幕間[霜触 悠の悔恨①]
【悔恨】
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過ぎた出来事に対して深く悲しむこと。
心が痛むほど昔の選択を悔しく思う感情。
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2020年 夏-。
レベルの高い夏期講習と聴いて参加してから2日目。
数年前に既に通り過ぎた当たり前の内容に早々と彼は飽きはじめていた。
昼食をとる他校の生徒達を横目にカバンを持ち部屋から出ていく。
「あれ、荷物持ってどこいくの?終わるまでは外出禁止だよ?」
声をかけてきたのは白のブラウスに黒いジーンズを合わせた女性。
「…いえ少し頭がクラクラして…熱中症かも知れないので」
「えっ、それなら医務室行かないと」
「いえこのまま帰宅して…」
「いやいやこのまま帰すの無理だってば。今外スゴい暑いし、余計具合悪くなっちゃうでしょ!」
「…わかりました、じゃあ医務室教えてください」
「だーめ、一緒に行くからちょっとだけ待てる?」
「はぁ…わかりました…」
「それじゃあ名前教えてもらえる?一応報告しておかないといけないし」
タブレットに電源を入れススッと操作する女性に名前を告げる。
「霜触君ね…ちょっと待ってね」
「あったあった、えーっと霜触 悠君で合って……ん?んん!?」
素早く瞬きを数回しながら画面を見ている。
「2回連続で全ての模試トップとか有り得るの!?いやてか、1回でもヤバいんだけどさ・・・はえぇ~いるもんなんだねぇ天才って」言い終わると画面を見ながら何かを考えてから言う。
「ははぁ~ん、そうゆうことかぁ…」
一人で納得したように言いながらこちらを見てくる。
「そろそろ治ったんじゃない?《《熱中症》》」
クスクス笑いながら女性は続ける。
「まぁ君からしたら低レベルすぎて楽しくないもんねぇ」
「いえ別に…そんなことは…」
「いーや!私が君くらい頭良かったら、ぜーったい来てないよ。で、君は何で来る意味ないのに来たのかな?」
「…みんなが行くって話してたから」
「みんな?あ、友達?」
「いえ…友達はいなくて。ただクラスメートが…」
「そっかそっかー。でもどこの学生さんも大変だぁ……夏休みくらい遊びたいよねぇ」
「普段とそんなに変わらないから…」
「えーっ何それー、勉強ばかりが人生じゃないでしょ!って私がそれを言っちゃダメか」とケタケタと笑う。
「よしっ、じゃあとりあえずどこか遊びにいこーか」
「え?」
「たまたまホントに偶然なんだけど、今日私さ午前で終わりだったから暇なんだよねぇ」
「遊びにって海ですか?」
「…プッ、ほんと、どんだけ遊んでこなかったのよ~他にも沢山あるでしょ~に」
本当に楽しそうに笑う人なんだなと思った。
「はぁー笑った笑った……じゃあ海行こうか!」
「海はちょっと…」
「あー水着ないもんねぇ」
「それもそうですけど…」
「んー?もしかして泳げない人?」
「…」
「あ、違う違う、バカにしてるわけじゃないよ? それに私も泳げないから!」
胸を張って、まるで誇らしげに自分の弱みを言えるこの人を、少し知ってみたいと思ってしまう。
「海って何か怖いんだよねぇ…足がつかない、底が見えないって、想像するだけで無理ぃ」
「確かに、自分も似たようなものですよ」
「お、分かってくれる感じ!?…周りにはバカにされるけどさー、そういう時は『こいつ小っさいなぁ』って思ってやることにしてる!クスクスクス」
「強いんですね…」
「えー、そうかなー?…そうかも、だって自分は他の誰でもないんだから!」
「他の誰でも…」
「何か今のさ、先生っぽくなかった?ねっ?」
「いや先生なんですよ実際」
「そういう意味じゃなくて、勉強とか教えるより、私はもっと内面的なとこを教えたいんだよね」
「…いつか…教えてくださいよ」
「うん、任せといて!よし、じゃあそろそろ行こっか!」
ちょっと待ってね~と言うと、少し離れたところに歩いていき電話をかけ始める。
「ゴホッゲホッゲホッ…そーなんです、多分風邪だと思うんですけど…ゴホッゴホッ」
あー…客観的に見るとこんなに滑稽なのかと思いつい笑ってしまう。
「はいー、2、3日あれば治ると…はい!わかりました…え、元気そう?いやゲホッゲホッ…そんなことはゴホッ…了解でっす。はい、ではお疲れさまでしたー」
電話を切ってこっちに戻ってくる。
「なんか、笑ってなかった?」
「周りから見たらあんな感じなのかって思って」
「え、いやいやいや、迫真の演技だったでしょ?」
「多分自分よりヤバかったですよとだけ」
「・・・精進しますっ、さ、それより早く行こっ、ここにいたらバレちゃう!」
前を走る彼女の背中を見ながら、あんな電話しといてこんな全力疾走してるとこ見付かったら何て言い訳するんだろうと考える。
「うへぇ…ホントに暑いなぁ」
赤い小振りな車の横につくと、カバンから鍵を取り出しロックを解除しササッと運転席に座ったと思ったら、すぐさま外に出てきて「あっつーーい!」と叫ぶ。
「こんなの死ぬわ!というか手ヤケドしたっ!」
持っていたペットボトルを取り出し「水かけます?」と言うと「かけてかけて」と足踏みしている。
「いやぁホントにさっきはヤバかったよね!」
「先生止める間も無く入っていっちゃうから」
「…みんなのつきはあかねいろ」
「え?」
「ほらほら優等生~」
「…なんですか?」
「もうしょうがないなぁ、じゃあヒントは漢字、だよ」
「漢字?あぁ漢字にしろってことですか?」
ニヤニヤしながら前を向いたまま、鼻歌混じりに「フンフフ~ン♪」と奏でながら、指ではハンドルをトントンとリズムをとっている。
「みなづきあかね先生?」
「はい、ぶっぶー」
「あれ?違ったかな」
「先生なんてついてませーん」
「…皆月 茜…さん?」
「ふむぅ~『さん』呼びかぁ、まっ今日はそれでいっか!」
「とりあえず正解にし」
急に脳が揺さぶれたように感じた。
一体何がどうなっているのか分からない。
音が聴こえない、目の前の光景は回転し続けている。
色々なものが散乱し視界を行ったり来たりしている。
全てがゆっくり見えるなか抗えない睡魔のようなものが襲ってくる。
「おい!事故だぞ!」
「横から当たったみたいだな…」
「だ、誰か電話しろって!早く!」
「こりゃ酷いな…」
あれ?地面が上に…あ…る…。
そうして既に閉じてしまった視界は暗闇に支配されている。
けど、誰かが叫んでいるのは聴こえてくる。
事故…。
…あぁ、事故ったのは-。
「…っはぁ!はぁ……夢…か…」
起き上がり安堵したのも束の間。
身体は止めていた痛さを徐々に戻してくる。
「これって…包帯?」
腕に巻かれた包帯に気付き、見えない他の部位を触って確認する。
「頭と、脇腹か…何でこんなことに…」
不意に頭がズキズキと痛み出す。
「…何か忘れているような……そうだ…確か事故に……その後どうなったんだ?」
包帯が巻かれていることから処置はされたんだろう。
でもこの場所は病院とは程遠い…
というよりここは…
「体育館…?」
ガサガサ後ろから音がして振り返ると、数人の人が横になっていた。
「え…一体なに…」
奥の方から歩いてくる人が話しかけてきた。
「し、霜触君?」
「先…生…?」
〈 あーあー…コホン、えー、はい皆さんこんにちはー 〉
〈 まだ理解できてないですよねー?そーですよねー? ですが安心してくださーい 〉
〈 これからキチンと説明しますので! みなさんに行ってもらうゲームを 〉
「ゲーム…?」
「霜触君これは…」
「え、いや全くわからないですけど…」
〈 ではまず始めにゲームの名前をお伝えしまーす 〉
〈 その名も【命の天秤】でーっす! 〉
[天才]と呼ばれた彼の過去の物語。
何をどう選択し、その果てに目にする光景は。
願わくば、これから先を見聞きする者は彼の奥底に最後に残った感情を、肯定も否定もしないで欲しい。
きっとそれは彼にしか分からないことだから。




