」
「そりゃ確かにそうだけどさあ。……あー、そもそも光一君は、なんで誰にも相談しなかったんだろ?」
その言葉に、目を合わせる景久とゲルグ。
「そりゃ、言うのが無粋ってもんだろ。なあ?」
「……で、ござるな」
どこか納得してる様子の二人に、懐疑的な目で見る真希奈。
「あーあ、男の子って、よくわからないなー」
「安心しろ。私もよくわかっていない」
ノートパソコンで作業をしながら、真希奈の言葉に同意するクリストフ。
「……ただまあ、人一人を理解するのにも、多大な苦労が必要なのは、誰だって同じだろう?」
そのクリストフの言葉に、真希奈は青い空を見上げる。
「……んー、煩わしー!」
腕を頭上に体を伸ばしながら、人間関係を嘆く真希奈であった。
◇
学校から帰る道を外れ、光一は母が殺されたデパートに来ていた。
事件以来、赴くことは無かったが、何となく寄ってみたくなったのだ。
花や供え物が光一の見聞きするニュースで流れていたが、あれから一か月以上にもなると、デパート側も撤去していた。
デパートの窓から、夕陽の光が彼の頬に注がれる。
「…………」
光一はカバンから数珠を取り出すと、母が倒れていた場所に向かい、瞼を閉じて拝みだす。
その最中、笑みを浮かべることは無かったが、悲痛な顔をしているわけでも無かった。
彼が何を想っているかは、時折現れる通行人には分かる術もない。けれども、その場に似つかわしくない真摯さを持っているのは察せた。
◇
――――お久しぶりです。
昨日、仕事で何とか人を一人助けることができました。
実は、神様を名乗る者に出会い、心身を鍛えるために人を助ける仕事を始めたんです。
危険な仕事ですが、人を一人でも救えるのなら、がんばっていくつもりです。
……これが、母さんを救えなかった贖罪になるとは、毛ほども思っていません。
それでも、こういったことを繰り返さない一歩になるのであれば、俺はそれをやっていこうと思います。
これからの先行きは、不安なことだらけですが、俺なりに一生懸命やってみようと思います。
母親一人救えなかった、親不孝な息子ですが、何卒見守っていてください。
◇
すっかり日が落ちて、光一がその場から去ろうとすると、夜風が光一の頬を撫でる。
その冷たさで、母が何と言ったかを思い出した気がした。
それは彼にとって、とても都合のいい言葉だった。
世間に公表すれば、現実逃避だ、都合が良すぎるだの言われるだろう。
彼自身、自分が記憶を捏造したんじゃないかと思う言葉だったが、ほんの少しだけ、胸のつかえがとれた気がした。
帰り道、彼はティアナに電話をかけた。
「今度の休み、また一緒に出掛けませんか?」
◇
木漏れ日が注がれる緑あふれる公園、そのベンチに光一とティアナは座っていた。
二人は何も話さず、ただ公園で遊ぶ子供達の、はしゃぐ声が響いていた。
光一はその光景を見て優しい笑みを浮かべ、ティアナはそんな光一の横顔を見ていた。
だが、そんな時間は無限に続くわけでもなく、言わなければいけないことを彼女は話し始めた。
「……この度は、本当にありがとうございました。私は、貴方を騙していたのに……」
「気にしないでください。俺がやれることをやっただけですから」
ティアナは膝の上で拳を強く握ると、意を決したように口を開く。
「……それで、その、まだ、父とは、何も話していないんですが、独り暮らしをしてみようと思うんです」
その言葉に、光一は目を丸くして驚愕した。
「……このご時世の、東京で? 家賃や学費を、一人で?」
「ええ。そのつもりです」
この時代、大学生が一人で暮らすというのは無謀と言えた。ましてや傷心中のティアナが、アルバイトをしながら大学生活をするとなると、その負担は光一には計り知れない。
「……ティアナさんが、よく考えた結果であれば、俺は止めはしません。でも、どうして? あなたは休むべきだ。家でゆっくりした方がいいんじゃ……」
光一の言葉に、ティアナは俯きながら答える。
「家では、休めませんから……」
「……ああ、すいません。考えが及びませんでした」
「いえ、父は厳格な人な上、なんでも根性で解決するような人ですから、期待するだけ無駄なんです」
ティアナは生きる為に立ちあがったが、現実での問題は山積みだった。
できる限り光一も解決する手伝いをしたいと思っているが、年下で高校生の彼ができることは、社会的に考えれば少なかった。
彼女の負担を減らすために、自分ができることは無いか。
そう考えていると、光一の口から、するりと言葉が漏れた。
「それじゃあ、うちに泊まりますか?」
「え?」
――――人生は死ぬまで続く。
不安や苦痛、恐怖などは、誰にだって付きまとう。
けれども、悪い話ばかりが転がっているわけでも無い。
この二人の話がどう転がるかは、誰にもわからない。
わかっているのは、無限の明日が待っていることだけだ。
これにて、この物語は終わりです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今作はGA大賞の一次審査に落ちた物を、ほぼそのまま投稿したものとなっております。つまり、ライトノベルの一巻を想定して書かれています。
それだから、回収できていない伏線も多く、本当に申し訳ないと思っています。
ですが、光一という少年が、護る為に戦う成長物語としてはいい出来だったと思い、投稿させていただきました。
形のないモノを読者の方に送れたのであれば幸いです。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
月崎海舟より
P.S.
好評であれば、続きを書くかもしれない……。




