【一日目②】説明のお時間
未だに皆は困惑している。
これまでとは真逆の目的を示されれば当たり前だ。
嘘、偽り、裏切り、欲望、野望 - 。
あらゆる醜悪を詰め合わせたサーカスの中、こっち側はただ[客]を楽しませるだけの道化役。
泣こうが喚こうが死のうが…殺そうが[向こう側]からすれば、それらはただの娯楽の一つに過ぎないのだろう。
「前回もそうだったけど、勝手に連れてきて、勝手なルールで強制させて! あんなことさせておいて、今度は誰も死ぬな?ふざけてるの?!」
これまで一言も話さなかった女が、捲し立てるように早口で怒鳴り続ける。
「もう十分! 誰も死なないんだったらやらなくていいでしょ! 家に帰してよ!」
〈 ジ------ジジ---- 〉
「ちょっと!聞いてるの!?」
〈 ジジッ …んー?終わったかなー?〉
「聞いてなかったワケ?!」
「おい、もういいだろ、疲れるだけだぞ」
怒りのおさまらない女の肩に手を置き男が言う。
「なにあんた?セクハラなんだけど?」
肩に置かれた手を睨みながら女が言うと「ごめんごめん」とパッと手をどける。
「でもさ、言い続けても無駄なことくらい分かってるんだろ?」
「……分かってるわよ、そんなこと。ただ一言言ってやりたかっただけ」
「まぁ、いまいち話が掴めないから聞くだけ聞いとこうぜ」
〈 ジ-…皆さん、…お静かに…ジッジ-… 〉
「でも、どうせルールは以前と同じなんだろ?聞くだけ無駄じゃね?」
「どうですかね…目的が変わるならルールも変わるんじゃないです?」
「うん確かに。そうでないならワザワザ別の目的にしても…」
それぞれが小さなグループを自然と作り話し合いをしていると - 。
〈 キーーーンッ!……ボーー…ジジ…ジ… 〉
突然スピーカーから鳴るハウリング音に、一斉に耳を塞ぎ会話は中断した。
〈 はい、いいですかー? えー、皆さんが静かになるまでに67秒もかかりましたー! 〉
「・・・」
〈 あれー?笑うところですよー? 〉
「・・・」
〈 まっ、やっと話を聞いてもらえそうなのでこのまま話を続けまーす! 〉
誰もが口を閉ざし、その声に意識を集中させる。
〈 まず始めに今回皆さんにおこなってもらうゲームを発表しまーす! 〉
「それこそ今更だろ…」
「やっぱり話聞くの無駄に思えて…」
〈 その名も!【ジンロウゲーム】でーっす! 〉
「え?」、「は?」、「何それ」、「同じのじゃないのかよ…」
口々に漏れ出る困惑から、思うことは同じだと分かる。
「待て待て、アレじゃないのかよ?!」
「うん、確か前回は【嘘と真実】って呼ばれて…」
「ん?嘘と真実?何それ?」
「えっと前のゲームってそんな名前じゃなかったでしたっけ?」
「あんたゲームに参加したことあるんだよね?」
「いや、ちょっと待てよ…もしかして…」
「ふむ…なるほど…」
〈 おっ早速気付いた方が何人かいそうですねー! 〉
〈 で・す・が!ネタバラシは私の生き甲斐ですので譲れませーん! ですので、これから順を追って説明していきまーす! 〉
先程の短いやり取りの中。
話していた者、聞き耳を立てていた者、その場の全員が会話の内容から推測できてしまった。
今はただその答えが合っているのか、それだけを気にするようにスピーカーを見上げている。
〈 えー、過去、何回も実施してきたゲームですがー、1度も同じゲームはありませんでしたー! 〉
「やっぱりか…」
「そりゃ話噛み合わないわ」
「・・・」
「そういうことだね」
〈 そしてそして、今日から始まるゲームも勿論!今回が初めてになりまーす! 〉
「でもさ少し気になったんだけど、何で人狼ゲーム?」
「え、そこ?」
「だって有名じゃん?人狼ゲームって。それなら別ので」
「別のって…まるでゲームの内容を知ってるから他のをやりたいって聞こえるんだけど」
「えっ、いや違くて、そういう意味で言ったわけじゃなくて、ほらさっき説明されたでしょ、みんな違うゲームを…」
「・・・」
〈 クスクスクス… 〉
誰よりもスピーカーに近い場所にいた自分にしか聴こえてなかっただろう。
向こう側で微かに笑う声を。
〈 おや?おやおやおやー? 無用心な発言は疑われるってことくらい過去に経験済ですよねー? 全くしょうがないなぁー まだゲーム開始前だから特別に弁明チャンスをあげましょう! 〉
「べ、弁明って言われたって…」
周りの人から距離をとられた女は、考えているのか思い返しているのか、しばらく目を閉じていた。
「スゥー…フゥ……わかった、何を話せばいいの?」小さく呼吸をし問いかける。
〈 そうだねー…あんまり長くなってもあれだから、参加したゲーム名、それと誰でもいいから1人、そのゲームで[どういう殺し方]をしたのかをお願いしまーっす! 〉
ボソッと「最低・・・」と言いそのまま続ける。
「わたしが参加したゲームの名前は【善悪の断片を一つに】って呼ばれてた」
「さっぱり分からないな」
「ふむ…善悪…断片…」
「何なに?なんか分かった感じ?」
「え?あ、まだ全然分からないですよ」
「そっか…ま、あれで分かったら逆にヤバイな」
彼女は両の手のひらを見詰めながら話し出した。
「…どうやって殺したか…。みんなも多分あったでしょ[キーアイテム]ってのが。私の参加したゲームでは[薬]だった。私は[彼]に毒を飲ませた…」
彼女の発する声のトーンや話し方で、皆は自らの過去を重ねたように哀れみや共感するような表情になる。
その空気の中で、端で腕組みしていた男だけ「薬・・・」と小さく微妙な反応をしていた。
〈 はい、ありがとうございましたー! いやーお辛いお話で聴いてるこちらも心が苦しくなりましたー! 〉
「…心なんてないだろ」
〈 イチイチ茶化すならもう説明やめましょうか? 〉
「・・・」
〈 はい、そうですねー。余計なことは言わないで黙って話を聴けますかー? 〉
「・・・」
〈 無言は肯定ととりますねー。では、そろそろ今回のゲーム内容とルールを説明しましょう! 〉
スピーカー下の壁に掛けられている液晶モニターから「ブウン」と音がし画面がつく。
〈 ではこれから下のモニターを使って説明していこうと思いますが…その前に軽くこれをご覧くださーい 〉
みんなは自然とモニターの前に集まる。
そのモニターに順々に映し出される文字。
【手枷足枷】
3日
【善悪の断片を一つに】
4日
【嘘と真実】
3日
【金か誉れか支配かを】
4日
【命の天秤】
1日
〈 はい、ここまでー! えーみなさん既にお気付きでしょうが、過去のゲームをランダムで… 〉
この中でも特に若い、少年という言葉が似合う風貌をした者が「ふむ…5と15…計算がくるってくるな…」と言うと、その言葉を聞いた長身のスーツ姿の男が体を低くしコソコソと話しかける。
「…へぇよく分かりましたね」
「いや、お前がボソボソ言ってたの聴こえてさ、改めて考えたら確かになって思って」
「おっと、そうだ、俺の名前は…」
「真中景行さんでしたね。2016年…今から10年前にゲームに参加でしたね?」
「・・・え、何?さっきのだけで覚えたのか?全員?」
「えぇ、まあ」
「あ~…あのさ…悪い、名前聞いてもいいか?」
「…」
「お前みたいに覚えるのなんて無理だから!」
「霜触悠、23齢です。 ゲームに出たのは6年前です」
手を差し出した真中と握手する霜触。
〈 …何やら理解したような方がいるようですので、皆さんへ簡単に説明してもらいましょーか 〉
〈 ではーどっちがいいですかねー… 〉
「俺が説明する」
真中が一歩前に出る。
〈 …わかりましたー、では…霜触くん、お願いしまーす! 〉
「おい!俺がするって」
〈 うるさいってば。いい加減黙って言うことききなさいよ 〉
「・・・」
〈 それに、霜触くんなら安心だしねー。何せ最短ゲームクリア者だしねー 〉
微かにザワつくモニター前。
ざわめきを掻き分けるかのように真中が言い放つ。
「いいだろそんなこと、どうだって」
〈 まぁそれを決めるのは個人の自由だからねー。 私は事実しか伝えないからー 〉
「…最短って何日?」
誰かが聞いた。
「日数が関係あるのか?」
「あるだろ、遊びじゃないんだ」
「だからって」
〈 3日だよ 〉
「は?」
「3日って…」
〈 あー付け足しとくと、その子、一人でみんな殺してるからねー 〉
[重い空気]という言葉すら軽く思えてしまうような、耳が痛くなるほどの静かさと、いたたまれない雰囲気にのまれ、さっき聞いたゲームの説明のことすら忘れてしまう。




